二十八話【見えない敵】
「おいっ!なんだあれ?」
「騎士か?」
「それっぽいな」
馬車に揺られているとそんな会話が聞こえてきた。
帝国騎士と聞いて頭に浮かんだのは、帝都に初めて行った時の門番。そう、あのあんぽんたんだ。
ニコニコしてて印象良さげだが、俺の不審さを全く疑わなかったあのアホだ。
なんだ?と思いながら外を見ると、すれ違いざまにパカラッパカラッと馬の蹄が鳴った。
あの格好は・・・確かに帝国騎士だ。
あの時のアホと同じ格好。
騎士とすれ違った後は特に話題も無くなったのか、馬車は車輪と蹄の音だけを鳴らしていた。
日が暮れ、野宿をしようと馬車を止めた時だった。
「ガルルルルルルッ!」
「なんだ!?」
「魔物か!?」
「どこだ?どこにいる!」
冒険者が馬車から急いで降りて周りを確認するが、馬車に積んでいたランタンの明かりだけでは見つけられない。
俺も警戒しながら馬車を降りて確認する。
ザザッと音がするがそこを見ても何もいない。
修行をしてた時のロジャーさんの言葉を思い出す。
ーー敵が見えないときは魔力を感じろーー
ロジャーさんが魔力を隠してそれを探すという修行だ。
もちろん見つけた。
ロジャーさんの思った通りでは無かったが・・・
「全然見えないぞ!」
冒険者たちは必死に目を凝らしているがまだ見つからないようだ。
「誰も見つけられないのか!?」
「俺が探すよ」
冒険者の問いに俺が答える。
「なに!本当か?で、奴らはどこにいる!」
「今探すとこだ」
「なにやってんだ?それじゃ見えないだろう!」
俺の行動を見て、そう言ったのだろう。
俺が目を瞑ってしゃがんだからだ。
通常であれば、目に魔力を込めて、魔法だったり魔力反応を可視化する魔眼を使う。ロジャーさんもそれを期待していたのだろうが、俺の魔力はほぼゼロ。そんなのできない。
「・・・一匹見つけた」
「は?」
魔物の方向を指すと、他の冒険者がそこに魔法を放った。
ドンッという音とともにグラァァァァと聞こえる。
「もう一匹」
同じように、魔法を使える冒険者が魔法を放つ。
ドンッと聞こえたと思うとグギャァァァと鳴き声が聞こえる。
「そいつの目の前、2メートル」
名前が分からないから指で指す。
その冒険者はハッとしたかの様に剣を振りかぶった。
グラァァァァ!
ドサッ
探した限り、いたのは4匹、1匹は敵わないと考えたのか、逃げていくのが分かる。
「もう居ないみたいだ」
「本当か?」
「ああ」
ピリピリしてた空気が落ち着いて来た。
「いやー、君の魔法凄かったよ。なんていう魔法だい?」
「あたし?<魔力球>よ」
「すげぇ威力だったぜ」
「ありがと」
戦闘が終わると安堵したのか、雑談したり、魔法の詳細を聞いたり、話す者が多かった。
俺も例外では無い。
「ねえ、あなた。名前は何て言うの?」
「翔だ」
「ベラよ。よろしく」
「よろしく」
見た感じ、普通の冒険者だ。
「さっきはどうやったの?魔法使ってないわよね?」
「そうだ、俺もそこが気になる」
会話に割り込んで来たのはさっきの冒険者、俺がしゃがんで目を瞑った時に驚いてた者だ。
「ちょっと!名乗りもせずに失礼じゃない!ショウが居なかったら殺られたかもしれないのよ?」
「すまん、ジュークだ」
「翔だ」
「それで、ショウ、教えてくれるか?どんな魔法を使ったんだ?」
「ああ、まず第一、俺は、魔法を、一切、使っていない」
2人は俺の言葉を一言一言真剣に頷きながら聞き、そして予想通りの反応をした。
「「はああ!?」」
「魔法を使ってないってどう言うことよ!」
「俺をバカにしてるのか?見えない敵を見つけるには魔眼か、それ以外の魔法か何かだ!」
魔眼、なるほど。
俺が目を閉じたことで魔眼の線が無くなり、魔法という結論に至ったのか。
まあ、こんなとこだろう。
「俺が魔法を使った様なそぶりを見せたか?」
顔を見合わせて左右に首を振る2人。
「俺がやったのは、極限まで自分の魔力を抑えて周りの魔力を感じやすくしたぐらいだ」
俺は魔力量が自然界の量と変わらない。
魔力が濃い場所へ行けばそこまで上がるが、薄い場所へ行けばそれだけ薄くなる。
だから魔力石が無ければほとんどの魔法が使えない。
俺は代わりに自分の魔力の低さを利用した。
自然界と変わらぬ魔力量だと、逆に魔力を持った物が見つけやすいのだ。
例えば、住宅地があるとしよう。
住宅地が自然界の魔力とすると、住宅地に建った高層マンションは魔力を持った人や魔物だ。
住宅地のどこに居ても、高層マンションは目立つ。
それと同じだ。
自然界の魔力と変わらない俺には、魔力を感じるだけであればすぐに見つけることができる。
一通り説明すると、2人は腑に落ちない様子でこちらを見た。
「俺にもできるのか?」
「さあ?魔力を抑えるか枯渇させればできるんじゃないか?」
悪魔でも俺の予想だ。
それに枯渇させれば命にも関わるからやらないだろうが・・・
「そうだとすると、あなたが今も魔力を抑えているか、枯渇状態だということになる。人はそこまでの長時間耐えられないはず」
"今も"と言ったのはベラが俺を魔眼で見たからだろう。
「確かに、俺も見たが凄いな!」
いやいや、魔物を探すのに使えよ・・・
これ以上、俺の魔力量について話すのはマズイないな。
話題を逸らすか。
「ところで君たち、魔眼が使えるみたいだけど、どうしてそれで魔物を探さなかった?」
「「え!?」」
なぜ驚くんだ?
「魔眼でも魔物を見つけられたはずだ。違うか?」
「ナイトウルフは魔眼じゃ見つけられないぞ?」
「周囲に溶け込むから」
説明を補う様に2人は話した。
ナイトウルフ、確か、ステルスに特化した狼型の魔物だ。
「見えなかったっけ?」
「見れねぇよ!」
「見えないわよ!」
ハモる。
「てっきり見えるのかと思ってた」
そう言いながら、馬車にいた者が調理したナイトウルフの肉を食べる。
2人は「はあ」とため息をつくと、差し出された肉を口へ運ぶ。




