十二話 【お風呂】
「----」
「--ウ」
「-きろー」
ん、眠気が邪魔して聞き取れない。
「ショウ、起きろー」
ロジャーさんか。
「おはようございます」
「おはよう」
窓を見る。
外はまだ薄暗い。
「もう起きる時間ですか?」
「いや?」
「じゃあ、なんで起こすんですか?」
「風呂に入った方が目覚めが良くなると思って早く起こした」
ああ・・・
そう言えば、この世界に来てからちゃんとした風呂に入ってないな。
前の宿には無かったし、野宿の時は河原で水を浴びたり、無い時は布で拭くことしかしなかった。
「風呂ですか」
「ああ、朝入る風呂は意外と気持ちいいぞ?その風呂を各部屋に置いてるこの宿も珍しいから入った方がいい」
「そうなんですか?」
「ああ、大量の水を使うのは大変なんだからな?」
この世界ならそうだろうね。
前の宿にも無かったしな。
「では、その風呂へ行ってきます!」
「おう!」
さて、久しぶりの風呂だ!
かなりワクワクする。
ドアを開け、中に入る。
板張りの部屋に、風呂桶とイス、壁にレバー式の蛇口が付いている。
一つしかない・・・
レバーを横にひねって水が出るのを確認する。
手にかけると感じないが、身体にかけると冷んやりする微妙な温度だ。それに風呂と言うから湯槽があるのかと思ったが無かった。水の温度が低いから無いのか?
これ以上考えても仕方ない・・・
あるもので済ませよう。
ーーーーーー
着替え、風呂から出る。
「長かったな」
「え?」
そんなに長かったか?
「俺ならショウの半分も掛からないぞ?」
どんだけ早いんだ。
単に俺が遅いだけか?
タオルで身体を拭いたりしたらそれぐらいかかると思う。
「身体を洗うと自然に時間が掛かると思いますが?」
「風呂なんて水浴びてパパッと終わらせるもんだぞ?」
そうなのか?
この世界の常識なのかロジャーさんの常識なのかよく分からない。
そもそも今の話だと風呂の意味があまり無いような気がする。
身体を水で洗う場所がロジャーさんにとっての風呂なのか・・・
ドアがコンコンとノックされ、向こうから声が聞こえる。
「ロジャー、ショウ起きてる?そろそろ行きましょう?」
ヘレンさんだ。
あれ、もうそんな時間か?
「おう、今行く。ショウ、準備したら来てくれ。外で待ってる」
「はい」
急いで荷物をまとめる。
出したものは少ないが、俺が寝てた間にロジャーさんが買い出しをしたのでその荷物を入れる。
外の店は意外と早朝からやってるらしい。
準備をし、廊下へ出る。
「遅いじゃない、行くわよ!」
「すみません」
待たせてしまった事を謝罪しておく。
ヘレンさんは気にしない感じでそのまま歩き出した。
階段を使って1階へ降り、ロジャーさんから預かった部屋の鍵を店員さんにお礼を言いながらカウンターへ戻す。
外ではロジャーさんが馬車と一緒に待っていた。
ん?馬車?
ヘレンさんのせいで借りられなくなった筈じゃ?
「その馬車どうしたの?」
すごく嬉しそうにヘレンさんが聞く。
「知らん」
「え?」
ヘレンさんが、訳がわからないみたいな感じでフリーズする。
「最初から置いてあった。誰かの迎えじゃないか?」
そもそも関係無かった・・・
これを聞いて、「なんだ・・・」と、ものすごく残念そうな顔をするヘレンさん。
もっとも、馬車を借りられなかったのはあなたの買い物のせいなんですが・・・
「じゃあ行こうか」
「はい」
「・・・うん」
ヘレンさんはがっかりしたままだ。
どんだけ乗りたいんですか?
まあ、俺も馬車に乗ったことが無いから興味はあるが・・・
3人で大通りを歩く。
早朝でも結構人がいるようだ。
屋台に集まった人で少し騒がしい所は、ここに来た時とあまり変わらない。
あ、でも獣人族が居ないな・・・
この事をロジャーさんに聞いたら、「朝寒いから寝てるんじゃないか?」と言われた。
寒くて耳を垂らし、眠そうにしてる所を想像してみる。
獣人族のイメージが変わったな、なんか動作がかわいい・・・
そんな事を考えていると、「何をニヤついているんだ?」と、ロジャーさんに言われ、ヘレンさんには「何こいつ」と変な目で見られる。
これはニヤついているのでは無く、ワンちゃんネコちゃんに癒された時の笑みです。
そんな目で見ないでください・・・
大通りをしばらく歩くと、大きな壁が見えて来た。
帝都に入る時に見たような壁よりは小さいが、これも立派だと思う。
「あそこを過ぎれば第四地区よ」とヘレンさんが教えてくれる。
「地区っていくつあるんですか?」
「五つあるわね」
「今入る所は?」
「第五地区ね。帝都の一番外側にあるわ」
「帝都の中心って第一地区ですか?」
「ええ、でも皆は最上地区って呼んでるわね」
「最上地区・・・ですか?」
「地区のお偉いさんや有名な人、軍のトップ、研究機関の人しか入れないからね。前の皇帝の時は、それなりの理由と安全が確認されれば入れたんだけどねー」
なるほど・・・
それに研究機関とやらが気になる。
「研究機関ってどんなのですか?」
「魔法や歴史、戦術とかじゃないかしら?」
ヘレンさん自身もよく分かってないのか・・・?
「そうですか」
話してるうちに、門の方へ近付いて来た。
ここにも帝国騎士だっけ?門の前で見張りをしている。
まさかとは思うが、また「検査だ!」とか言われないだろうな・・・
そう思いながら門の前へ向かうのであった。




