五十話 【出発】
見送り後は急に忙しくなった。
大佐が視察に来てた数日分の仕事がどっとやってきたのだ。
まず、先日の帝都からの便で送られてきた資材、食料のリストやらは・・・マルクスが片付けてくれたようだ。
それ以外で俺がやらなければいけないのは、人員の配置だ。
デフロットさんにちょろっと話しただけだが、その人材が揃ったのだ。
どういった人材かと言うと、化学に詳しい人たちだ。
名簿を見ると、驚いた事に錬金術研究会の先輩達が部下として働くことになった。
これは素直に助かる。
というのも、蓄電池に使われてた硫酸や電球のフィラメントなどの素材は全て錬金術研究会を通して入手していた経緯もあり、仕事を頼む時も話が通しやすい。
彼らにはここで蓄電池の製造と、電気分解で金属の純度を上げる研究をしてもらうことにしよう。
そして、研究会の先輩達以外にも新しく士官が2人も来ている。書類によると元海軍の人で、なんで陸軍に異動することになったのかはまでは書いてなかった。
あ、書いてあった。
しかも異動じゃなかった。
派遣だってさ。
「うちが何してるか見に来てるんですよ。新設されたばかりですし、海軍のことだから粗探しかもしれませんね」
だそうだ。
マルクスが言うんだから間違い無いだろう。
どうやら今年の予算案で、海軍と陸軍で予算の奪い合いをしていたところ、陸軍に新しくできた兵站科に予算が取られてしまった事に腹を立てて送ってきた感じらしい。
という事で、礼儀がどーたらとか言われたく無いので挨拶だけはしておくが、階級は俺の方が上なのでもちろん来てもらう。
マルクス曰く、何があっても舐められないように威厳は保て!という感じだ。
「で、俺はどう接したらいい?」
「そうですね、完璧な士官を演じて下さい」
完璧な士官って何だよ。
「中尉の場合、優しいところが目立つので・・・偉そうにして下さい。それでイケます!」
グッじゃない。
まあ要するに、ドキュメンタリー映画や俺の勝手な偏見で演じろって事か。
楽しそうだ。
なんだかんだウキウキしてると、ドアがノックされ、マルクスが2人を通す。
「海軍から派遣された、ユリウス・ハーマンです」
「ショー・グリークです」
わあ、名前が似てる。
「ショウ・グレイプスだ。まあ、そこら辺に掛けてくれ」
テーブルを挟んで話をしたが、しばらく働いてもらって、海軍に戻った時にうちがどんなとこか報告する感じらしい。
最後に、ここで使う身分証を渡して決して無くさない様に命じた。
「めんどくさい監視をつけられましたね」とマルクスはボヤいていたが、上官からの命令書があっては断れない。
それはそうと、俺にはもう一つやる事がある。
ルーマン大佐が帰った後に、補給隊から届いた書類を整理してると、なんと招待状が入っていたのだ。
正確には伝令使が俺宛にマルクスに渡した物らしいが、中にはストリアの軍事式典の正式な文書とはまた別に、招待状とそのスケジュール、定員など詳細が書かれていた。
で、一緒に入っていた紙も読んでみると、「それなりの正装をし、立派な馬車で国力を示す事。ショウが実現可能と思った物はどんな物でも持ってっても良い」
ほう、追伸。
あとでセバスチャンにデフロットさんがどんな人かもう一度聞いておこう。
追伸で「大勢で行ける様におじちゃん頑張ったよ」と、書くくらいだ。
署名は・・・デフロットさん。
署名無くても追伸の内容で分かるよ・・・
しかし、そうか。
「実現可能な物・・・ね」
ニヤニヤと笑みを浮かべた俺をみて、マルクスが若干引くが、俺は特に気にせず家を後に作業場へと向かった。
そして約2ヶ月が過ぎ、ストリアへ行く直前にしてそれは完成した。
そう、ただの自己満足だ。
格好つけたかった。
俺がやりたかったからやったのだ。
〜〜〜〜〜〜
ストリア国・首都サトゥルムへの出発当日、俺は鏡を覗いていた。
鏡は錬金術組が銀鏡反応で作ったもので、今までのものより大きな綺麗な鏡を作る事ができるようになった。そして、そこに映り込む自分がいた。
使用人とも言われそうなビシっとした汚れの目立ちにくい黒い服。ズボンの裾を長靴に入れた様はまるで冒険者だ。しかし、肩と腰のベルトでつけられたホルスターが軍人を思わせる。肩には階級章を、頭には制帽をかぶり、正面にはレコードを思わせるような銀の円板を中心に、両脇にはバランス良く麦の模様が付けられていた。
「回転する車輪、か」
これが、俺とマルクスと一部の関係者達で作ったロア帝国陸軍兵站科部隊の将校用の制服であった。
そして、ダンダンッと扉を叩く音がした。
乱暴に叩いているわけでは無いことは分かっている。まだ早朝で気温が低く、握った拳が冷たい扉に当たるときには既に硬くなっていたのだろう。
「グレイプス中尉!全員、揃いました!」
マルクスも階級章無しの同じ制服に着替え、防寒用のコートを着ていた。俺もコートを羽織り、マルクスと一緒に家を出る。
「すーっはぁー」
冷えた空気の中で白い息を吐き、目の前に並んだそれらを見て笑みを浮かべる。
一緒に行く護衛の兵士は作業帽を深く被り、戦闘服を兼ねた作業着の上に防寒コートを着ていた。コートの腰にはベルトと共に短剣がぶら下がっているのが見える。
そして、兵士が俺が家から出たのを確認すると、先頭に停まってるボンネット型3トントラックに乗り込み、バムッとドアを閉めた。
俺はマルクスと共にそれのある方へ歩む。
真っ黒に光るそれは、昔作ったプラスチックの模型とは比べ物にならなかった。
完成した時も思ったが、こうして車列に加わると、なんとも言えない達成感を感じる。
2人で後部座席に乗る。
車内は決して広く無いが、柔らかい座席が全てを解決してくれるように思えた。
暖気された車内は暖かく、嬉しそうにする俺を運転手がルームミラーで確認すると、ビッビーとクラクションを鳴らした。
それが出発の合図だ。
クラクションの音は後で変えたほうがいいな・・・
ブルルルルッ
アイドリングしてたエンジンが少し吹き上がると、ゆっくりと景色が流れ始めた。
少し加速し、ガガッガッとギアが噛み合わない音を鳴らしながらも何とか変速してウィーンと変速機が音を鳴らす。
最高の乗り心地だ。
地球と比べたりはしない。
今が、そう、今が一番最高なんだ。
「しかし、本当に乗り心地いいですね」
「だろう?」
「前回作った車の反省を活かし、前の足回りは独立したバネ式、後ろは板バネ式にしたんだ」
前作った車?作ってたの?とでも言いたげなマルクスを差し置いて、勝手に説明を続ける。
「エンジンは4気筒から6気筒に変更して、エンジン本体はゴムを通して車体に取り付けられてるから振動が少ないんだ」
「へ、へぇ」と言う表情をするマルクスだが、俺は気にしない。
「あとは、そうだな・・・燃料を回復薬からアルコールに変えたのも乗心地に関係するかもな」
まあ実際、回復薬からアルコールに変えて正解だった。
ピストンとシリンダー上部に爆破の魔法陣を彫るときの事故が頻発したり、エンジンオイルとして使ってたスライムの粘液の魔力が原因で事故が起こることもあり、魔法陣は封印してしまった。
そもそもスライムの粘液に含まれる水分がエンジンを内側から錆びさせていた。
しかし、燃料がアルコールになった事で、作る時に濃度を一定に保つことができた。何より、燃費が伸びたのが大きな成果だ。
機械油と医療用としても流通してるひまし油をエンジンオイルとして使ったのも大きかった。
話す俺に相槌をしながら聞くマルクス。
側から見れば、話に付き合わされてると見えるだろうが、そんなことはどうでもよかった。
俺はそのまま話を続けた。
時より、馬車に作られた轍に足を取られながらも、車は前に進んだ。
一方、マルクスは翔に話を合わせながらもこんな事を考えていた。
(しかし、海軍から来た2人も連れてきちゃって大丈夫かな?まあ、断れないけど・・・しかしコレは凄い。馬車で数日かかる距離もこれなら数時間だな)




