四十六話 【狂い始める予定】
アクトーノの授業の後、錬金術や歴史の話やら色々あったが、この世界のヒントを得たところで初日の授業が終わろうとしていた。
「じゃあそろそろ・・・」
ガチャとドアが開き、他の先生が手のひらを上にしてアルフレート先生を手招きした。
「え、2日で!?」
耳打ちされた先生は少し険しい表情をし、話を終えて俺たちのとこに戻ってくるとこう言った。
「たった今、学校の方針が変わって・・・次は帝国軍と軍規についてやるからね。ちょっと準備が必要なので2日後に午前10時にこの教室に集合だ。時間は厳守してくれ」
「「!?」」
ざわつき始める教室。
「今日、時計の使い方教えたから大丈夫だと思うけど、明後日の朝、時計の短い針が10を、長い針が12を指すまでに教室に来れば大丈夫だから。ゼンマイ巻くのは忘れないでね。時計止まっちゃうから。それじゃあ解散!」
結局、ロバートのクラスも授業変更があったのか聞こうと講義室を覗いたが居なかったので帰ることにした。
帝国軍と軍規の授業を想像しながら、中身がほとんど入っていない鞄を肩に掛け、学院の敷地を出る。
制服の着用義務がなく、私服で解散した生徒らはそのまま街に溶け込んだ。
「ショー!」
「お、ロバート」
馬車乗り場に向かおうとしたとこでロバートに呼び止められた。
「講義室から君が歩くのが見えて急いで追いかけてきたんだよ」
「君のクラス覗いたんだけど人少なかったからもう帰っちゃったと思って」
「居たよ!そういえばショーって寮じゃないのか?」
そういえば、セバスチャンが寮がなんたらとか言ってたな。
「えーっと、違うと思う」
「・・・思う?」
「特に手続きしてないからね」
あれから何も聞いてないしいいや!
それにこれから予定もある。
「実は寄るところがあるんだ」
「面白い場所?」
「いや、ちょっと色々あってだな・・・」
「えー」
面白いと言えばそうだが、流石に車とかプレス機とか見られるのはなぁ・・・
「アルマはどうしたんだ?」
「ショーも知ってると思うけど、アルマの魔力すごいじゃん?アクトーノ飲んで今寝込んでるんだよ。オレは平気だけどね」
あー・・・
例のアレね。
やっぱり他のクラスもやったのか。
「仕方ない。じゃあまた明日!」
「んじゃ」
ロバートと別れ、乗合馬車で倉庫付近で降りた。
この世界に似つかわしくない騒音も日常だ。
例え、バコンッと何かが壊れた音がしようと、倉庫の窓から水蒸気か何かモワッとしたものが上がっていようと、この辺では日常である。
中に入ると、日常ではありえない光景が目に入った。
「あ、ショウ様・・・」
作業員達が集まってるところに目をやると、車が煙を吐いていた。
「・・・マジか」
あまりのショックに冷静さを失わないためにとっさに体を動かした。
「何かあったのは分かった・・・怪我した人は?」
「飛び散った物が当たって火傷を負った者が1人です!」
急いでそっちに向かい、過去にディッシャーにやったように回復魔法をかける。
「っ!?・・・こんな時に!」
クソっ!
アクトーノの効果がまだ続いていた。
酷い火傷には見えないが、それは俺からしたらだ。本人にとっては話は別で、早く治した方がいいに決まっている。
魔法が使えなかった俺がちょうど焦り始めた時、シェリルさんが察して手伝ってくれた。
「体力に自信がある者は彼を担架に乗せて近くの治療院へ行って!」
「はいっ!」
「えっと、ケビン!さっき工具整理してたでしょう?」
「オレすか?」
「住所教えるから彼の家族に事故があった事を伝えて!」
「えっ!」
「えっじゃないわよ!早く行って!」
「わ、分かりました!」
シェリルさんの的確な指示のおかげで怪我人の対応は済んだが、これで終わりでは無い。
今、この後にやる事は1つだ。これをやらなければ、また同じ過ちを繰り返すだろう。
それは、原因を探す事だ。
「ショウの旦那!その・・・すまぬ!ワシが流した鉄は問題無かったはずじゃが、あれじゃ!きっと不純物が入ってじゃな・・・そこから割れたかもしれぬ・・・!」
ドーヴェルさんが慌てて説明を始めたが、自分以上に焦る人を見ると冷静になるのは本当の様だ。
あるいは、そう感じるだけか・・・
「ドーヴェルさんは悪くない。それを言ったら、設計は俺のだし、考えたらキリがない」
「そ、そうじゃな・・・」
よし、俺を含めてドーヴェルさんも冷静になってきたか。
「じゃあバラして原因探すぞ」
「わ、分かった」
ここで一応状況整理。
エンジン付近のボンネットやフェンダーなどのボディパーツを外し、整備しやすい状態にして調子を確認していたところドカーン。エンジンの一部が爆発した様に弾き飛んだ。パーツを外していた為被害が拡大。怪我人が出た。
といった感じだ。
エンジンが冷めるまで待ち、ガチャガチャと解体を進める。
なるべく綺麗な布の上にエンジン本体を中心に置き、飛び散った破片や部品を並べる。
「ピストンが動かないぞ」
「クランクが曲がっとるんじゃ」
「この灰色のぬめりは何だ?」
「あ、それ多分、潤滑と隙間を密閉するために入れたスライムの粘液です」
最終的に壊れた原因は分からなかった。
設計図と新品のパーツ、計測に必要な道具を用意し解析チームを作った。
「原因が分かるまではしばらく作れないな・・・」
すでに出来上がった部品・・・およそ3台分の在庫を見ながらため息を吐いた。
「ショウさんどうしますか?」
「みんなで原因探すのもいいけど、大勢で居ても邪魔になる・・・今できることをしよう」
という事で、解析チーム以外で残ったメンバーでもっと頑丈な材質を使ったエンジンとその構造、燃料を変えてみるという意見を出した。
「先ずは製造方法だ」
今ある設備を変更する事になるが仕方がない。
セバスチャンも予算は幾らでも出すって言ってたし、今ある資金で足りなかったら頼もう。
そして倉庫内にある自分の机の引き出しから十数ページからなる冊子を数冊引っ張り出して作業台に広げた。
「ショウ殿、コレは・・・?」
「これは今の製造方法と設備だ」
そこでドーヴェルさんが「コレじゃ」と言いながら説明を始めた。
「型を鋳造してから掘っての、削るのでは強度が低い。もしかすると、コレが原因で事故が起きたかもしれん」
そして別の冊子を並べる様にして続ける。
「これは・・・」
「歯車に加工するための鉄を叩いてたやつじゃないですかね」
「蒸気ハンマーか!なるほど」
今も使っているからな。
変速用のギアは歯が折れないように鍛造してから加工してたので、詳しい説明はいらなかった。
「そう。蒸気ハンマーじゃ。型から出したアツアツの鉄をコイツで叩く。そしてこいつに穴を削るんじゃ」
ただ今使っている倉庫も結構いっぱいいっぱいだから、追加しようとすると新しく建物を作る必要がある。
「鍛造は鍛治職人の基本では無いか!」
「まあ、材料を変えるって意味で言えば、他の金属同士を混ぜ合わせて合金にするっていっていうのもあるんだけど、比率とか分かんないから聞き流してくれ」
ドーヴェルさんの眼が光った。
よしよし計画通り。
さり気なく言うことで、きっと何かすごい合金を作ってくれるだろう。
「そしてエンジンの構造だけど・・・」
と言いながら今度は俺が冊子を開く。
こればかりは俺じゃないと分からないからな。
基本的には、回復薬を魔法陣が未完成なシリンダに入れ、ピストンが動いて陣が完成した時に爆発させて運動エネルギーに変換するという仕組みだ。
「今回は強度を増したエンジンに加え、既に完成させた陣に回復薬を吹き付けてエネルギーにする仕組みのエンジンも作る」
一瞬、作業台を囲むメンバーが「?」な顔になったが、そのまま続ける。
「ポンプで圧をかけてインジェクション、つまり霧吹で吹き付ける。そしてこれが設計図だ」
現在の吸い込みタイプと吹き付けタイプの図を並べる。
「形は一緒じゃのう」
「違いがよく分からないです」
まあぱっと見一緒だからな。
「因みにこれを思いついたきっかけは帝都一周の旅にあった」
怒られた記憶が蘇ったのか、若干名下を向いているが・・・
「荷物満載にした状態だとパワーが足りない気がしてね。こっちの方だと、吹き付けてる限り、常にエネルギーが作り出せるという利点があるんだ。ただ、欠点もある」
何も悪い事は無い様に思える。むしろ利点しかないんじゃ?と思われそうだが・・・
「欠点?」
「なんじゃ?」
「まず、すごく複雑で精密さが必要。そして吹き付けるタイミングを間違えたり、どこかが壊れた状態でエンジンを掛けると・・・ドカーンだ」
魔法陣にずっと吹き付けてたら爆発を続けてピストンが戻ってこないし、圧縮中のピストンや他のシリンダにもいっきに回復薬を吹き付けたらエンジンが大破する。大破して中身が剥き出しの状態になってエンジンが停止しても、頑丈に作られたピストンの陣が壊れるとは思えないし、そこに回復薬がかかればさらに爆発を引き起こすリスクもある。
「えっと、今まで使ってたエンジンは吸引、圧縮、燃焼、排気ってやってたけど・・・」
と指で図を指しながら吹き付けタイプの説明をする。聞いてるメンバーの質問に答えながら解説を進め、仕組みがわかったところで欠点の話に戻る。
「普通に中に吹き付ければいいんじゃないか?」
「なにか問題があるのか?」
「お前ら何を言っとるんじゃ!完成済みの魔法陣に回復薬を吹き付けるんじゃぞ!」
どうやらドーヴェルさんは俺の言いたいことが分かったみたいだ。
まあ話の途中だし、解体した車を見ながらこう続ける。
「どこかが壊れてあんな風に中身が見える状態まで壊れてしまっても魔法陣は完成したまま。つまり、ピストンが露出した状態で一滴でも回復薬が垂れれば・・・」
「エンジンの外で爆発が起こる・・・?」
「そういうこと」
まさにアクション映画の様な爆発が拝めるだろうが、それは映画の中だけで十分だ。
そういう非常に繊細なエンジンを作ろうとしているのだ。
本当なら、圧縮した時に吹き付けて爆発させる仕組みというのはディーゼルエンジンと一緒だから、燃料が回復薬じゃなくて軽油ならもっと安全に作れる。こぼれても爆発しないからな。しかしそんなものはない。
アルコールなら燃料として製造できそうだが、吹き付けタイプのエンジンでは使えないし、新しい設備も技術、製造にも時間がかかる。
そもそも酒を使うの反対されるし、魔法が普及してるこの世界で回復薬を燃料とした方がコストがいい。トルクを生み出すには今はコレしかない・・・
「少し危険だ」
「正確に作らないと」
「試作機は1気筒にしましょう。安全装置も併せて作ってみては?」
「それはいい考えじゃ」
という訳で異性界版ディーゼルエンジンの開発が始まった。




