三十五話 【設計ミス】
ドンドンドンッ
「ショウ様!今の音は!?」
銃声は遠くだ。
ここで騒ぎ立てるほどでは無い・・・
「ショウ様っ!大丈夫ですかっ!?」
ドア向こうからグスタフの声が微かに漏れる。
怪我人を休ませる為の部屋ということもあって、音が漏れないように防音の効果が施されているようだ。
開けるべきか・・・?
ジャックとの話は終わってないが、グスタフを無視することもできない。
ジャックに視線を向けると、小石と紙切れを渡してきた。
「第3地区工房ギルド受け取り番号1788番・・・?」
「そこで待ってる。あとグスタフ卿は信用するな」
「なんで?」
「・・・感だ」
感かよ。
そう言うとジャックは窓を蹴破り、窓枠に乗った。
「へ?」
ドンドンドンッ
「ショウ様!何か異変でも!?」
ドアを叩く力が増した。
「お前も逃げた方がいい」
そう言うとジャックは飛び降りた。
正気か?ここ三階だぞ?
「ショウ様!ドアを破るのでドアから離れてください!」
「やっべ」
いそいでノブに付いてる鍵を解き、手をかけた瞬間ドアが勢いよく開いた。
「うおっ」
勢いで姿勢を崩した。
「ショウ様大丈夫ですか!?さっきの音と関係が・・・?まさか・・・ジャック貴様か!?」
グスタフが睨み見回すが、ジャックはすでに居ない。
ていうか俺が転んだのお前の所為だよ。
「ジャックあの野郎・・・」
ジャックが逃げた痕跡を見て顔を赤くするグスタフ。ドアの開き具合と俺の位置で何か理解したのか、すぐ青くなる。
カラフルな奴だ・・・
「ショウ様!しっ失礼しましたぁ!」
こいつ今日だけで何回謝ってるんだ・・・
構ってるだけ時間の無駄だな。
「はいはい、怒ってないんで立ちましょうねー」
とりあえず、頭で床に焦げ跡を残そうとするグスタフを立たせる。
「あの、大丈夫ですか・・・?」
誰かと思えば、さっきまで空気だった兵士君じゃないか。
「大丈夫だ。とりあえず、グスタフさんに水を飲ませて落ち着かせよう」
「そ、そうですね!」
介護されるグスタフを余所目に部屋を出る。
グスタフはと言うと「私は・・・ショウ様に・・・体当りを・・・」などと言っているが無視だ。
部屋を出る時にさり気なくドアの鍵を入手。
「あっショウ様!どちらへ!?」
「ちょっとそこまで」
ドアを閉め、逃げる為の時間稼ぎに鍵をかける。
「開けてください!」
ドンドンッ
グスタフも一応貴族だ。流石に窓から出るという選択はしないだろう。落ちたら汚れるし怪我もするからな。
いや、グスタフは第4地区で俺が見た貴族とは違う。案外窓から・・・無いか。
とにかくこの建物出るのが優先だ。
しばらく歩く・・・
意外と広いな。
なんて言う建物だろう?
廊下を歩いていると、色んな人とすれ違う。
現在の俺は異世界の格好をしているため特に何も言われない。
あとここが公共な建物という可能性も出てきた。
色んな種族を見るからだ。
そんな事を思っていると、後ろから走る音が聞こえてきた。
「道を開けてくれ!」
振り向くと、グスタフの様に真っ白なローブを着た異種族の男が数名と、予備だろうか?ローブを沢山持っている小さな女の子・・・アリッサが走ってくる。
「アリッサちゃん?」
「あっ盗賊のお兄ちゃん!」
盗賊じゃねえ。
「アリッサ!構うな!それより早く行かないと君のお兄さんが困るぞ!」
「はい!」
男達と少女は去った。
なんか関わると面倒そうだし、特に何も起きなくってよかった。
「ああ・・・」
床を見ると白いローブが落ちていた。
アリッサが落としたのだろう。
面倒な事になりそうだ。
俺はローブを拾うとアリッサの後を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇
「グスタフ卿!閉じ込められました!」
「なんとかしなさい!」
「無理です!開きません!」
「蹴り破れ!」
「外からならできたのですが、このドアは内開きです!枠が邪魔で破れません!」
兵士はドアを蹴り破ろうとするが、ここは治療院だ。精神を病んでしまった者も入れられる。閉じ籠った場合、入れる様にはできているが、中からは開けられない様になっている。
ではなぜ窓は鉄格子を付けなかったのか?という疑問だけが残った。
グスタフもそれに気付き、窓を見つめる兵士にこう言った。
「設計ミスだな」
「ですよねー」
窓から出る方法もあるが、貴族として育てられたグスタフはその勇気も力もなかった。
「そう言えば、鍛冶屋の爺さんの治療を頼まれていたな」
「え?またですか?聞いてませんよ?」
「運び込まれるのが今頃だから思い出したのだ」
「今頃ですか・・・」
「・・・」
「窓はやめて下さいよ?」
例えグスタフが窓から出ようとしても、側にいる兵士が命を懸けてでもそれを止めただろう。
彼はグスタフの治療によって救われた者の1人なのだ。
本来であれば貴族は治療行為などしない。民から巻き上げた金を国に納める。地域の管理もするが、大抵の貴族は金を巻き上げておしまいだ。
その貴族であるはずのグスタフが民に治療行為をしている。
貴族からの評価は悪いが、この国の民からは支持されるほどだ。
騎士団長のアルノルトもそうである。
彼が大怪我を負った時、真っ先に駆けつけたのはグスタフだ。
アルノルトは貴族が嫌いだったが、グスタフだけは別だった。
その英雄が今ピンチだという。
グスタフが『賢者』と言っていたあの少年は追跡を振り切るために鍵をかけた。
兵士も同じ状況ならそうしただろう。
しかし、グスタフには治療という形で期待に応えなければならない。
早くここを出なければと思う。
時間が一刻と過ぎていく。
「グスタフ卿!離れて下さい!ドアを爆破します」
「おいおい!怪我人出たらどうするんだ!?」
兵士は少し考え、こう言った。
「こうしましょう。私が窓から出て外からドアを開ける」
「むむ・・・本当にいいのか?」
「それしか無いみたいです・・・後で治してくださいね」
そういうと兵士は窓から身を乗り出した。




