四十二話 【帝都一周の旅】3
運転の交代をしながら半日が経とうとしていた。
車としての乗り心地はあまり良いとは言えないが、同じ速度で走らせる馬車と比べたらマシな感じだ。
サスペンションを板バネにしたのは失敗だったな。
走破性については、悪路は問題ないし、馬車なら壊れる様な衝撃だってタイヤとサスペンションが吸収してくれる。
因みに2人に意見を聞いたら、こんな返答が返ってきた。
「ワシらがこんなの作れるなんて思わんかった!この乗り物に使われてる技術の数々、ワシの故郷にも持って帰りたいのう」
「乗り心地抜群です!馬車よりもスピードが出せて、馬くらい出てるんじゃないでしょうか?生きてて良かった〜」
シェリルさんは良いとして、ドーヴェルさんは俺の質問に全く答えてない。
加えてハンドルを握ったドーヴェルさんは意外も運転が上手い。
「2人とも、ちょっと浮くぞい」
そんな考えてると、ドーヴェルさんがなんか言いだした。
「浮く?」
俺たちは文字通り浮いた。
ドンと地面に叩きつけられる様な衝撃と共に、身体が座席に沈み込む。
「ぐわッ!?」
「きゃっ!」
次の瞬間、車の中にあった物が浮き始める。
無重力が数秒間続き、再び衝撃が来て車内が散らかる。
「ドーヴェルさん一体何を!?」
「いい感じの形の岩があったから飛んでみようと・・・」
前言撤回。
運転下手だ。
「ダメですよ危ないでしょう!シェリルさんもなんか言ってください」
「あぁあぁ・・・」
ダメだ・・・目を回してそれどころじゃない。
「運転代わります!止めてください!」
キーというブレーキ音が鳴り、タイヤが地面をザザーと擦られる。
車が止まると同時にシェリルさんが外に飛び出し、地面に這いつくばる。
「シェリルさん大丈夫ですか?」
「あぁ地面!地面です!大地!」
陸を見つけた遭難者かよ・・・
「シェリル殿、すまん」
「だ、大丈夫ウッです」
今吐きかけたぞ。
「しかし凄いのう。ショウの旦那を見るとドワーフの技術もまだまだじゃ」
「そんな事ないですよ」
「はっはっはっ」
「ははは。もっと真面目に運転して下さい」
「すまん」
でも確かに本当の事だ。
最初なんか精密機器も無い状況で作ったからね。
完成品の精度を見れば流石ドワーフだと思う。
運転は別として。
やはりドワーフという種族は何かしら製作するのが上手くなるように進化でもしているのだろうか?
運転は別として。
まあ、そのドワーフであるドーヴェルさんに切削加工機やプレス機、色々与えたわけだが、想像以上の働きをしてくれた。
運転は別として。
シェリルさんも例外ではない。
今はこう、その、体の中から出てくる物を必死に抑えているが・・・
普段は主に炉の担当で、熱膨張の原理を使った温度計を作って渡したところ、温度管理が凄まじく正確になった。
温度計の目盛りは適当だから「針がここに来ればOK」という感じで調整しているんだろうが、腕は確かだ。
「少し早いですけど今日はここで野営しましょう」
「そうじゃのう」
「あとドーヴェルさんは明日は運転しないで下さい」
「なぜじゃ?」
「安全運転するなら許しますが、それ以前に」
「それ以前に?」
「野営すると聞いた途端にお酒飲んでるじゃないですか」
日本では飲酒運転っていうんだよ。
翌日でもアルコールが残ってると酒気帯びになる。
よくニュースでやってたからな。
「なんじゃ、酒を飲むと運転できないのか?」
「できません」
「そ、そうか。実はコレは酒ではなくてだな・・・」
「お酒の匂いがします。飲んでしまった以上運転はできません」
「そ、そうか」
「あと、コレどうするつもりですか?」
俺はそう言いながら車のハッチバックドアを開ける。
衝撃により、燃料である魔力回復薬の入った樽が壊れて回復薬が漏れていた。
幸い、もう片方の樽は無事だから帝都の裏にある農牧地、シュタイゴンまでは持つ。が、そこで魔力回復薬を買わないと帰りまでもたない。
最悪、裏側から帝都に入る事になる。
ぶっちゃけ、裏側から行った方が倉庫は近いんだけど、万が一ということもある。
表門にいた騎士や関係者と偶然遭ったりしたら、俺たちがどうやって短時間で外を回ってきたかという疑問が発生する。
デフロットさんの耳にでも入って学院の話がパアになるのはごめんだ。
「はあ・・・」
今回はいつも以上に疲れそうだ。
◇◇◇◇◇◇
ーーロア帝国第一地区ーー
「さて、皆様方に集まっていただいたのはストリア国の件についてですが。先日、そのストリア国から外交文書が送られてきました」
「外交文書だと?」
集められた有力者達が騒ぐ。
「皆様もご存知の通り、ストリア国ではクーデターが起きて国王が王の座から降ろされました。そして、トップからこの様な文書が送られてきた訳です。さて、その内容は・・・」
コホンと咳払いをして話を続けた。
「内容は『我々はロア帝国と違い、強力な軍事力と政治力を兼ね備えている。我が国との戦闘は決して賢い選択肢では無い。よって我が国と同盟を結ぶのが懸命だ』との事ですが、どうするか決めていただきたい」
参加している者のほとんどが我慢の限界だろう。
表情を見ればわかる。
「なんだこれは!」
「そんな国との外交など認めるものか!」
「この会議も必要もなかろう!」
「このロア帝国を何だと思っている!?」
「喧嘩売ってるのか!?」
「実は、招待状も送られてきました」
そう言うと、司会者は上着の内ポケットから紙を出した。
「な・・・ッ!」
「まさか行く気ではなかろう!?」
「軍事式典を披露すると記載されていました」
「何が式典だ!」
「そんな物に参加する必要はない!」
「その通りだ!」
「静粛にッ!!」
力のこもった言葉が玉座から発せられる。
「リード。話を続けよ」
「はっ」
リードと呼ばれた司会者が話を再開する。
「あなた達の中から2名を選び、式典の参加を・・・いえ、偵察を命じます。昼の鐘がなる頃には決めて頂けますね?」
その質問には誰も答えない。
「ありがとうございます。では皇帝陛下からです」
そう言うと、リードは玉座の横へ戻った。
「儂も招待状に目を通したが、あの国がこんな汚い真似をするとは思っとらんかった。確かに同盟は願っても無いが、あんな言い方は気に入らん!リードも言ったが、其方らに偵察を命ずる。式典では何かしらの説明もされるだろう。その辺に詳しい者が行ってもらえると儂は嬉しいのだが・・・お前もそう思うだろうグスタフ?」
「はっ!おっしゃる通りで。行かせていただきます」
「もう1人はお前が決めればいい。期待しておるぞ」
「ありがたきお言葉!」
「以上です。それでは鐘がなる頃にまた戻ります」
そして会議室から2人が出て行った。
「で、誰を連れて行くつもりだ?皇帝陛下のお気に入りめ」
「これはこれはケインズ殿。最近、貴方が管理する地区で平民と揉め事を起こしていると聞きますが・・・?」
「ッ!こうでもしないと貴族はやっていけないんだよ!貴族の癖に平民と共に過ごす貴様とは違う!なんで貴様の様な奴が!」
「全く、これだから貴族が嫌われるんだ」
ケインズの話に呆れてボソッと口を滑らせる。
「なんか言ったか?」
「何も。空耳でしょう。では本題に」
「ま、まて。俺は行かないぞ?」
「ワシも行かん」
「我も行くつもりはない!」
「分かりました。では誰も連れて行きません」
「ほっ」
「でもなんでまた?」
自分で拒否しておいて理由を尋ねるほど愚かになったか・・・とグスタフは思う。
「これを見ていただきたい」
ゴトンと重い音をする何かがテーブルに置かれた。




