四十三話 【ホウレンソウ】
倉庫の作業員達が戻ってくるまで屋敷にいた俺は、グレイプス家所有の建物の近代化を進めていた。
トイレのウォシュレットは残念ながら実現できそうにないが、家電製品はある程度揃える予定だ。
「デフロットさん。まずはこれですが・・・」
図と説明の書いてある資料を渡す。
「ほう。洗濯・・・き?」
とモゴモゴと口髭を動かしながら資料の一部を読み上げた。
「はい。洗濯機です。洗濯をする機械です」
電気モーターで洗濯槽を回し、中のタイマーの針が電極の上を移動して回路が変わる事によって洗濯槽の回転が変わっていく仕組みだ。
作りが機械的で、“洗い”と“脱水”の洗濯コースしかないし、水汲みが人力だったり、水没の危険でモーターが上部に付いてて不格好だったり、まだまだ問題はある。一方で、多くの衣類が一度に短時間で洗濯できる。
実を言うと、俺の気持ちの問題だったりする。
普段、気にするような事ではないが、自分の衣服が他人によって管理されてるのは、あまり気持ちのいいものではない。
というのが本音だったりする。
だから最初にできた洗濯機は自分の部屋に置こくと決めてる。
「なるほど。室内に置けば、雨でも洗濯ができるのう」
「はい。あと、仮の話なんですけど、もし、これを大量に用意した場所を貸し出したら?それか、洗濯物を預かって代わりに洗濯をする事業を始めたら、かなり儲かると思いませんか?」
いわゆるクリーニング業だ。
ただ、今ある発電機は天候に左右されるし、そこまでの電力を使う前提で作られてない。他にも、漏電とか安全面を色々考えたら問題が山積みなのは確かだ。
デフロットさんは少し考えた後、納得したのか、ゆっくりこう言った。
「良いじゃろう。必要なものは全てセバスチャンに言うがいい。しばらくは屋敷の分だけ頼む」
「ありがとうございます」
「それと・・・何か忘れとるぞ?」
部屋を立ち去ろうとすると、デフロットさんに呼び止められる。
「えっと・・・?」
「自動車じゃよ。まだ報告を聞いとらん」
すっかり忘れてた。
ていうか、言ったっけ?
「今、資料を取ってきます!」
と言い、書斎から自分の部屋につながる廊下を駆けていく。
そして、走りながら考える。
自動車の研究、製作に関わったのは倉庫の人達とセバスチャンくらいだ。ロジャーさんとヘレンさんには存在は教えたけど「作った」なんて一言も言ってない。
だとしたらセバスチャンか?
ま、後で考えればいいか。
そして、自動車の開発の経緯、仕組み、実際の乗り心地、ほとんどがデフロットさんの質問に答える形となった。
よほど興味があったのかな?と思ったが、どうやら当たっていたみたいで、何台か作ることがきまった。
というか、明日乗る。
「して、そっちの方は?」
ん?
これは・・・?
どうやら一緒に別の資料も持ってきたみたいだ。
「これはベルですね」
「ベル?なぜベルなのじゃ?」
この世界でも手で振るベルなら存在する。
ハンドベルと言われるやつだ。
主に楽器や、呼び出し、注目用に使われている。
「使用目的が違うんです」
と図と仕組みが書かれたページを見せる。
「これがベル?奇妙な形だが、なるほど・・・!」
仕組みはとても簡単で、スイッチを押すと電磁石に鉄のハンマーが引き寄せられ、ハンマーがベルを叩くと同時に、ハンマーが回路から離れて電磁石が磁力を失う。バネの力でハンマーが元に戻り、再び回路に触れてまたハンマーが動く仕組みだ。
主に来客用か、緊急時に使える。
「ん?これは何じゃ?」
ページをめくると、デフロットさんがそう聞いてきた。
「それはブザーです」
「ぶざー?」
ベル以外にブザーも用意した。
「音を出す仕組みはベルと同じですが、鐘の代わりに薄い板を使っているので、出る音が違います」
「薄い板が音を?」
説明に困るな。
「音は空気を振動させることで伝えることができます。声を出した時、喉が震えるのと同じです」
「ああ、なるほど」
今ので分かったのか。
「風魔法の類い・・・いや、やめよう。ショウが言うのであれば、そうなのだろう。うむ。分かった。こっちも後でセバスチャンから必要な資金をもらうとよい」
「ありがとうございます」
話を終え、書斎を出ようとした時だ。
「忘れるとこじゃった」
また何かあるのか!?
と身構えたが・・・
「学院の件じゃが、先日、上級生が卒業して寮が空いた。荷物を運び込んで住み始めている生徒もおる。因みにこの情報を知っている新入生は少ない。親が学生だったか、その知人くらいだ・・・。要は早い者勝ちで決まる事が多い。気に入った部屋は早めにとっておくように!」
「ありがとうございます!」
もうそんな時期か。
自室に戻ろうとすると、セバスチャンが部屋の前に立っていた。
「ショウ様。少しお伺いしたいことが」
「ん?なんだ?」
「ジャックの居場所をご存知ですか?」
「知らないけど。何かあったのか?」
「ここ数日、連絡がつかないのです・・・」
と深刻そうな表情で言う。
「知らないな」
「そうでしたか。失礼しました」
ジャックのことだ。どうせ、そこらへんでぶらぶらしてるんだろう。
その時は気にしなかった。ただ、居なくなったから心配しているんだろうとしか思っていなかった。
しかし、いつも無表情のあのセバスチャンが深刻そうにしていたのを、もう少し気にかけるべきだった。相談でもなんでも協力してあげればよかった。と後ほど思い知ることになる。
◇◇◇◇◇◇
ーーストリア国ーー
軍事式典の開催予定地では、庁舎や会場の建設、整備が進んでいた。
「いいかっ!全部綺麗に揃えろっ!一つでもズレてたら連帯責任で罰するぞ!」
無数の軍人が上官に怒鳴られ、行動を開始する。
「ちぇっ!何だよあいつ。役職が上がったとたんにでしゃばりやがって!」
「シッ聞こえるぞ!言うならもっと小声じゃないと・・・」
とそこまで言うと、兵士は黙り込んだ。
そう、上官が見ていたのだ。
「そいつの言う通りだ。連帯責任と言ったな。そこの小隊!全員腕立て50回!」
「「「は、ハイッ!」」」
腕立てが終わると、上官はこう言った。
「そいつの言う通り、小声で話すべきだったな。まあ、俺を好きになれなんて言わん。気持ち悪いし、嫌いならそれでいい。だがな、今度俺の前で言ってみろ。腕立てじゃ済まさねえぞ?」
後に、この上官は若くして将軍の座につく。
〜〜〜〜〜〜
ドワーフの蒸気機関は、鉱山の坑道に溜まった水を排水するために開発された。
いわゆるポンプだ。
この新技術の噂は広まり、ストリア国にまで広がった。
ドワーフの蒸気機関を導入したことにより、作業の機械化が進んだ。
彼らの蒸気機関は巨大で、例えると、家一軒くらいの大きさだった。速度は遅いが、人を働かせるよりは確実に低コストであり、一日中動かせるため、生産性もあった。
ところが、蒸気機関の登場により国の運営していた工場でリストラが起きた。彼らの暴動を予測したストリア国は、リストラされた人員を軍、一部は石炭の発掘班に回すという政策を行った。
彼らはほとんどが工場での重労働が主で、中には高ランク冒険者も混じっていた。新体制の軍に入る事で不都合も無く、彼らはそれを受け入れた。
そしてストリア国は確実に自国の力を身につけていった。
軍事式典が行われるその日までは。




