三十七話【視察する】
あの後無事に第3地区の屋敷まで着いた。
「お帰りなさいませ。クリーク村はどうでしたか?」
「ああ、うん。色々と収穫があったよ」
俺の冒険者カードがBランクになって、受けられる依頼の数が増えたのもそうだが、ストリアのクーデター情報が一番大きい。
俺が拉致された件は今話すとしばらく解放されない気がするのでまた後で話そう。
「そうでしたか」
「そっちはどうなってる?」
「ええ、ショウ様の設計図を元に製作が進んでおります」
実はクリークに行く時に、前々から計画してたエンジンの製作を頼んでおいたのだ。
「しかし少しだけ問題が・・・」
問題?
「やっぱり難し過ぎた?」
「いえ、そうでは無くてですね・・・」
なんだ?
「実際に見るのが一番かと」
百聞は一見にしかず・・・か。
「そうしよう」
「では明日、倉庫の方までご案内します」
「うん、よろしく」
何だろう?
設計図が間違ってたか?
でもちゃんと計算したし、自作だけど定規とコンパスで描いた図は正確だ。確かな長さが分からなくても、比が同じであれば動く。
少し考えると、思い当たることが一つあった。
俺が頼んだのは普通のエンジンではなく、魔力で動く魔道エンジン。点火プラグや精密な部品が作れなかったからだ。
基本的な構造はガソリンエンジンと同じだが、燃料は魔力を含む魔力回復薬だ。
そして、動く仕組みだが・・・
俺は屋敷の図書室でいろんな魔法関連の本を読んだ。ヘレンさんの訓練でも色々教わった。その際、火魔法に分類されたある魔法を見つけた。発動すると爆発する魔法だ。実は遺跡や迷宮のトラップとして魔法陣で存在する。
因みにどのような原理で爆発するかは不明だ。
先ずはエンジンに魔力回復薬・・・燃料のパイプの栓を開き、回転ハンドル又はモーターでエンジンを回す。すると中にあるピストンが動いて回復薬が流れ込む訳だが、ピストンが、エンジンの蓋にあたるシリンダーヘッドに近づくと、ピストンとヘッド、弁に刻まれた魔方陣が完成する。流れ込んだ魔力回復薬が完成した魔方陣に触れると魔力が供給され爆発を起こしてピストンを押し返す。といった仕組みだ
しかし、エンジンに直接魔力を流せば?
という考えもあったが、魔方陣が隔離されると魔力を流せない。魔力回路を彫ったとしても、エンジンに隙間ができてしまう。それで思いついたのが、陣が完成した時に回復薬を直接吹き込む方法だ。
その魔方陣は確かに精密だが、そうしたのが間違っていたか?
我ながら結構いい案だと思ったんだけどな。
不安を抱きながらも朝を迎えることになった。
〜〜〜〜〜〜
朝日が差し込み、小鳥がさえずる。
ーーコンコンーー
「ショウ様、起きてらっしゃいますか?」
「・・・今行く」
ドアノブを捻りガチャリと開ける。
「おはようございます」
「・・・おはよう」
「ショウ様・・・?」
「ああ、うん。大丈夫」
そうです!
寝不足です!
「今日はお休みなられた方が良さそうですね」
「いや、昨日言った通り行くよ」
昨日の会話の後、部屋に残した設計図を確認したが、特に問題無かった。
数枚描いたのが間違いなのか、また設計を新たに書かなければいけないのか、何がダメなのか気になって眠れなかったのだ。
いくらロジャーさんの修行で体力つけたとしても、その時のストレスとはまた違う。
支度を済ませ、セバスチャンに付いていく。
交通手段は馬車だ。
気を使ってくれたらしく、馬車には毛布と枕があった。
移動中、仮眠を取ろうと思ったが・・・
「・・・」
セバスチャンが向かいの座席に座ってこっちを見ている。
何だこの状況・・・!
結局仮眠もできなかった。
しばらく揺られていると、馬車が石造りの倉庫の前で止まった。
「到着しました」
馬車から降りると、倉庫の方からカンッカンッと金属を叩く音が聞こえる。
「あちらです」
セバスチャンに案内されながら敷地に入ると、最初来た時にはまだ無かった高炉があり、融けた金属が倉庫に流れる様にできていた。
あれ?
でも燃料の薪と、燃焼室に空気を送る吹子が見当たらないぞ?
問題っていうのはこれのことか?
後で聞いてみよう。
すると作業員の1人が俺たちに気付いて駆けつけるとお辞儀をした。
作業着はエプロンを付けただけの感じだ。
「トルベールさんおはようございます!」
「おはようございます」
そう言えばセバスチャンの名字ってトルベールだっけ。
「そちらの方は?」
「この計画の立案者であって、貴君らの雇い主であるショウ様です」
セバスチャンが俺の事を紹介すると、作業員はもう一度お辞儀をした。
「失礼しました。私はここで高炉の管理を任されているシェリルです」
「翔です」
自己紹介をすると、シェリルのバンダナが少し動いた。
ん?
バンダナの隙間からケモ耳が見えた。
獣人か。
「今日はどうされました?」
「設計に問題があったかと思って見に来たんです」
「そうなんですね。でもあれほど正確なものは存在しないと思いますよ・・・?」
設計図に問題はないって事か。
「因みに私たちが作ってるもが何か聞いても?すごい魔方陣が組み込まれてたんですが・・・」
普通に考えたら確かに物騒だもんな。
「とりあえず・・・今どうなっているか見せて下さい!」
シェリルさんの質問を流し本題へと進める。
ここで質問魔ならぬ存在が増えても困るからな。
「わ、分かりました」
シェリルさんに付いて行くと、そこには設計図通りのエンジンが出来上がっていた。
直列4気筒のあのエンジンを想像してたはずなんだけど・・・
第一印象、ゴチャゴチャした箱。
直方体に燃料パイプや、エンジンの回転と弁を連動するベルト、色んな部品がくっついてる感じだ。
うん、見た目は重要だな。
「問題があるってセバスチャンに聞いたんですけど、動かしてみてください」
俺が言うと、シェリルが樽の様なおっさんを連れて来た。
ドワーフか。
ドワーフのおっさんは何か理解したらしく「資料通りに回せばいいのか」と言うと回転ハンドルをエンジンに取り付けると思い切り回した。
「おお」
凄いじゃないか!
「特に問題ないと思いますが・・・?」
魔力を流してないからエンジンはかかってない。
回した分だけ動く感じだ。
動作もスムーズで引っかかる様子は無い。
そう言うと「実はーーー」とシェリルさんが説明してくれた。
ドワーフのおっさんはと言うと、横でずっとハンドルを回してた。
「この高炉で鉄を溶かして、ドワーフ族のドーヴェルさんが作った型に入れます。その後取り出して設計図と比べて形を整えます。ドーヴェルさんが作った型だから後から整えると言う作業はほとんどありませんが、一応整えます」
流石ドワーフって感じだな。
「形が整ったら組み立てです。設計図通りに組み立てたら繋ぎ目を綺麗にします」
なるほど、それで繋ぎ目が全部線みたいになっていた訳か。
てかあれか、ネジとかも描かないとやはりこうなるのか・・・
確かに設計図と全く同じものが出来上がっていた。
分解が出来ないので、壊れたら即交換になる。
設計の難しさを痛感する。
「それで問題っていうのは?」
「問題と言うより、私の力不足なんですが・・・高炉で使う風魔法と火魔法を同時にやるのは少しキツイので、できればもう1人魔法使いを雇って欲しいんです・・・」
なるほど、燃料の薪と吹子がない訳だ。
魔法でやっていたのか。
てっきりエンジンがダメなのかと思ってたら違った。
しかし人手か・・・
俺の仕事じゃないな。
「だってさ。セバスチャン」
「ええ。しかし、人が見つからないのです」
んー
「薪は使えないのか?」
「これほどの高炉となると大量の薪が必要でして、その・・・冬も近い上、帝都でそれほどの量の薪を調達しますと暴動が起きます」
「火炙りの刑で使う油は?」
「暴動は起きないと思いますが、こちらも同様に生産が追いつきません」
なるほど・・・
それで魔法使いのシェリルさんに負担がかかる訳だ。
その燃料事情をカバーしてるシェリルさんって結構すごい人かも・・・
「何か考えておくよ。他に何か要望がないか聞いてくれ」
「かしこまりました」
セバスチャンとシェリルさんが話している間、俺は倉庫を見て回る。
自動化できるものならした方が楽になるからな。
手をポケットに突っ込み歩いてると、覚えのある感触・・・
ポケットから出して見てみる。
『第3地区工房ギルド受け取り番号1788番』?
あれか・・・
拉致の件は覚えてたのにこれ貰ったの完全に忘れてた。
ジャック怒ってるかなぁ・・・
というか、怪我してたのにそのまま飛び降りて無事だろうか?
これから行ってみるか。




