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四十八話 【新しい職場】




コンコン

と扉を叩かれる。


「ショウ?なんか来たけど、昨日言ってたアレかー?」

「はーい。今行きまーす」


今日はロジャーさんが見送ってくれる事になった。


支度を手伝ってくれたロジャーさんに倉庫の作業員宛の手紙を渡し、荷物を持って屋敷を出る。


「じゃあ、お願いします!」

「ああ。ちゃんと渡しておくよ。配達も商会の仕事だからな!」


簡単な別れの挨拶をして屋敷の門へ向かう。

屋敷の敷地門の前に停まっていたのは、屋根がオープンの至って普通の馬車だ。


いかにも「急いで用意しました!」という感じの馬車だ。


冒険者か?それとも案内人か?彼は帯剣しているが、御者もその案内人も鎧や軍服を着ている様子も無い。

まあ、記載が無かったから俺も普段着だ。


「はじめまして。本日付で少尉の補佐を担当することになりました。マルクス・ポートフです」


案内人でも護衛の冒険者でもなかった。


「どうも。佐藤・・・じゃなくて、翔・グレイプスです」


ちょっと怪しまれたかな?

自分でグレイプスって名乗るのは違和感があるし、これから使っていくことになる名前だ。

慣れるしかない。


「よろしくお願いします」


しかし、補佐か。

随分と若いな。

少尉の俺もだけど・・・


「ではこれからドワイノーイへ向かいますが、荷物はそれだけですか?」

「はい」

「ところで、例の荷物はどちらに?」

「例の荷物?」


何だ?


「学長から聞いてませんか?」

「聞いてないです」


と答える。


「それと、自分に敬語は不要です。少尉は上官ですから。普段からそのような口調ですか?」

「そうだけど」


マルクスは何か思い出したかのように話を続けた。


「2日目でしたね。部下に舐めらますので、これからは常語か命令でお願いします」

「分かった」


部下に注意を受けた・・・


でも軍ってそういうものなのか、へぇ。


「気をつけるよ」


そして着替えや筆記用具の入ったものと、実験に関する書類と小物の入ったトランクケースを両手に持ち、馬車へと向かう。


「少尉、例の荷物は?」

「具体的に言ってくれると助かるなぁ」


困り気味に言うと、マルクスは周囲に人がいない事を確認してから馬車の後部にトランクケースを載せようとする俺に近づいて、ポケットから紙を出して俺の目の前で広げた。


「これは、ブザーと・・・電信機の設計図じゃないか」

「シーッ!機密ですよ!」


確かに機密扱いだろうな。

これは俺が悪い。


「用意しろって?」

「学長に言われませんでしたか?」

「言われてないよ」

「えっ」

「え?」


なにこのすれ違い感。


「学長・・・」

「えっ?」


無いものは無い。

マルクスはため息をつくと、荷物を載せるのを手伝ってくれた。

それから馬車は出発した。


道中マルクスによると、デフロットさんに電磁石を見せた時の雑談程度に喋った電信機の話を元に、マルクスと2人で設計図を書いたらしい。


流石だ。


しかもモールス信号のような表もすでに完成していて、屋敷とドワイノーイを電信で繋ぐ計画まで立ててた。


ところが、俺は話すら知らないときた。

もちろん電信機は完成しておらず、計画はおじゃん。

デフロットさんが俺に伝え忘れたようだが、マルクスは悔しいようだ。

普段、そういったものは無かったと思うけど、デフロットさんも疲れてたのかな?


「随分と楽しみにしていたんだな」

「ええ」


任務の確認をし、帝国軍について教えてもらう。身だしなみや規律、上下関係は特にだ。人への接し方を根本的に変える必要があることは理解できた。

後はドワイノーイに着くまでほぼ雑談だった。


話を聞いていくと、薬の調合で新たな発見をしたり、魔法を改良とかしてたらデフロットさんの助手にしてもらったとか、かなり興味深い話が聞けた。


マルクスはかなり優秀で、話は分かりやすく、想像もしやすいように話してくれた。そして補佐らしく、道中、士官としての俺の振る舞い方や、義務などを教えてもらった。


デフロットさん、こんな有能な補佐官貰っちゃって良いんですか?

と思うくらい感心する。


そして、集落を経由しながら6日ほどでドワイノーイに着いた。


そう、ドワイノーイに着いた。


着いたんだが・・・


「廃村?」

「はい」


木造の家は土台や柱が腐り傾いていた。

屋根が潰れていて、乾燥した植物が絡まっていた家もある。

石やレンガの建物も何棟かあるが、使われている様子は無い。

大きめな通りに使われてる石畳の道路の隙間には苔が生えていて、10年以上は使われていないように見えた。


でも、住民らしき人が20人くらい居るし、何処かちゃんとした場所があるのだろう。

と思いながら住民へ挨拶に行ったら、住民ではなく、軍人と大工などの労働者だった。


しかも、全員、デフロットさんがコネを使って引き抜いた人達らしい。


みんな普段着だから分からなかったよ・・・


そして、マルクスの持ってた計画書通りに暇な部隊に村の開発を指示した。


しばらくはテント暮らしだ。

と思ってたのだが、2日目には家で寝ることができた。


使える建物は修復して、無理なものは取り壊して新たに建てた。


石造りの家は、屋根と扉を直せば数日で住めるようになり、帝都からあらかじめ持ってきてたガラス板で窓は直された。

もちろんサイズが合わないものは合わせてからだ。


これで暖炉も使えるし、夜凍える事もない。

たまに軋む床とぼろぼろの壁は・・・仕方ない。

そのうちに直してもらおう。


しかし、俺の知らないうちにこれもマルクスの指示で綺麗になっていた。


それも俺が住むとこだけではなく、他の家もだ。


道は砂利で舗装され、どこで聞いたのか知らんが、木製の電信柱も建てられ各建物に配線がされた。


しかもこの電柱もマルクスが考えたらしい。

発電機はまだ設置されていないが、送電と通信をするのが目的である事も説明された。


さらに数日が経つと、他の建物の修理も終わり、新しい家も建てられた。

なかには壁にモルタル塗った後、大きなスタンプで石模様をつけた家もあった。


あんな感じで模様つけるんだ。

と思いながら、気になった事をマルクスに聞いた。


「マルクス」

「はい」

「流石に建てすぎじゃないか?」


数日に一度、物資を運びにくる関係者を泊めたとしても、明らかに建物が多い。

作ったはいいが、全く使われていない家が3、4軒ある。


「それでしたら、労働者の家族もここへ引っ越す予定です」

「そうなのか」

「そうなんです」

「そうか」

「はい。こちらが名簿です」

「・・・」


と、数十人の名前が載った名簿をマルクスに見せられた。


わお、どんだけいるんだ・・・


まだまだ建設ラッシュは続きそうだと思った。


「しかし問題が出てくるんですよね」

「どうした?」


珍しい。

マルクスから相談だなんて。


「今は村ですが、人口1万人くらいの軍都に開発しなければいけません」

「軍都!?」

「はい。しかし、土地に余裕がありません」

「土地を拓けばいいんじゃないか?」

「いえ、重要な施設も建設しますし、周りの畑を埋める訳にもいきません・・・」


ふむ。

なるほど・・・


ここ数日のマルクスの指示や書類に目を通せば、自動車工場や軍事施設の建設を目的に送り込まれた事は察しがついたが、まさか軍都を作るのが目的だったとは・・・


「マルクス、地図を確認したいんだけど持ってる?」

「広域地図でしたら部屋にありますよ」

「よし」


俺とマルクスは使っている家に戻ると、地図を広げて、ドワイノーイ周辺の地形と周辺国の情勢を確認した。


この地図の縮尺が正確ならば、ドワイノーイは帝都から大体200キロくらいの距離にある。

帝都から続く山脈に囲まれ、周りには森林と今は使われていない小麦畑があり、整備された道が通りやすいのは言うまでも無い。


なるほど、攻めにくいからデフロットさんもここにしたのか。


しかし、ストリア方面にも道が全く無いわけではなく、人が通った道や(わだち)も残ってる。

村も廃村ではあるが、中継地点にしてた旅人もいる。

地図に無い道もいくつかあるはずだ。


俺は少し考え、地図で村を指で囲みながらこう言った。


「徐々に拡張していく前提で、これぐらいならどうだ?」

「それだと、必要な施設を建設した時に居住区が足らなくなります」

「集合住宅を作ればいい」

「なるほど・・・」


ヘレンさんの屋敷がそうだったように、レンガやコンクリート造りの構造なら、4階くらいまで作れる。


第二次大戦前に欧州で作れてた様な伝統的な集合住宅なら、今の技術でも十分に作れる。

そうすれば、狭い土地でも大勢が暮らせる。


「上下水道はどうしますか?」

「ポンプの水圧で送るか」


そういえば、屋敷の水道は普通に使えた。

熱湯は確か、蛇口に魔石を埋め込んで水を熱してたんだっけ。

水自体はどうやって流してるんだろう?

不便なく当たり前に使えてたから気に留めなかったが、魔法を使ってるのか、物理的に上まで水を上げてるのかは分からない。


まあ、ポンプで送るから関係無い。


そうと決まればあとは早い。

設計して着工だ。


そして設計中、俺の補佐官が早速改善策を出してくれた。


「少尉、村よりもどこか高い所に溜め池を作った方が高い水圧で送れるかと」


位置エネルギーか。


「確かに!」


給水塔が誕生した。


「あとは、配管だな」


建物を建てるエリアを早めに決め、道の中央に上水道の配管と、下水用の水路を掘り始めた。


せっかく作った道だが仕方ない。


細かい砂利で整備した道も掘り返す事になってしまったが、ここに居る全員が俺の部下と言うこともあり、誰一人文句言わずに仕事をこなした。


途中、帝都からの資源や物資などの援助を受けながらも、2ヶ月くらい経過した。


建物が完成した頃には新しく部下が送られてくるので労働力には困らない。

強いて言えば、指示と管理が大変になってきたくらいだ。


そして、定期連絡の郵便物と一緒に()()からの通知が来た。


「マルクス、これって・・・」

「理由はともかく、朗報じゃないですか!」


書いてあった内容通りなら、俺は中尉に昇進。さらに、大勢の部下を管理をしてくれる士官が数名来る。


なるほど、階級が上がった理由は、新しく来た士官が俺と同じ階級だと問題が発生するからか。

階級が上がったのは嬉しいけど、必ず俺の指示が通るように仕組まれた人事だと思うと気が引けた。


「ん?こっちは何だ?」


もう一枚入っていた。

デフロットさんからだ。


「お、マルクス。今度サトゥルムに休暇に行けるみたいだぞ!気を張らずに行ってこいって書いてある」


マルクスは引き攣った表情を見せたが、そんなに行きたくないのかな?


「それは・・・ちょっと違うと思いますよ」


サトゥルムがストリアの首都の隣町だと聞かされた時は絶望を感じた。


デフロットさんの手紙の意味も分かったが、もう少し地理を勉強しようとも思った。




〜ドワイノーイのプチ出来事〜


集合住宅の建築が進み、配管や配線なんかもだいぶ進んだよ。

でも、配管を鉄にしたせいで、たまに水道水と一緒に錆が流れる事もあった。


赤茶色の水!


濃いのが流れて来たりすると、血の混じった水に見えなくもない。



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