四十九話 【都市設計】
「少尉、馬車が到着した様です」
「お、来たか。じゃあ行ってくる」
「はい」
帝都から新しい部下と資材の補給馬車が来た。
馬車に向かうと、当分の食料、道具、衣服など必要な荷物が届いていた。
兵站とは?という疑問が一瞬頭の中を過ったが、まだ完成した部隊じゃないし仕方ないと思うことにする。
「君がグレイプス少尉かね?」
「え?」
マルクスに渡された物資のリストを確認していると、軍の正装で腰に帯剣をし、口髭を生やしたおじさんがいた。
そして、左右には護衛と思わしき兵士が一人ずつ・・・
わあ、偉い人だぁ。
俺は背筋を伸ばし、足を揃えて「はいっ!」と返事をして、とりあえず地球での敬礼をした。
「ほう、兵站科はそういう敬礼か。悪くない!」
この国の敬礼など知らないからとっさの行動だったが、気に入ってもらえたようだ。
「まあ、楽にせい。ここじゃなんだし、君のとこで話そうか」
「はい、では・・・こちらへ」
と、俺が使ってる家へ案内する。
「そうだ、まだ名乗っていなかったな。私はエドガー・ルーマン。階級は大佐で、君の上司である。ここの視察に来たと思ってくれればいい」
帝国の証印が押された紙に目を通しながらルーマン大佐と護衛を連れて家に向かうと、マルクスが既に来客の準備をしていた。
「ルーマン大佐、お待ちしてました」
コイツ知っていたな・・・
「ああ、邪魔するよ」
と言って中に入る。
護衛の2人は玄関で待機だ。
「まずはグレイプス少尉。略式だが、君を中尉に昇進する。色々あって渡せてなかったが、これが身分証だ。階級は既に中尉に修正してある。昇進おめでとう」
「ありがとうございます」
大きさはハガキより少し大きいくらいで、二つ折りになっていた。
開くと名前、階級、所属部隊の必要最低限の物だけが書かれていた。
氏名:ショウ・グレイプス
階級:中尉
所属:ロア帝国陸軍兵站科
発行日:帝国暦108年3月1日
111
顔写真はもちろん無かった。
「大佐、この111は何の数字ですか?」
「それは発行地だ。いくつかのエリア、人事局があって、帝都は111番だ」
「分かりました」
すると、ルーマン大佐はもう一冊の身分証を取り出した。
「マルクス君、君もだ。グレイプス中尉の補佐官、中尉付としての身分証だ」
「ありがとうございます」
マルクスが受け取った身分証の確認を終えると、ルーマン大佐はこう続けた。
「2人とも無くすなよ?再発行できるが、時間がかかるし、何より書類を揃えないといけないから面倒臭い。もう一度言うが、とにかく面倒臭いから絶対無くすな」
「「はい」」
話が終わると、タイミングを狙っていた護衛の1人が「大佐、お荷物です」と言いながら大きなトランクケースを1つ持ってきた。
別の人が下ろしたのを受け取ったんだろう。
「ご苦労。そこに置いといてくれ」
「はっ」
トランクを開けたルーマン大佐は、一冊のファイルを取り出して俺に渡した。
「グレイプス中尉、ここに今いる兵と新しく配属された兵の名簿が載っている。彼らの身分証は配布済みだ」
へえ、結構しっかりしてるな。
「身分証って全員持ってるんですか?」
「いや、デフロット学院長の指示で始めたばかりでな。何も、重要な人物や部隊でのみ使うことになった。一般兵は冒険者ギルドが発行するギルドカードで十分だからな。だからここは特別だ」
てことは、身分証を持ってるのは兵站科ぐらいか?
確かに、車や飛行機も普及させる予定だし、多分この世界で最先端の技術を使う場所だから身元確認が必要になるのは分かる。
「まあ、そう言うことだから、書類仕事は任せるよ。あとこっちがリストに載ってる兵の出身地や家族構成やら何やらが書かれた書類だ」
と言うと、トランクの着替えの下にあった十数冊のファイル取り出してテーブルの上にドサっと置いた。
ページ、一枚一枚が重要な書類である。
こんなにあるんかよ・・・
「じゃあ、この町を案内してくれ」
「あ、はい」
書類整理はさせてくれないのか。
マルクスに目で合図を送り、整理をお願いしておく。
その後、村を回りながら質問に答えていく。
「ここが工場の建設予定地です」
「工場?一体何の?」
「自動車です」
「ジドウシャ?何だねそれは?」
お決まりの質問だな。
「自動馬車と言えば想像できますか?」
「ん?勝手に動くのか?」
「ええ、まあ。正確には人が運転しますけど・・・動力はエンジンで馬は使いません。それでエンジンが馬車、いや・・・自動車を動かす原理ですがーー」
なんて話してるうちに川まで着いてしまった。
「中尉!あれは何かね!」
内燃機関の説明の途中で話を切られてしまった。
せっかく面白いところだったのに・・・
「あれは水力発電所です」
「水力ハツデ・・・そこはどんなとこかね?」
元々石橋が掛かってたところを改築して、水車と水車を覆う建物を追加した。
一見すると小さなダムに見えなくもないが、水流に水車を設置して建物で覆っただけなのでダムではない。
「電気を作るとこです」
「電気とは、雷とかのビリビリってくるアレかね?」
おお、大体の認識は一緒なんだな。
「そうです。雷と比べたら電圧は低いですが、同じ電気です」
「まて、まさか・・・」
歩みを突然止めたルーマン大佐が焦った表情で俺を見た。
「学院長は、雷兵器の開発に成功したのか・・・?」
ん?
「電気は兵器ではなく、普段の生活で使います。まあ、感電の危険はありますが・・・」
「普段の生活?はぁ」
まるで言ってる意味が分からないと言いたそうな顔で俺を見た。
「詳しくは中で」
「お、そうだな」
中に入り、発電所を管理してる人に挨拶する。
「ん?天井に付いてる明るいのは何だ?ランタンではないようだが」
「これは電球です。発電した電気で灯しています」
「ほお・・・」
そんなずっと見てたら眩しいと思うんだけどな。
そして、管理室の壁の向こうでは直径約5mの水車が回転していて、変速機を通じて発電機へ繋げられている。
そこも見せた。
「これがそうなのかね?」
「はい。で、奥に見えるのが発電機です」
他の発電方法も軽く触れながら簡単に説明したが、ルーマン大佐も構造や原理はちゃんと理解してくれた。
発電所を見終わると、俺たちは村へ戻る事にした。
「あれは何をやっているんだ?」
「電気を送るために電線を張っているんです」
「ばるほど」
送電線の工事が終わっておらず、発電所内でしか電気は使えないが、工事が終われば村にも電気が来るようになる。
「ところで中尉」
「はい」
何か気付いた様な表情で俺を見るルーマン大佐。
「今ふと思ったんだが・・・」
難しそうな表情をするから思わず唾を飲んだ。
「川が増水したら、発電所はどうなるんだ?」
「水没します・・・」
「干ばつの時は?」
「水流が足らなくて発電できなくなります」
「干ばつってあるんですか?」
「無いが、川の氾濫は数年に一度ある」
やらかしたな。
「その、とても言いにくいんだが、他に水車の代わりになる物って無かったのか?火力発電とかいう、水を沸騰させて風車を回す方法とか」
その方法がありました・・・
「そっちの方が安定するんじゃないか?」
「安定しますね・・・」
ルーマン大佐の言う通りだ。
なんで水力発電所を作っちゃったんだろう。
火力の方が場所も安全なとこに作れるし、出力も安定させれる。
この世界には魔力という燃料もあるしメリットがいっぱいあるのに・・・
まあ、火力発電所も川の近くに作ればいいか。
ポンプも建設予定だし、発電所と一緒に全部建てちゃおう。
「グレイプス中尉、一ついいか?」
「はい」
な、なんだ?
「水力発電所で川が塞がれてる感じに見えたんだが、船が来たらどうするんだ?」
「あー・・・」
水力発電所は、完成後数日稼動した後解体が決まった。
どうやらインフラ設計は俺には向いていない様だ。
最初から火力発電でも良かったな。
まあ、笑えるくらいに俺の計画がガバガバ過ぎて、その後どう過ごしたかは覚えてない。
最後にはっきりと覚えてるのはルーマン大佐を見送る時だけだった。




