三十二話 【確信に至る】
ドアがバンと開き、鎧を着た兵士らしき男が部屋へ入って来るなり、こう叫んだ。
「グスタフ卿!ストリアへ送った密偵が戻りました!」
「本当か!?今すぐ連れて来るのだ!」
「それは無理です!脱出する際に負傷して現在治療中です」
「なに!?」
グスタフは慌てるように兵士の後を追った。
と思ったら戻って来た。
とても申し訳なさそうな顔だ。
「ショウ様も来て頂けませんか?」
俺のこと忘れてたな・・・
とにかく、今は一刻を争う。
グスタフを責めるよりついていくのが先だ。
2人の後を追ってしばらく廊下を走る。
角を何度か曲がり、階段を下り、一つの部屋の前で立ち止まった。
兵士がゆっくりとドアを開ける。
「やっときやがったか・・・ってお前か!」
ベットにいる男が俺を見るなりそう言った。
うん、全く心当たりがない。
するとグスタフが何やら慌ててベットに寝かされた男を睨む。
「ジャック!賢者様に向かってそれは何だ!」
「賢者?こいつが?ハハッまさか!いてて」
ジャックは笑い飛ばすと傷が痛んだのか、包帯や布が巻かれた場所を押さえる。
「負傷したと聞いて駆けつけたが、心配する必要もなさそうだな!」
グスタフは嫌味のつもりだろうが、実際に見た所、かなりの大怪我だ。
「それは言い過ぎだぜ、グスタフ。せっかく情報を持ってきたってのによ・・・」
グスタフは諦めたようにため息を吐く。
「分かった、分かった。で、ストリアはどうだったんだ?」
グスタフが何があったのか聞こうとするが、ジャックはニヤリと笑うと、ポケットから紙切れを取り出し、ベットの横に付けてある台の上に置いた。
所々傷んでいる。
「情報ってのは安くないんだぜ?コレが欲しけりゃ、金だ金」
「ふむ、金は払ったはずだが?」
「今回は追加料金がかかる」
台を叩くジャックをみてグスタフが兵士に目で合図を送る。
次の瞬間、兵士がナイフを投げた。
ジャックは条件反射で紙切れを取るが、ナイフは紙を串刺しにし、そのまま壁に刺さった。
作戦が上手く行ったグスタフは、得意げにナイフを壁から抜くと、刺さった紙を丁寧に取る。
「な!?なんだこれは!!!」
紙を開いたグスタフの声だ。
「何も書かれていないではないか!」
「ふっ!ふははは!グスタフ!まさかこのジャック様がそんな簡単に情報を渡すとでも思ったか!?いたたた」
「貴様騙したなあ!」
おっとこれはまずい。
「グスタフさん!ちょっと待った!」
とりあえず今にも襲い掛かりそうなグスタフを止め、間に入る。
俺に直接関係無いとはいえ、目の前で殺人とか起きたら気分が悪い。
「ショウ様!なぜ止めるのですか!?」
「まあまあ、俺に任せて」
「・・・分かりました。賢者のいう事ですから」
相手が思い込んでるが故にできる芸当だ。
もう少し、この立場を利用させてもらおう。
「えーと・・・」
「ジャックだ」
「ジャック。俺は翔だ。よろしく」
「ああ。で、ショウさんよ、なんであんたがここに居るんだ?」
んなもん知るか。
「連れてこられた」
間違ってはいないだろう。
グスタフを見ると、申し訳なさそうな表情をしている。
「護衛の2人はどうした?」
「護衛?」
「グレイプス家の娘と、野郎だ。その2人は一緒じゃねぇのか?」
グレイプス家?
ヘレンさんとロジャーさんの事か。
どうした?と聞かれても困る。
そもそも護衛では無いし。
ていうか、何で知ってるんだ?
「一緒では無いね」
「そうか。で、お前は何者だ?」
「・・・冒険者?」
と答えた時、部屋に小さな影が入ってきた。
「あっ!盗賊のお兄ちゃん!」
アリッサだ。
グスタフが慌ててアリッサを部屋から追い出す。
「お前、盗賊なのか?」
「盗賊ではない」
「じゃあなんだよ!お前の本当の正体は!さっさと答えろ!いたた」
なんだこいつの執着心は・・・
相手は怪我人で襲って来ないのは予想つくが、それでも少し恐怖を感じる。
するとアリッサを追い返したグスタフはもう既に我慢の限界なのか、ついに声を上げた。
「そこまでだジャック!このお方は賢者なんだぞ!身の程をわきまえろ!」
「はあ?」
グスタフは尊敬の眼差しを、ジャックは疑いの目を俺に向けてくる。
俺は目をそらした。
「ほれみろ嘘だ!」
「失礼だぞ!」
「お前もさっきの見ただろ!」
「それしきで嘘などと言うとはっ!」
するとグスタフが寄ってきてこう言ってきた。
「ショウ様、貴方が賢者であることを見せてやってください!」
んなもんどうしろと?
ここで賢者でないことをバラす?
そうしたらグスタフに何されるか分からん。
騎士団長を動かせる人物はそういないだろうし、それ相当の権力者だ。
少し考えたが、このまま勘違いさせた方がいい。
「ジャック」
「何だ」
「確か君は、ストリアに行っていたんだよね?」
「ふん。それくらいグスタフに聞けるだろう。それがどうした?」
「君が見てきたものを当ててみせよう」
「ほう?」
一か八かの賭けだったが・・・どうやら上手く行ったらしい。
「な・・・なぜそれを・・・!?」
ジャックが、怪我した場所を手で庇うようにし、一瞬だが怯えるように見えた。
クリーク村での出来事。ここに拉致された時に聞かされた話。俺が取り出した銃のカートリッジに怯えるジャック。
俺の予想は正しかったようだ。
「何に驚いたか知らんが、言っただろうジャック!このお方は賢者様だと!」
「分かった。でも、賢者は伝説の・・・」
まあ、賢者では無いけどね。
グスタフは満足したのか、フフンと笑う。
ジャックはまだ半信半疑のようだが、これ以上何かを言うことは無かった。
このまま黙られても困るので、早速ストリアで何が起きたか聞くことにしよう。




