四十五話 【初登校】2
「では、ショウ。これが何か分かるかい?」
アルフレート先生が配った物。
それは手に収まるくらいの大きさで金属製の厚みのある円盤だ。
今は動いてはいないが、多分ここを回すと動き出すのだろうと予想がつく。
答えようとしたその時、廊下と窓の隙間から隣のクラスの生徒の「「ええーー!」」という声が聞こえた。
なんだ?と思ったが、先生が「続けて」と無言で訴えてきたので続ける。
「えっと、時計です」
「・・・正解だ。まあ、知っててもおかしくはないか」
先生の意味ありげな言い方が気になる。
先生は俺について何か知っているのか?
もしかしてデフロットさんが何か言ったのか?
てかさっきの隣のクラスの声は何だよ!
いろんな疑問が頭をよぎった。
「じゃあ続けるよ。彼の言う通りコレは時計というもので、主に時間を知るための道具だ。ここ数年でここまで小型化できたばかりでとても高価だから壊したり無くさないように」
そりゃ当然だろう。
工場とか生産ラインとか無い世界だ。
全て職人の手で作られたもので高いだろう。
でもなぜそんな高価なものを生徒に?
という疑問も新たに浮かんだ。
「例えば、決まった時間に鐘が鳴って時間を知らせてくれるでしょう?あれは人が感覚でやってる。っていう所もあるけど、国が管理してるところや大きな資産がある所は時計で確認して鐘を鳴らしてるんだ。
言われてみれば学校の鐘も朝と昼だっけ?その時間になると決まった時間に鳴るなあ。
「ま、たまに鐘の音が聞こえて自分の鐘も鳴らすとこもあるケドね・・・」
どうしようもないな・・・
「でも今は機械化が進んでね、特に山脈を挟んだお隣のストリア国では大きな時計を作って鐘も決まった時間に勝手に鳴るようにしてあるんだ。この時計もストリアからの物だよ」
「へえ」と感心する者。「ストリアってスゲー」という者。世界情勢に詳しい者は「ストリアって急に軍が強くなったって国だっけ?」と呟く。
見た感じだとクーデターの話はまだ伝わっていないようだ。
というより、ストリアから送られてきた?
戦争の準備をしていると聞いたハズだが、何でだ?
「さて、じゃあ使い方だけど、皆さんの時計、実は・・・まだ動いていません!」
「「「ええーー!」」」
多くに生徒が衝撃を受けた。
それが何か知ってる者は騒がなかったが、それでも時計を初めて見る者の多くが驚いた。
隣のクラスの「えー」はコレだったのか・・・
同じ内容やってんだな。
「えーじゃあ動かないんですか?」
「ここをつまんで持ち上げながら回してごらん。とキリキリって音がしてゼンマイっていう部品が巻かれるから。そしたら動くよ」
と言いながら余った時計を手に持ち実際にやってみせた。
「あ、固くなったらそれ以上は回さないでね」
「何でですか?」
「壊れる」
みんながゼンマイを巻き終わったことを確認すると、先生はこう続けた。
「じゃあ今度はもう一段階持ち上げてごらん。ちょっと硬いけど持ち上がるハズだから。そのまま回すと針が動く。これで短い針は10と11の間。長い針は・・・7に。合わせたらつまみを元の位置まで押して込んで終わりだ」
ほう、現在時刻は10:35か。
「読み方は10時35分だ」
「先生、10時は分かったんですけど何で35分なんですか?」
「それは・・・短い針が1つ進むと60分が経つん・・・だよ?」
なんか説明がぎこちないな。
「それでね、長い針が6に来ると30分。7に来ると35分って事・・・でいいんだよね?ショウクン?」
「え、あ、はい」
何で俺に振るんだよっ!
てかたぶんすごい質問くるぞ。
そんな予感がする。
「じゃあ、1時間って何ですか?1時間ってなんで60分何ですか?」
「どうして12個しか数字が書いてないんですか?」
「1分って何ですか?」
「1日って何時間?」
ほら、出たよ。
その後先生は生徒達に質問攻めにされ、俺に助けを求める暇もなかった。
唯一助けとなったのは、体調不良を訴えた生徒が出てきて授業が本題に戻ったことだろう。
「まあ、時計とはそういう物だ。いつの間に15分も経ってしまった!さて・・・オリバー君が、『体が怠い』って言ってくれたわけど、君は運が良いね。他に怠いとか体が重く感じる人はいるかな?」
数名がそっと手を挙げる。
「君たちは運が良いね」
どこがだ!
一瞬この先生を疑ったが、これが授業の一環だと知ると落ち着きを取り戻した。
「これはさっき飲んだアクトーノが効いてきた証拠だ。魔力量がある人ほど症状がお・・・ンン。出やすい」
今絶対重いって言いかけただろ。
「時計を見ると10時50分だね。薬を飲んでから大体40分くらいかな。アクトーノは大体それぐらい経過したら効く薬なんだ。個人差あるけどね」
俺は、特に違和感はないな。
さっき言ってた魔力量が多い人が効果出やすいって事ならもう少ししたらああなるのか。
「じゃあみんな席を立ってみて」
言われるがまま席を立つと、「ウッ」「なんだコレ!?」と声が聞こえた。
「さっきは何ともなかったけど、立った瞬間に怠さを感じたね。それは普段、知らぬ間に筋肉に魔力を伝わらせているからだ。普段から身体を鍛えてる人はそんなことないと思うけど」
確かに、体をあまり動かしてなさそうな痩せてる人や、筋トレなんかしてる様なガタイのいい人の症状?って言うのか知らんが、先生の説明と一致している。
「じゃあ、コレで授業は終わり。20分後、アクトーノを作る授業をやるからそれまで休憩ね。さっき時計の見方も教えたし、何か質問は?」
最初に怠さを訴えたオリバーが言った。
「これって・・・いつ治るんですか?」
「半日くらい?個人差あるし、まだデータ集めてるからなあ。じゃあ解散」
この時、この先生の話はまともに聞いてはいけないということをこの場にいる全員がそう思った。
休憩中は、アクトーノの作用を軽減するために魔力石を使ってみたり、大人数で1人へ魔力を送ったり色々試したが、どれも上手くいかなかった。
魔法が使えない体は、地球にいた頃を思い出す。
当たり前だが、魔力探知もできないし、近くで誰かが魔法を放っても、音や光でも見えなきゃ気付かないだろう。
そう思いながらも、先生への不安を共通項にクラスメイトと馴染むことができた。
〜〜〜〜〜〜
「はーい。じゃあ始めるよ」
先生の号令とともにアクトーノの授業が始まった。
黒板に描かれた図や彼の説明は分かりやすく、アクトーノの詳細を学ぶ俺たち。
そして、先生がふと言ってしまった単語や、その内容が俺を悩ませる事になる。
「じゃあこの薬剤名はアクトーノってさっき言ったけど、開発者の名前から取ったんだ」
「先生のもですか?」
「そうだよ。開発したのは、僕アルフレートと、クララ、トーマス、ノイマン4名の頭文字だ。ちゃんと特許ももらってる」
「スゲー」という声がちらほら聞こえた。
「用途は説明した通り、服用者に魔法を使えなくする」
黒板に向き直り、人の絵を描きながら説明を続ける。
「アクトーノは、体内の魔力が薬剤に吸収され、服用者を魔力枯渇状態にする効果がある。みんなが今体験してる通りだ」
そしてチラッと自分の時計を見ると「15分くらいで効果が出てきたね」とオリバーに視線を向けた。
「それじゃ、作り方なんだけど、みんなに渡したこの粒って、実は粉なんだよ」
と言いながら紙袋から白っぽい粉を見せた。
お巡りさんの前でやったら一発でお縄だなと思いながら先生の話を聞く。
「んで、要はこの粉がアクトーノなんだけど、冒険者ギルドで依頼受けた人が居るかもしれないな。主な原料はツタンっていう薬草・・・というかツタです。これを加工してさっきの粉にするんだ」
先生の説明は分かりやすく、誰も聞き返すことは特になかった。
ただ「このツタンが探しにくくてーー人件費がーー」などと偶に話がズレて授業にならない場面もあった。
ツタンが高価だと説明したかったらしい。
因みに驚いたのが、アクトーノの作り方だ。
要約すると。
①ツタ科ツタンの根を乾燥させる。
②粉砕し、粉に酸を垂らして反応してできた白い物質を大量にお湯に溶かす。
③水温が下がり、水面にできた結晶のみを回収。
④お湯にもう一度溶かし、付着した酸を人体に害の無いレベルへ下がるまで繰り返す。
⑤完成。
聞いた感じ、とても画期的な方法だと誰もが思った。
俺もだ。
だって、異世界の薬草とか聞くと、そこら辺の草を磨り潰しておしまいというイメージがあったからだ。
かなり本格的だ。
小学校や中学の理科室でミョウバンを溶かして結晶化させる実験みたいな感じで作れてしまう。
どうやって見つけたかは知らないが、この技術は違和感という形でしばらく俺を悩ませることとなった。
何気にツタツターンと検索したところ、意外にもヒットしてしまった為ツタンに変更いたしました。




