五十一話 【軍事大国ストリア】
休憩で運転手の交代をしながら道を進むこと数時間。
道がこうもありがたく思えた日は、この世界に落ちた時以来だろう。
人が通る・・・
つまり、道が整備されてるという事だ。
ここは今も使われてる街道で、時より冒険者や護衛を連れた商会の馬車とも何度かすれ違った。
初めて見るであろうこの車列を見る彼らは、これはもうすごかった。
馬車を止めて眺める者、驚いて隠れる者、剣を構えて警戒する者までいた。
しかし、人が通るとはいえ道幅はそう開くはない。
肩輪を道からはみ出しながら全てを避け、後ろを走る小型四輪駆動車に乗った兵が、フロントガラスを倒し、敵意は無いと思わせるように手を振っただけだった。
国から許可を貰っている以上、帝都一周の時のようにわざわざ森の中を隠れながら走る必要も無い。
キーーーッ
「ッ!」
突然、先頭を走っていたトラックのブレーキランプが点き、慌てて運転手がクラッチとブレーキを同時に踏み込む。
「なんだ?」
「さ、さあ?」
いや、マルクスに聞いたわけじゃないんだけど・・・
「飛び出すんじゃねえ!轢かれたいのか!?」と、トラックの方から怒鳴り声が聞こえた。
状況を理解しようと前を見ると、トラックは既に走り出しており、運転手も遅れまいと車を発進させる。
何があったのか気になって外を見ると、びっくりして道端に腰をついてる人がいた。
悪いことをしたなと思い、マルクスに気付かれないように、すれ違い様に小さく会釈をした。
会釈というより頷きに近いかもしれない。
ボーッとした表情で俺を見るが、車は走ってるのですぐに視界から消える。
後ろを向くと、小型四輪駆動車の遥か後ろから追いかける姿が見えたが、そのまま見えなくなっていった。
さらに2時間くらい走行し、昼休憩を入れながらまた数時間走る。
太陽が沈み始めて辺りが暗くなるが、ヘッドライトを点灯させて視界を確保する。
今度は小さな川を渡る。
石造の橋は頑丈で、車列が通ってもびくともしない。
「この川は確か・・・」
「ええ、国境です。もうストリア国内です」
ついにストリア国に入った。
道中警戒していた魔物は現れず、襲われる前に通り過ぎてるのか、あるいは驚いて近寄ってこないのか。飛び出し以外のトラブルは何もなかった。
トラブルではないが、不満があるとしたら、退屈な事だ。
何時間も移動してて、時間を潰すものが無い。
音楽も無ければ本も無い。
いや、マルクスは暇潰しに本を持ってきていたが、俺はそこまで考えていなかった。
中世の馬車での長旅はどうしてたんだろう?
と、色々考えた末、結局寝る事にした。
〜〜〜〜〜〜
「中尉、着きましたよ!」
「んっ?」
「サトゥルムに入ってだいぶ経ちますけど、どうやらここが会場の入り口の様です」
気がつくと、周りには立派な建造物がたくさん建っていて、今止まってる道もだいぶ広い。
「あっ!中尉、あれ見てください!」
興奮したマルクスに驚き、言われた方向を見る。
「っ!路面電車!?」
石畳で整備された幅約50メートの広い道の中央を1両編成の路面電車が奥からこちらに走って来るのが見える。
しかも複線だ。
上りと下りがある。
通り過ぎるのを目で追うと、後ろにボイラーと煙突が見え、蒸気で動いてることが分かったので正確に言えば電車では無いか。
しかし・・・
「凄いな」
自然とそんな言葉が出た。
他にも何かあるか?と思い周りを見るが、景観を崩さない落ち着いた雰囲気の立派な建物が建っているだけで、街灯が道を照らしているくらいだった。
一瞬、街灯の存在に驚いたが、梯子を持った点灯員が消えた街灯に火を灯してるのが見えた。
ガス灯?油?
ガスなのか油なのか考えていると、コンコンと窓を叩かれ、白い制服姿で筒の様なツバ付き帽子をかぶった男が立っていた。
俺と反対側に男がいたので、マルクスが窓のクランクハンドルを回して対応する。
男は窓が下りた瞬間、敬礼をしながら腰を少し曲げて窓の高さに頭を揃えた。
「こんばんは、警備の者なんですけど、前の方?に聞いたら代表者はこちらだと・・・」
「そうだ」
そんな彼に冷たく答えるマルクス。
「失礼ですが、どちらからで?」
「ロア帝国だ」
「えっと、何か書類はお持ちで?」
そして俺に顔を向ける2人。
あっ書類ね、はいはい。
軍服の内ポケットから二つ折りのファイルを取り出してマルクスに渡す。
マルクスは俺からファイルを預かると、バケツリレーの様に警備兵に渡す。
警備兵はファイルを開き、街灯の灯を頼りに内容を確認すると「ありがとうございます」と言いファイルを返した。
「では、前の方?に案内だけしてきますので、少々お待ちください」
と言い終え敬礼をし、俺たちも返礼をする。
それを見た警備兵は少し笑顔になると、窓の高さにに合わせるために曲げた腰をまっすぐ伸ばし、先頭のトラックの案内を始めた。
薄々気づいてはいたが、警備兵の背中にはライフルが掛かっていた。
明日の式典、見させてもらおうじゃないか。
その姿をしっかりとカメラに収めてやる!
と心の中で呟きながら、その存在の無事を確認するかのように反対側の胸ポケットに手を添える。
やがてトラックが発進すると、追いかける様に俺たちの乗ってる車も走り出した。
案内された場所は立派な屋敷の前で、俺とマルクスはそこで降りると、トランクから私物の入ったカバンをそれぞれ取り出した。
おまけで付いてきた海軍の2人もトラックから降り、自分の荷物を持って俺たちの方へ歩いてきた。
乗ってきた3台の車は俺たちを降ろすと、すぐ側の建物の方へ走り去っていった。
ヘッドライトで照らされる馬車が見えたので、その近くに停めるんだろう。
屋敷の玄関に続く階段を登ると、荷物を持った俺たちに2人のドアマンが入り口を開けてくれた。
「!?」
暖かい!
暖炉が見当たらないのに暖かい!
それに、室内の光源はランプだが、ここがあの異世界とは思えないくらい、ホールの中は明るかった。
高級ホテルの様なフロントがあり、脇にいる人は荷物持かな?
俺たち4人は明日行われる式典の予定表を渡され、そのまま宿泊する個室に案内された。
因みに、海外でよくあるチップをポーターに渡したら変な顔をされた。
どうやらチップの概念は無いらしい。
俺が使う部屋もしっかり温められており、寒さは感じなかった。
「これも魔法か・・・クソッ!」
突然魔法が使えなくなってしまった自分に嫌気がさし、窓際にある白いクネクネしたパイプをドスっと叩く。
叩いても壊れないと思ったからだ。
「アッツ!?」
痛みが引いて、叩いた所が急に熱くなった。
何だこれ?
顔を近づけてみると、微かにシューという音が聞こえる・・・
水蒸気?
熱湯?
ボイラーか何かで温めてこのパイプに送ってるのか!
もしかしてシャワーもあったり?
あった!
シャワーとトイレもあった!
水洗トイレ!
トイレ側の壁には「流す際は頭上のレバーを引いてください。タンクの水が流れます」って書いてある。
しかも多国語で・・・
ジョジョジョジョバババッ!
突然、上階から繋がっているであろうパイプに水が流れる音が聞こえた。
間違いない。
確信を持って言える。
これは汚水だ!
いろいろと感動を覚えつつ、ドワイノーイにも導入しようと思いながらシャワーで体を洗い、ランプを消してベットに入る。
いろいろ驚きすぎたせいか、眠るのにそう時間はかからなかった。
◇◇◇◇◇◇
数年前、我々は不思議な世界に迷い込んだ。
我々の任務は、通商破壊だった。
私が艦長になって3度目の出撃の時にそれは起こった。
〜〜〜〜〜〜
私は潜望鏡を覗きながら、護送船団の様子を見ていた。
ゴシュュュッ
発射管から魚雷が射出され、機械式タイマーのボタンを押して時間を測る。
ドゴォォォン!!!
「ッ!?」
タイマーの針は35秒を通り過ぎたとこだった。
早い!
あまりにも早い!
急いで潜望鏡を覗くと、あたりは濃い霧で真っ白だった。
しかし、霧の隙間からある物が見えた。
手前の船?いや、別の船が燃えていた。




