四十二話 【帝都一周の旅】5
枯れた茂みに車を隠して徒歩でシュタイゴンに向かう。
「やっぱり外は冷えるね」
「そうじゃな」
2人がそういうのも頷ける。
なぜなら暖房の効いた車から外へ出たのだ。
そして季節は冬。雪は積もってはいないが、それなりに寒い。
温度差はかなりあるだろう。
「でもショウさんすごいね。まさかエンジンの熱気で車内を温めるなんて」
さん付けはもう治らないか。
「そうじゃ。熱の再利用・・・ドワーフのワシですら気づかなかった!」
「寒いから暖房が欲しいなぁ、と思っただけだよ。まあ、その暖房も例のジャンプで一時期スイッチが効かなかった訳だけどね」
ドーヴェルさんがシェリルさんに睨まれる。
「その・・・本当にすまん・・・」
「気にしてません!」
めちゃくちゃ気にしていらっしゃる・・・
そんなこんなで気まずい雰囲気の中、何も育っていない畑を抜けてシュタイゴンに入る。
「おーい!そっちの木材は保管用だ!」
「わっかりましたー!」
建築作業が行われており、金槌で叩く音が聞こえる。
倉庫でも作ってるのかな?
「えー!宿まだ見つかんないの?」
ん?
「こっちの宿は埋まってるってさ。もっと奥の方じゃないと無いなこりゃ」
どうやら俺たち以外の冒険者も来ているようだ・・・ってあれ?
「ショウさんどうしたの?」
「ん?なんじゃ?」
「いや、あの冒険者さ、どこかで見た事があるような・・・」
と呟いたら、ちょうど目が合った。
するとこっちへ歩いてきた。
やばい誰だろう?
見た事あるはずなのに記憶にないぞ?
「あの、俺に何か?」
ジーっと見つめられる。
「お前ひょっとして・・・数ヶ月前に起きた鉱山事故の時の治癒師じゃないか?」
「え?」
あの事故の関係者か!?
確か散々追いかけられた記憶がある。
関わったらマズイ!
「違うけど。その治癒師がどうかしたのか?」
「俺も出稼ぎで行って怪我した。治してもらった礼をしようとな。顔と声が似ているから声をかけたんだが・・・そうか、違ったか。すまない」
そう言うとさっさと戻っていった。
「何?知り合い?」
「だと思ったんだがなー。人違いだ」
「あら残念」
危ねえ。
「ショウの旦那。あれは何のことじゃ?」
「さあ?何だろうね」
顔と声で判断するって・・・変装どころの問題じゃないな。
顔認証と声紋認証・・・機械かお前は!
「何だったんでしょうね。でも確かに気になりますね」
シェリルさんは何か知ってるのかな?
「あの事故まだ解決してないらしいですよ。火が消せなくて結局その区域全部埋めたから真相は分からずじまい。怪我人も鉱山からわざわざ帝都まで馬車で運んで治してもらったそうですよ。シュタイゴンに治せる人が居なかったから」
「随分と詳しいのう」
「調べたんです。でも、帝都でもちょっと噂が・・・。身元がよく分からない人が治癒師に混ざってたって」
うわぁ。
めちゃくちゃ心当たりあるんですけど。
「その人、治癒魔法とは別の魔法使って誰にも治せなかった怪我人を治したらしくて、その怪我した子もここに戻ってると言う噂が・・・。せっかく来たんだし会ってみましょう!」
楽しそうに話されても俺が困るからやめて頂きたい。
というか、だんだんと敬語に戻ってきてる・・・
「どんな怪我かは知らんが、噂されるほど凄い腕なんじゃな。じゃろ?」
「ソウデスネ」
「ショウの旦那もそう思うか?旦那の技術を使えば遠くまで探しに行けるのう!」
「そうですよ!その人を帝国軍に引き渡せば金貨100枚ももらえるのよ!」
「えっ!?」
「ショウさんも驚くんですね。てっきりお金が有り余ってるから驚かないかと」
そっちの意味で驚いたのではない。
俺に懸賞金がかけられてる事に対して驚いているんだ。
どこまで割れてる?
さっきの冒険者の反応を見るに、似顔絵とかで顔は公表されてなさそうだし、名前・・・名前は?
「その、治癒師ってなんて言う名前なんだ?」
「それが発表されてないの。ショー・・・とか呼ばれてたらしいけど偽名とか何とかで別の名前みたい」
一瞬シェリルさんが俺を見るが、何を思ったのか「あっ」みたいな顔をした後すぐに目をそらした。
うん、バレたな。
しかし・・・なるほど、発表はあえて伏せたようにも受け取れる。
これは近々、グスタフから接触がありそうだ。
ジャックともしばらく会ってないし、一度話し合った方がいいかもしれない。
「て事で、その子の所に行きましょう!」
「賛成じゃ!」
「え!?」
「何かまずいのか?」
「い、いやぁ。特に・・・」
考えてるうちに行くことに決まってしまった。
「噂によると、その子も一風変わった治癒魔法が使えるみたいですよ。私はそれを見てみたいです!」
治した少年・・・えっと、ディッシャーだ。ディッシャーもその時は意識が無かったし顔を合わせてもバレないだろう。
あの時の俺は正体不明のまま!
大丈夫だろう。
と思って行った訳だがーー
「ショウさん・・・?」
見事にフラグ回収。
俺はディッシャーパパと面識がある。
ドアをノックして出てきた人物はまさにその人だった。
「ショウさんですよね!?あの時息子を助けてくださった!」
「俺っ・・・僕はボブです!」
「「ボブ!?」」
とっさに出てきた名前にドーヴェルさんとシェリルさんが繰り返す。
「確か、ショウ様と呼ばれていた気が・・・」
「ボブです」
「そうですか。とりあえず中へどうぞ」
スルーされた!?
言われるがままに中に入る。
横でシェリルさんが「ぷっ・・・ボブ!」とか言っているが、もうどうにでもなれ。
「それで、ショウさん。偽名を名乗られてる理由は察します」
「はあ」
「外にはショウさんを探してる帝国兵もいます」
確かに、遠目で兵士を何人か見たな。
「もしかしたら、顔が割れているかもしれません。私も長く匿うことはできません。それで早速本題ですが、大銀貨5枚でどうです?」
強請りか・・・
ディッシャーパパは、言葉の内容とは思えないほどにこやかな表情だった。
◇◇◇◇◇◇
ーーストリア国 官邸ーー
「ついに完成したか!」
「はっ。これで安定した動力を提供できます!」
「流石ドワーフだな。まさか蒸気機関がこの世界に、しかもドワーフの国に有ったとはな!」
「これで発電ができれば、さらなる発展が可能かと」
ストリア国で取り入れたドワーフの技術。安定した動力の確保がなされた今、産業革命が起きようとしていた。
にやける新たな王を前に、側近は思う。
あの頃の大佐とは別人だ。
例のクーデター後、革命が起きて王になった。
彼は歴史の真似事をしようとしている!
地球での歴史そのものを、この人はやろうとしているのではないか?
あるいは、技術の乏しいこの世界を征服する気なのか?
止めるべきか?
人の変わり様に恐怖を覚えながらも、潮時を忘れてはいけない。
近々行われる予定の軍事式典で様子を見てから決めよう。
と考えるのであった。




