三十六話 【逃げた】2
私の名はグレゴール。
治癒師になって10年が経つ。
今まで色々な患者や怪我人を診てきたが、中には救えなかった者もいる。
例えば、魔物との戦闘で体の一部を無くしたり、治癒魔法を掛けても衰弱しきっている場合は助からない。
さっきの少年なんかそうだ。
木が刺さっていて、骨折どころか、腱も切れていたのだろう。全体的に腫れていた。
あれでは木を抜いたところで、痛みのショックで死んでしまったり、命は助かっても満足に歩けなかったりする。
本来なら、脚を切り落とすくらいしか選択肢は無い。
それに私も一度みたが、治癒はしなかった。
まあ、ここの治療院の院長がいたから任せたというのもあるが、自分には治せないと思ったから引き受けなかった。
その院長もお手上げだったが・・・
しかし、少年は救われた。
1人の青年によって。
彼は鞄から見たことの無い道具を出した。
ガラスの様な見た目なのに柔らかい入れ物や、妙な形のナイフ。
報酬で痺れ薬を要求したと思ったら、少年に飲ませた。
最初は訳がわからなかった。
なぜ痺れ薬を飲ませた?と。
少年が眠ったのを確認すると、いきなり木を抜こうとした。
いろんな治癒師が試した。最後に院長も試したが、木が引っかかってダメだった。
それに少年が痛そうにする。
今回も駄目だろうと思っていたが・・・
ローブを纏った青年は引っかかるところを切って木を抜いた。最後に取り残しがないかも確認をしていた。
傷口に手を突っ込んでだ。
そうしていたにも関わらず、少年は痛む素ぶりも見せなかった。
まさか痛みも感じなくするとは・・・
恐らく痺れ薬の効果をよく知っていたんだろう。
私ですら知らなかった。
それに最後の傷の治し方もどこか違う。
これは私の知っている治癒魔法では無い。
「終わりました」
凄い・・・
「あんな使い方があったとは・・・!」
思わず声に出してしまった。
痺れ薬を使う事で他にも多くの命を助けることができるかもしれない。
その後少年の家族が来て少し騒がしくなり、少年の様子をみたりした。
って私は何をやっているんだ!
そんな暇があれば他の怪我人を・・・
「・・・!」
青年が既に治癒していた。
すまない。
好奇心のあまり、本来の仕事を忘れていた。
私は治癒師失格だ・・・
しかしこのままでないぞ!
すぐにでも仕事に戻ろう。
しばらくすると、グスタフ卿がやって来たが、特に関心は無かった。
私は怪我人の軽い手当、汚れを拭き取ったり、片付けなどをしていた。
ふと、あの青年は何をしているんだろう?と思い探してみる。
「居ない?」
するとグスタフ卿が「ショウ様!?どこだ!?」と声をあげた。
そして視線の先にはあの青年がいた。
ショウ?
青年の名前?
と言うかいつの間に!?
気配すら感じられなかったぞ!?
彼は扉は閉め出て行ったが、私は追いかけた。
〜〜〜〜〜〜
「ゼェ、ゼェ・・・」
逃げ足の速い奴め・・・
「待てぇ!」
聞きたいこと山ほどあるんだぞ!
「ゼェ、ゼェ・・・」
「やーい捕まえてみろー!」
あのヤロー!
私は治癒師だ。
そんな職業だが、何かあった時のために日々トレーニングを積み重ねて来た。
走る事くらいできる!
ザッと地面を蹴る。
確実に近づいてるはずだ。
「!?」
追いつかれるとでも思ったのか?
路地へ逃げ込んだ。
残念だったな!
ここは私の庭の様な場所だ。
その先の通路は行き止まりだぞ!
っとお!
角を曲がったらローブを被って転んでる彼を見つけた。
捕まえたぞ!
「やーい捕まえてみろー」
「!?」
なんだ?
声の質が少し変・・・?
でも口調もさっきと全く同じだ。
後ろか!?
でも追いかけてた青年は今ここで転んでいる・・・!
はっ!
私は何を考えているんだ!
多少違和感はあるが、今の声は青年のものに間違いない!
後ろだ!
捕まえて聞き出してやる!
何を?
色々だ。
治癒師として、もっと多くの命を救う方法をだ!
そして彼女を・・・救うんだ!!




