四十四話 【学院長、車に乗る】
「ショウ!こっちじゃ!」
デフロットさんが馬車のドアを開けた状態で俺を呼ぶ。
「えっ?あ、お待たせしました!」
執事からの伝言だとデフロットさんはまだ朝の支度中のはずでは・・・
さては、楽しみすぎて早く出てきたな?
「さあ!早く倉庫へ行くぞい!」
「は、はい!」
っていうか馬車すごいな。
丁寧に塗ったであろう黒色のボディに、目立ち過ぎない程度に金の装飾が施されている。中の壁は赤い布が貼られていて、とても豪華だ。
「出していいぞ」
その一言で御者が馬車を走らせる。
「あれ?」
「どうしたんじゃ?」
「馬車の中が暖かいですね」
外はかなり寒かったが、馬車の中はそうでもない。
「座席の下を見てみなさい」
言われて見てみると、格子が付いており、その奥で何かが赤く光っていた。
「火?」
「炭じゃ」
「なるほど!それで車内を温めていたのですね?」
「そういうことじゃ」
火鉢と同じか・・・
魔法かと思ってちょっと損した。
もちろん表情には出さない!
そして、しばらく乗ってて気づいたことがある。
座席が柔らかい!
乗合馬車は、座席のクッションは藁に布を被せたものだったり、布を畳んで重ねたりする。下手すると木材だ。
お尻に衝撃が来て痛かったりするのだが、座席を変えるだけでここまで乗り心地が変わるとは思わなかった。
早く出発したおかげで、倉庫にはすぐに着いた。
倉庫の前に馬車が止まり、敷地内からシェリルさんが様子を見にきた。
「あ!ショウさんおはようございます!すごい馬車ですね!」
「おはようございます。ほんとすごい馬車でしたよー」
座席の柔らかさとか暖房とか。
「実はちょっとトラブルが起きまして・・・ところで、そちらの方は誰ですか?」
「この人は、総合学院の学院長のデフロットさんです」
「デフロットじゃ、よろしくのう」
「え・・・あ、あのデフロット・グレイプス様で?」
「そうじゃ。あのデフロット・グレイプスじゃ」
なんかシェリルさんの反応がカクカクしてきたけど何だろう?
「とにかく、そのトラブルってなんですか?」
「はい、こっちです」
シェリルさんの後を追うと、そのトラブルとやらが見えてきた。
どうやら、作業員同士で揉めてるようだ。
「みーどーり!」
「いいや、黒だ!絶対黒だ!」
「緑だ!」
2人の作業員がどっちの色を車に塗装するかで争っていた。
「どうしたんだ?」
「あ?ああ!ショウさん!こいつが自動車に黒を塗りやがったんですよ」
「黒って言われたんだ!」
「緑だってば!」
「「ぬぬぬっ!!」」
はあ、べつに今やらなくてもいいのに・・・
と内心思う。
「というか、君たち今休暇中じゃ?」
「・・・実はーーー」
要約すると、ドーヴェルさんの指示で1人が黒、もう1人は緑で塗ってくれと言われ、「そっちが間違ってる!」と言い合いになったそうだ。
その指示をした本人はというと・・・居ない。
休暇中に来た事に関しては、2人とも家で「長期休暇?クビになったんじゃあるまいね?」と奥さんに言われ、冗談とごまかしたと。ぶらぶらしても奥さんに見つかるという理由から、仕事を片付けに来たらしい。
「でもすごい偶然だね。ドーヴェルさんから指示を受けた2人が同時に来るなんて」
「同時じゃないっす。俺が来たら、すでに半分以上が黒になってたんです」
「はあ」
とりあえず、後の話はドーヴェルさんに聞くとして・・・
「さあ!帰った帰った!休暇中だぞ!」
「え、でもカミさんが・・・」
「俺も・・・」
クリーク村のギルマスのバジルといい、こいつらといい、この世界は奥さんには逆らえないのか?
「休暇の証明書でもなければ信じてもらえないっす」
「給料がいいので、数日も休むと嫁が不安に・・・」
2人の結婚してますよアピールは無視し、俺は倉庫内の机の引き出しから紙を2枚とって休暇証明書なるものを作った。
あとはこれが俺が書いたものだと証明するためのサインと紋章・・・
紋章は身分の証明とかでも使われると聞く。
俺の紋章?って何だ?
考えた事もない。
ふと、目線をガラクタ箱へ向ける。
「これでいっか」
箱から歯車を一つ取り出し、インクをつけて紙にベタっと押し当てた。
「はいこれ。俺が作った紋章入りだ」
「紋章の申請、登録は・・・?」
そんなのあるんかよ!
「ご・・・後日済ませる」
「「ありがとうございます!」」
ふう、やっと終わった。
と思ったが、これからデフロットさんを車に乗せるんだった。
塗装は半分乾いてるみたいだし、大丈夫だろう。
「デフロットさん、お待たせしました」
「ん?ああ、構わん。それより答えてくれぬか?」
「はい、何でしょう?」
「この、クルマ・・・はどうやって色を塗っておるんじゃ?」
これは、デフロットさんにとって、とても興味深い事であった。
塗料はあるものの、塗る為の道具が無い。あるのは塗料の付いた変わった形の小さな小物だけだ。
「このスプレーガンです。ハケを使うよりも塗りやすいんですよ」
黒に染まった車に緑色の塗料を吹きつけると、ジワーっと緑の塗料が着いた。
色の強弱もできるので、薄くサーっと吹きかけると黒っぽい緑になった。
「おおお!」
地球にいた時は模型を作る際に使った覚えがある。
構造も原理も一緒だ。
塗料の入った容器から管を伸ばし、その管の端に直角に空気を送る管をつけるだけ。
空気を吹くと、塗料から伸びてる管の部分が早い空気の流れで減圧状態になり、塗料が吸い上げられ、空気と混ざって霧状になる。更に、塗料と空気が出る部分を加工してノズルを取り付ければ、スプレーガンの完成だ。
まあ、あれだ。
エンジン作るときに、燃料と空気を混ぜる部品も同じような原理で霧状にしてる。
「これ、ムラがないのう」
「そうでしょう?同じ箇所を吹き続けると垂れますけど、重ねて吹き付けると綺麗に塗れます」
という感じでデフロットさんも参加。
結局、黒と緑の塗料を混ぜて車をダークグリーンに塗った。
「ふう。楽しかったのう。では乗せてくれ!」
とデフロットさんがいうと、まだ乾いていないのに窓ガラスを保護してた紙を取ろうとした。
「ちょっと待ってください!」
「なんじゃ?」
「えっと・・・塗装が乾いてからにしましょう」
「おぉぉ・・・」
最終的にこの日は乗れなかったが、設計図や工作機械などを見てもらい、時間を潰した。
動力源の大切さを知ってもらうことと、デフロットさんを俺のスポンサーになってもらえるよう務めたつもりだ。
販売がまだ現実的ではない以上、この方法で資金を得るしかない。
今まで貰った分はまだ返せそうにないが、それどころか、デフロットさんは喜んでスポンサーになることを受け入れた。もちろん、いろんなものを開発する事を条件にだ。更に、所有している馬車全てを再塗装する仕事を貰った。
「ところで、ショウ」
「はい」
「彼女は一体どうしたんじゃ?」
シェリルさんの事か。
「そういえば見ませ・・・んん?」
シェリルさんはデフロットさんの馬車を興味深そうに見ると、こちらに気づいて駆けてきた。
「ショウさん!もし、自動車がたくさん作られたら、今度は馬車の代わりになるんですかね?」
地球ではたしかにそうなったが、この異世界でもそうなるだろうか?
「どうでしょうね。今はまだ分かりません」
今はね・・・




