四十六話 【狂い始める予定】2
急遽休みになった授業。
俺は、昨日火傷を負った彼の元へ足を運んだ。
文明が浅いこの世界だ。ケガを見てもらえる場所といえば、教会か治療院しかない。
なぜ教会かと言うと、自分の病気を癒すために単に教会と神に希望を託したという説が有力だ。
屋敷の本にそう書いてあった。
それに治療院の数は限られる上、料金がちょっとばかり高かったりする。
ちょっとばかりと言うのは、お金持ちの感覚である。簡単な治療であれば良いが、大怪我や重症で特殊な治療が必要となると、庶民では払えなくなる。
しかし、孤児院を兼任してる教会などは応急処置ぐらいはできるし、教会は募金収入のおかげでお金もかからない場合が多い。軽い怪我人の多くが教会に流れるわけだが、処置できないものだとさすがに治療院へ行くしかない。
幸いな事に、俺は働いてくれる人を管理するための予算が十分にあり、お金をかけてしっかり治してもらうことができる。
まあ、この文明じゃ期待できないが、ちゃんと処置はしてくれるだろう。
結局はお金なのだ・・・
そう思いながら道を進む。
停留所は無いため乗合馬車は使わない。
治療院は一階建の建物が3軒あり、重傷者、軽傷者、職員用と分かれていた。
日中は陽の光を入れるために窓や扉は全開だが、寒いこの季節はあまり開けない。ガラスはまだ高級品なのだろう。ガラス窓があれば贅沢な方だ。
と思って見てみると、何枚かガラス窓を見つけた。
どうやら全部ではないが、所々ガラス窓にしているようだ。
中を覗くと、床に敷いた藁を布で覆ったような物の上で怪我人や病人が、薪ストーブを中心に寝かされていた。
「ここもか・・・」
「はい?」
治療院の人かな?
いつぞやの白ローブだ。
心の中で言ったつもりが、聞かれてしまったようだ。
「あ、いえ・・・実はーーー」
俺は事情を説明し、昨日運び込まれた彼の元へ案内してもらった。
病室は大部屋で、藁に布を敷いたベッドが5、6人分あり、その一つに彼がいた。
上半身を起こし、何やら紙に書き記していた。
「こんにちは。ウィルターさん」
「ん?あ!ショウさん!」
俺が来たのが予想外だったのか、驚いて紙と鉛筆を隠してしまった。
「火傷、どうですか?」
「しばらく痕は残りそうって言われました」
「そうですか・・・」
「あ、でも放置しなかっただけ良かったとも言われましたよ?」
火傷を放置するやつが居るのか・・・
いや、この“世界”だからこそあるのかもしれない。
「家族には連絡しましたよ」
「え?」
「昨日ケビンが行ってくれました」
「いや、あの・・・」
家族というフレーズを出した後、どうも様子がおかしい。
「カミさん今、ウィンスシンに居るんですけど・・・」
「う、ウィンスシン?」
「ええ、従姉妹に会いに」
ウィンスシン市とは、ロア帝国の港町の一つだ。地図で大まかな位置は知っているが・・・
ケビンよ、まさか向かっていないよな・・・?
そして、倉庫に戻らないケビンがウィンスシンまでの護衛依頼を出し、同じ目的地の商会の団体について行く為に依頼を取り下げたという記録が冒険者ギルドから出てきた事を後々知った・・・
ケェヴィィィィン!
◇◇◇◇◇◇
ロア帝国総合学院の学長室。そこでは頭を抱えた学院長がいた。
「困ったのう」
学院長宛の文書を読んだデフロット学院長が助手のマルクスに相談する。
「しかし学長、皇帝陛下の命令ですよ」
「署名だけじゃがな。立案したのは別の奴じゃ。陛下が学びの場を政治に使うとは思えん!どうせ帝国の発展やら外交で好印象を持たせるためとかなんか言ったんじゃろう」
宮殿から届いた知らせで、総合学院を含む帝都にある全ての学校が軍の士官学校、土地がある学校は訓練場も設置されることになった。
それもストリア国の軍事式典の後、ストリアの使節団を帝都に招く事になったからだ。そこで見栄を張りたいが為に、帝国が関与できる施設は全て言う通りにしなくてはいけなくなった。
デフロット学院長はそれが気に食わなかった。
「それに軍事式典はどうしたと思う?なぜその話が来なくなったか知っとるか?」
「そう言われれば、この間仰ってましたね。2人分の席が用意されたとかなんとか。だいぶ前ですけど」
デフロット学院長は自分を落ち着かせるように深く息を吸い、こう続けた。
「グスタフの噂は聞いているか?」
突然グスタフの名前が出て驚くマルクス。
「え?ええ。民の声を聞く貴族として陛下に気に入られていますが、裏では皇帝の座を狙おうとしているという噂はチラホラと・・・その話を聞く前は僕も支持していましたケド」
とバツが悪そうに答える。
そこまで知っているなら話は早いとデフロット学院長は思う。
「あとこの話、僕なんかに話していいんですか?今更ですけど」
機密情報を言われたようでマルクスが心配そうな表情をする。
「どうせ皆知る事じゃ」
と学院長がさらっと流す。
「軍事式典は確かに開かれる。じゃが、それは今じゃない。あれはグスタフとグスタフの一番信頼する仲間を潰すために陛下が用意された罠じゃ」
「え!?」
驚くマルクス。
それもそうだろう。
グスタフは陛下のお気に入りという噂があれば、誰もがそう思う。
そして陛下のその行動力にも驚いただろう。
デフロット学院長は窓の外を向いてこう続けた。
「陛下は全て気付いておった。ある組織を通じてな」
「ある組織?」
「ワシでも正体を知らない陛下直属の少数部隊じゃ」
それなりに地位のあるデフロット学院長ですら知ることができない情報とは・・・?とマルクスが思う。
「やっぱり僕が聞いちゃダメな気がするんですけど・・・」
「聞いたところで恐ることは無い。たかが会話じゃぞ?証拠なんて残らん」
大丈夫なのは学院長@@@あなた@@@だからですよ!
とマルクスが心の中でつっこむが、学院長に伝わることはなかった。
「それでじゃが、ストリアの式典関連の“正式”な文書がワシにも届いた。まあ、この文書でさっきの事も判明したわけじゃが・・・さて、使節として向かう事になるが、枠は全体で数十名。ワシの推薦で数名行くことになっておる。つまりじゃな・・・」
窓の外を眺めていたデフロット学院長はクルッとマルクスに体を向けると少しだけニコっと笑う表情を見せた。
「はっ!?まさか・・・僕にストリアに行けと!?」
「安心しなさい。ワシの信頼する人もつけよう」
マルクスは、クーデターが起きた国に行きたくないと言わんばかりに首を横に振るが、デフロット学院長はただ笑うだけだった。
学院長の助手は学生として名誉であり、とても楽しいと思っていたマルクスであったが、ここまで助手を辞めたいと思ったことは今までないだろう。
〜異世界史の豆知識〜
ストリア国の対応をすべく、ロア帝国以外の各国でも本格的に使節団が組まれることになったゾ。
これまでにも似たようなものはあったが、はっきりとした目的は無く、視察や簡単な諜報活動、私的な事情で担当者に一任されることもあり、ぶっちゃけた話、任務さえこなせば、本国にバレない限り好き放題だった。




