四十七話 【職を手に入れた】
謎の休校が終わり、登校日が来た。
制服も何も無いので普段着で支度を済ませる。
何気に屋敷の時計を見ると10時まであと20分を切ろうとしている。
「あれ?」
慌ててアルフレート先生から貰った時計を見るとまだ8時になったばかりだ。
「遅れて・・・る?」
先生は確か10時までに来いと言っていた。
このままだと間に合わないぞ!
ヤバいと思いつつ急いで屋敷を出る。
馬なら間に合うか?と馬小屋へ走る。
「おはよう」
「あ、ロジャーさんおはようございます」
「どうしたんだ?そんなに慌てて・・・」
「学院で貰った時計が遅れてたんですよ!今遅刻しそうで・・・10時までに行かなきゃいけないんです。馬借りますね!」
ロジャーさんは「ん?ちょっと待てよ」と言いたそうな顔をすると、何故か懐中時計を2つ用意して時間を確認し始めた。
「ショウ、多分だが、まだ8時ちょっとだぞ?」
「え?」
乗馬の準備を止め、俺も時計を確認した。
ロジャーさんの持ってた時計は、確かに8時ちょいだ。
「お前、屋敷の時計見たんじゃないか?」
「はい。見ました」
するとロジャーさんはもう一度2つの時計を見せてくれた。
片方は10時くらいを、もう片方は8時ちょっとを指してる。
「あっ!」
そうだった!
屋敷の時計は何故か数字が10個しか無いんだ。
そりゃ、針の進む速さも変わるよ・・・
ほっと胸を撫で下ろして一安心する。
「ふう。ありがとうございました。もう遅刻するかと思いました」
「はっはっ!まあ、気をつけるこった」
「はい、気をつけます」
はちゃんとゼンマイを巻いた筈だ・・・
というより、スマホの時計もあるんだった・・・
懐中時計との誤差はあるが、ここじゃどっちが正しいかも分からない。
標準時があれば一番助かるんだけどな。
そして少し時間を潰した後、予定通り学院へ向かった。
道中、兵士を何回か見かけた。
顔出しヘルメットを被り、軽装備の丸みを帯びた金属鎧が特徴で、盾マークにシンプルなウルフの頭のシルエットが鎧の腹部にあったからすぐに帝国軍の兵士だと分かった。
軍の兵士は基本的に街中で活動することは無いはずだが・・・
実際どうなんだろう?
などと考えながら学院付近で乗合馬車を降りた。
学院へ近づくと、門に後から取り付けたであろう木の看板と、警備と思われる兵士が誰かと話していた。
「よし。通っていいぞ!頑張れよ!」
「次!ここの生徒か?」
「はい」
「名前は?」
「チャールズです」
「チャールズか。少し待て」
そして何やら紙をめくって指でなぞり始めた。
「チャールズ、チャールズ、チャ、チャ、チャーリー・・・チャールズ。ワタソン家のチャールズか?」
「はい」
「よし。お前も通っていいぞ!」
うっわ何だあれ!
検問じゃ無いか!?
「お前もここの生徒か?」
「はい」
「名前は?」
「翔です」
「ショー、シ、シ、シ、あった。ショー・マルコフか?」
マルコフ?
「いえ、違います」
「そうか、じゃあグレイプスか?」
グレイプス?
あーなるほど・・・
何かを察した俺は「はい」と答えた。
さてはデフロットさん何かあったな?
「通っていいぞ!頑張れよ!」
無事、門を通過して自分の教室を目指す。
結構いい人だったな。
学院の敷地内にも軍の関係者がいて、鎧を着ていなくても、平民や貴族が着る服とは違うので判別できた。
廊下を渡る時も、書類を持って走る関係者とも何回かすれ違った。
教室へ入り、生徒の時計でも多少誤差はあったが、時報の鐘が鳴り、定刻である10時になると初日みたいにアルフレート先生がドアを開けた。
「みんなおはよう。そして、ショー・グレイプス君。君は教員棟第一会議室へ行きなさい」
「は、はい」
もう驚きと不安でいっぱいだ。
苗字がグレイプスに変わっていたり、帝都内に軍の関係者が居たり、俺だけ別の部屋に行かされた事を踏まえると嫌な予感しかしない・・・
しかし、まさかここまで予感が的中するとは思わなかった。
「ショー・グレイプス!本日をもって、陸軍兵站科、階級を少尉とする!」
「はい?」
教員棟第四会議室に入り、デフロットさんを含む数名の教員と軍人に囲まれながら、軍の偉い人からそう言われた。
「勤務地はドワイノーイだ。兵站科は今年から新設された兵科だが、まあ詳しい事は辞令と一緒にこの封筒の中に入っている」
と、紙が数枚入ってそうな大きめの封筒をもらう。
「それから、軍人というのは規律を守らなければならん。この本に大体の事が書かれている」
本と言われながらも、渡されたのは厚さが冊子程度のものだ。
表紙には「軍規」と書かれていた。
「明日までに覚えるように!まあ、あの学院長の推薦だから大丈夫だろうが・・・」
デフロットさんに視線を向けると、ニカッと笑って周りに見えないように手をグーにして親指を立てた。
デフロットさんの仕業かっ!
「これから自室に戻り、それらを読んでおくように!明日早朝に迎えが来る。出発できる準備もしておけ!以上!」
えっと・・・?
「返事!」
「は、はい!」
怖っ!
従わないと雷が落ちそうだから屋敷に戻ることにした。
誰にも呼び止められる事も無く門を通り抜け、ちょうど来た乗合馬車で学院を後にする。
車輪と馬の蹄、車体が軋む音が混る中、渡された封筒が気になってロウの封印を破る。
中からは少し変わった質感の紙が数枚、辞令が書かれたものと、任務の詳細が書かれたものがあった。
筆記体は読み難いな・・・
馬車で揺られながら、振動する紙をしっかり握る。
書かれていた事を踏まえ、俺はこの様な物語を考えた。
まず、ストリア国の件もあり、議論が飛び交う。
外交でも舐められては困るし、ストリアと開戦したら今のままじゃ勝てない。周辺国との付き合いもある。
要するにカードが欲しかった訳だ。
しかし、新しい物を作り出すのは容易ではない。
そこで「帝国の文明を発展させよう!軍も強化しよう!」と誰かが言った。
しかーし!
デフロットさんはこうなる事を予想していた!
恐らく、機械の有用性に気づいたデフロットさんが「鉄の生産を今以上に増やせばいい」とか言ったんだろう。
武器とか鎧は主に金属だからな。
「鉄を増やす」に関しては誰も反対しないが、問題はその方法だ。
「鉱夫を増やす?あんな危険な仕事を誰がやるんだ?」「去年、事故もあったばかりではないか!」「雇うための金は湧水じゃないんだぞ!」と反論がでる。
こうなるのもデフロットさんのシナリオ通り。
「重労働は機械にさせればいい」
「そんな、おとぎ話の様にできるか!」
と口論になったかどうかは知らんが、書類の項目に「鉄の生産を増やす魔道具を調達する事」と書いてあるって事は、デフロットさんの案が通った証拠だ。
ちゃっかり「軍用と鉱山用の荷馬車の更新し、新たな魔道具を開発、普及させる事」まで書かれちゃってるし・・・
なるほど、だから兵站科なのか。
デフロットさんからすれば、さぞかし楽しかっただろうな。
まあ、好き勝手に色々作ることを公式に認められたから良かったけど・・・
デフロットさん、もうちょっと相談して欲しかったですよ!
それよりも気になることがあるんだ。
ドワイノーイってストリアに結構近かった気がする。
自分で言うのもなんだが、最新技術を他国の近くで開発するのもどうかと思う。
デフロットさんは何を考えてそこにしたんだろう?
じゃないとしたら、ただ地方に飛ばされただけだ。
厄介払い?
そしたらデフロットさんの案も通らないな。
結局、いくつかの疑問を残したまま屋敷についた。
〜異世界史の豆知識〜
帝国軍の階級制度はとってもシンプル。
下から少尉〜大尉、少佐〜大佐、少将〜大将くらいしかない。
将軍がちょうど大将に当たる役職だ。
貴族が幹部になる場合と、実力を認められて幹部になる場合があるよ。
ただ、不祥事起こすと剥奪される。
公になる前に揉み消すとかしないと人生終わる。
そこら辺は貴族社会と同じ。
因みに、新しく軍を作ろうとすると予算や人員やら場所とか決めるのも大変!
デフロットさんも案を通すのに相当苦労しただろうね。
翔の想像以上に・・・




