四十一話 【冒険の準備】
入試も終わった。
帝都では民が薪の管理をしたり、冬の準備が進んでいる。
そして、数週間前、やっと車が完成した。
しかし、色々と問題も多く、車と言えるようになったのはつい先日のことだ。
まずはここまでの経緯を説明しよう。
この世界の技術上、現代風ボディは作れない。従って、角ばった古い形、道路は舗装されていない場所が多く、一昔前のオフロード車をデザインに作った。
シェリルとセバスチャンから完成の報告を受けて倉庫に向かうと、確かに普通の形をした車があった。
そう、形だけは・・・
「はぁ・・・」
と少し悲しくなった。
今まで待ち望んでいたものが想像と違っていたからだ。
俺のミスだった。
完璧だろうと思い、渡した設計図は穴だらけ。
耐久性を求めた魔物の皮でできたタイヤはモジャモジャで格好悪い上に、タイヤの溝も無ければ皮の油分で滑って機能しない。
メーター、計器類はすっかり忘れていて作っていなかった。だからハンドルの奥には空洞が待ち構えている。
他にも数え切れないほどあったが、どうにか解決した。
存在しないと思ってたゴムはガムという名前で見つかり、ガムで作られたチューブタイヤの色は白く、タイヤとしては脆かった。
しかし、問題集の豆知識編で、タイヤの補強材に炭素がある事を知っていた。確か、名前はカーボンブラックとかそんな感じだったが、要は炭素だ。炭を砕いたやつだったり、不完全燃焼した煙から採取したものだったり色々試した。
一番苦労したのは変速機と電装品だろう。
試運転でエンジンをかけた瞬間、回転数も何もわからないまま、物凄い音が倉庫内に響いた。
ーーーーーー
「ショウの旦那、やはりこれはダメじゃわい」
「んー。どうしよう・・・」
「温度と湿度が原因か」
「そのようじゃ。ベルト式の摩擦クラッチは強度が弱く切れやすいようじゃ。魔物の皮を使っても結果は同じじゃった。しかも音がうるさい」
そう。彼の言う通りだ。
エンジンの動力を変速ギアに伝える際、力が滑らかに伝わるようにクラッチを設置した。
しかし、俺が設計を面倒臭がってベルト式にした結果、エンジンの熱と部品との擦れ、外の湿気と乾燥の繰り返しで強度が弱くなってしまった。
更に擦れる時の異音ときたら・・・!
あのキュルキュル音。いかにも周波数が高そうなあの音は、俺を含め倉庫にいた全員が頭痛や吐き気などの体調不良を訴えた。
「こことここもダメじゃな」
これは参った。
「歯車で作るか・・・」
「歯車?強度は十分か?」
ドーヴェルさんの意見は最もだ。
この世界の製鉄技術は現代日本に劣る。鉄に含まれる不純物も多いだろう。よって純度の高い鉄は高価になり、入手が難しくなる。
純度の低い鉄で歯車なんか作れば歯が欠けてしまう。
話を聞けば、鉄鉱石とシェリルさんの魔法があればその心配はない。
そして、新しい発想も得た。
ドーヴェルさんの国だと、鉄を叩いて鍛えれば、鉄の中の気泡ができにくくなり、強度の優れた物が作れると言う。
しかし、形が複雑な物を作ろうとすると、型を作って金属を流し込む鋳造の方が良いそうだ。
そこで俺は思った。
「鍛造である程度形になった鉄を・・・削る」
「削る!?」
これは切削加工と言って、金属や木材をドリルなどで削って加工する方法だ。
「ショウの旦那。削るって、一体どう言う事じゃ?」
「ドリル・・・って言っても分からないか。そうだなぁ」
何か想像しやすい物はないかな?
と思いながら、シェリルさんに目を向けると、彫刻刀で木に印を入れてるのが見えた。
「それだっ!彫刻刀だ!」
「彫刻刀?」
「彫刻刀?これがどうかしましたか?」
シェリルが手を止め近づいてきた。
「ああ、うん。ちょっとそれ借りるね」
俺は近くにあった書類を裏返し、工作用のドリルや切削工具の絵を思いつく限り描いた。
製図を沢山したおかげで絵画力も上がり、すぐに書くことができた。
「なるほど。これがあれみたいに・・・回転させる事によって刃が・・・それでここが削られて・・・それがドリルと言うものか!」
「えっと、私は何がなんだが・・・」
「シェリル殿!これなら素晴らしい物が出来そうじゃぞ!」
「いや、私はまだ何のことか・・・」
どうやら切削加工という新しい発想はドーヴェルさんに火をつけてしまったらしい。シェリルさんがどんどん置いてけぼりにされ、獣人の特徴の耳を後ろにやったり、前に動かしたりする。
仲間ハズレは良くない。
これからの事もあるし、ちゃんと説明した。
「よく思いつきましたね。流石です」
「しかし、どうやってそんな鉄の塊を打つんじゃ?厚みの薄い剣とは違うぞ?」
「まあそこはひたすら大きなハンマーとかで叩くしか無さそうだ」
「むむ・・・」
「あの、鉄の精製さえできてしまえば、私の仕事って減るんじゃ・・・?」
「シェリルさん。心配しなくても大丈夫!多分ここで君の力が必要になる」
「ええ!?」
大きなハンマー。
現在の技術で作れる産業用のハンマーになら一つ心当たりがある。
俺が修学旅行で某記念館へ行った時に見たものだ。
「蒸気ハンマー」
「「え?」」
「それは何ですか?」
「蒸気とハンマー?どう使うんじゃ?」
説明するのは簡単。
「蒸気ハンマーっていうのは、簡単に言うと、蒸気で大きなハンマーを持ち上げて、蒸気を排出してハンマーを落とす道具の事です」
簡単な図にして見せる。
「蒸気でハンマーを・・・!」
「送り込まれた蒸気で・・・なるほど」
2人とも原理を分かってくれたみたいだ。
実は、蒸気ハンマーが作れると言うことは、その逆も作れる。
蒸気で持ち上げるのではなく、下ろす。
つまり圧縮機だ。
そうすればプレス加工も可能となり、工作の
する速度も精度も上がる。
と言う感じでハンマーとプレス機が完成。
シェリルさんの負担が大きくなり、火魔法を得意とする魔法使いを数人、一時的に雇うことになった。
あとは切削加工機の製作だった。
切削加工機の動力となる電源も用意された。
電磁石を使った永久磁石の作製が成功し、発電機も電気モーターも完成していた。
ロジャーバッテリーもどんどん開発された。
流石にリチウムイオン電池まではいかないが、そこまでの精度を必要とせず、単純な元素を使った鉛蓄電池はできた。
因みに硫酸は、学院にある錬金術研究会から買った。
どうやって買ったかと言うと、まず研究会について知る必要がある。
俺は親が学院の卒業生だと言うシェリルさんに話を聞いた。
「本来、研究会を維持するには存在価値が必要です。まずそれが無いと研究会と認められず、学院の許可が下りません!」
「なるほど」
「母に聞いた話ですが、騎士研究会とか魔法研究会、自ら道具を持ってくるのもあれば、図書館を研究室とし、道具も資金も必要としない研究会もあります。しかし、物品を多く使う研究会・・・例えば錬金術や薬草研究会の場合、薬品や専用の道具を入手するのにお金が必要です。学院から資金は出ないそうで、自分たちで出すしかありません。資金確保の為に研究発表を開いて参加費を取ったり、芸術研究会は作品を売って資金源にしたりします。その品が良ければ研究会の宣伝にもなりますしね!」
だそうだ。
「ありがとうございました」
余談だが、偶に面白い研究会が面白い何かを面白い値段で販売しているのを見るが、それが何なのか分からないから誰も買わない。俺も買わない。
よく研究会としての許可をもらったと思う。
あとで学院長に聞いてみよう。
そんな感じで車が完成し、いよいよ帝都の外で試験走行をする事になった。
今日はその最終確認。
本当はテストサーキットがあればいいんだけど、スピードが出せるほどの土地が用意できなかったから帝都の外でやる。
学院なら十分な土地があったけど、まだ入学していないから入れない。
明日出発して、第3地区から2、3日かけて外へ向かう。変な疑いを避ける為、車は荷馬車として扱う。
門を出たら、帝都を囲む外壁を一周する予定だ。
そして俺は知ることになる。
帝都一周がどれほど大変で、車の存在が知られた時、上がどの様な反応をするかと言うことを・・・




