四十二話 【帝都一周の旅】6
「それで早速本題ですが、大銀貨5枚でどうです?」
この野郎・・・!
そう言えばコイツ、裏ルートで痺れ薬も調達してたな。
ここで説得するか、それとも逃げるか?
逃げた場合、通報帝国兵に追われる身。お尋ね者になる。武力で潰すのも良い選択ではないし、これは最終手段である。声を出されたら外にいる兵がやってくるからだ。
「そう身構えないで下さい。私が出すんですから」
「え?」
すると、グーッとシェリルさんのお腹が鳴き、ディッシャーパパがそれに気付く。
「お食事、まだでしたか。私もまだなんですよ。ちょうど、今日は鶏肉です。良かったらご一緒にどうです?」
「えっ!良いんですか?有難うございます!」
ちょうど食事をする予定だったし、俺としては問題ないが、シェリルさんが“鶏肉”というワードに引っ張られてるのは気のせいであってほしい。
「・・・頂きます」
「じゃワシも」
パパはにっこり笑うと、奥の部屋の方へと入って行き、窓から「アンネー!」と叫んだ。
玄関から入ってきたのは女性。
エプロンが汚れていて清潔感はあまり感じない。それになんか草を持っている。
パパの服装もかなり汚れてるが・・・
「こんにちは」と言うと、エプロンの端を持ち、軽くお辞儀をする。
「えっと・・・ロベルト?この方々は?」
パパの名前はロベルトか。
「ああ。大事なお客様だ。ディッシャーの事故の件の」
「なるほど!」
「彼ら、食事がまだらしいんだ。オレ達も食事の準備をしていたし、本人もそろそろ来る。ちょうど良いんじゃないか?」
「そうね。ちょうどハーブを取ってきたとこなの。すぐに準備しますわ」
と言うと、彼女は台所と思われる部屋へ入っていった。
手に持っていた草はハーブか。
「いや失礼。すぐに準備します。ここで少し待っていて下さい」
と言われて案内される。
少しすると、ドアノブに付いているレバーを親指で押した時のカチッという音と蝶番の鳴る音で部屋の全員が反応した。
「ただいま!」
「ディッシャー!早く来なさい。あなたにとってとても大事なお客様が来ているわよ!」
「え、ええ?」
タッタッタッと駆けつけた少年。本人と確認すると、あの時木片が刺さっていた足へ目が行った。
うん、特に傷跡は無さそうだ。
よかった・・・
「この人達?」
「そうだよ。早くあんたも手伝いなさい」
「はい。お母さん」
最初はこの人達が俺から揺すり取ろうとしてるのかと思っていたけど、多分違う。単に感謝したかったのか?すると、大銀貨5枚は俺じゃなくて彼らが払うという事になる。
どちらにせよ、一度話をしよう。
俺はそんなの要求した覚えは無いからな。
部屋の中央に組み立て式のテーブル。椅子が足りなくて、小さな木箱を縦に倒して椅子がわりにする。テーブルクロスが敷かれ、3人によって食卓の準備が成される。
その上には、いくつかの塊に切り分けられた鶏肉、固そうなパン、具のほとんど入っていないスープがコップの中に。
最後に陶磁器のピッチャーから少し泡立った水が別のコップに注がれた。
ヘレンさんの屋敷では決して見ることがなかった、料理がそこにはあった。
「さて!今日は豪華だなぁ。貴方達も遠慮なく食べて下さい」
「いただきます」という上品な言葉は存在しない。ロベルトの号令でみんなが食べ始める。
「えっ・・・」
「ショウの旦那、どうしたんじゃ?」
「いや、何でもない」
そう言うドーヴェルさん達を見ると、パンに具を乗せたりスープに付けたりして食べていた。
そうか。皿は無いのか。
連れの2人が違和感無いのは、もともとこういう生活をしていたからか・・・
尖った二又のフォークで肉を刺して、専用のナイフで切る。
手が汚れたらそのままテーブルクロスに擦り付けられた。
「ふう。お腹いっぱい」
「あの、ちょっといいですか?」
「はい」
「お手洗いは・・・?」
「ああ、外ですよ」
外!?
まさか茂みで済ましてこいとかじゃ無いだろうな?
「家の裏に薪が沢山あります。その隣にトイレがあります」
「あ、ありがとうございます」
言われた通り、家を出て薪置場に行く。おそらくこの冬を越すためだろう。その隣に木の物置の様な物があった。
「ウッ・・・」
近づいた時点で、匂いが漂ってくる・・・
嫌な予感はするが、そーっと扉を開ける。
便座が有り、中にバケツ。溜まったら、肥やしとして使う感じだ。本で少し読んだ事がある。
この時俺は、今まで以上に日本に帰りたいと思った。
〜〜〜〜〜〜
「さて、本題に戻ろう。まず、ディッシャー」
「は、はい!」
「今、目の前にいる人が誰か分かるか?」
ディッシャーが俺をジーっと見つめる。
「いいえ。分かりません」
ですよねー。
キミずっと眠ってたもんね。
「じゃあ、お前が鉱山の事故に巻き込まれて治療院に運ばれた話は覚えているか?」
「はい」
「誰も治せなかったお前を治したのがこの人だ。それでー」
ロベルトの話は長かった。
俺が逃げ出す所までの話は事実だが、途中からロベルト登場。追っ手を邪魔して俺の逃亡を助けた事になっている。
アンネの方を見るが、ニコニコ笑っているだけで、と言うかアンネもその脚色に加わっているようで、夫婦揃って追っ手を退治した話でまとまった。たった今。
「もうその話は何度も聞きましたー!」
何度も聞かされているのか、うんざりした口調で答える。
その声で我に帰ったロベルト。咳払いでごまかし、やっと本題に入ってくれた。
「あの時はありがとうございました。ショウさんが要求した報酬として十分かは分かりませんが、残りはこれでお願いします」
「なんか、要求しましたっけ?」
俺としては見返りを要求したつもりは無い・・・
「痺れ薬と料理と魔力石を・・・それで残りの料理を先程」
「・・・いま出そうとしている大銀貨は?」
麻袋の中から大銀貨5枚を出そうとして手を止めた。
「それは、あの時のお礼と・・・貴方への資金です」
「お父さんが絶対ショウさんにお礼をするって言ってたんだ!」
と言うディッシャーの目は輝いていた。
ますます断りづらくなった俺はついに大銀貨を受け取った。ただし2枚だけ。残りは宿泊費と協力代だ。
色々あったおかげでだいぶ時間が経ったし、目的の1つである魔力回復薬を買わなければいけない。
ロベルトによると、回復薬を売っているお店はもう閉まってて明日にならないと開店しない。
そうなると宿泊場所に困る訳で、その間放置されっぱなしの車の方も心配になる。
と言うわけで車の口止め料と協力代、宿泊費で大銀貨3枚だ。
全部渡さなかったのは、5枚とも戻ってきたらそれこそ気を使われてる感が出るからだ。
と言う訳でロベルトに協力してもらい、車をロベルト宅まで運んで納屋に駐める。
これでゆっくりできると思ったのもつかの間。
夕食も同じ感じで、寝る時はベットは無く、リビングで干草のクッションに布を掛けて寝た。
壁の隙間から吹き込む風が冷たく、野営する時とは違う寒さを感じた。




