二人の男のすれ違い
三月十九日、その日は春一番が吹いた日だった。朝からの強い風が新芽の芽吹いた枝を揺らし、また冬物のコートを何度もなびかせていた。
「どうせならコートごと吹っ飛ばしてくれたらいいのにな」
ワックスでセット髪を何度も微調整しながら剛が続ける。
「それならそのコートを拾った時に、自然と会話できる」
「真面目な顔して何言ってるんだよ」
走は呆れたと言わんばかりに首を振るとウエイトレスが運んできたばかりのコーヒーを一口含んだ。剛とは故郷である北海道の中学で知り合った親友だ。好きなものが何かと同じで、家も近かった事もあって仲良くなるのに時間はかからなかった。好きな人まで同じだった事もあるほどウマが合う奴。(その時は多少距離をとっていたかもしれない)しかし、剛と走には大きな違いがあった。
「別におかしな事じゃないだろ。女の子と仲良くなりたい。それだけだ」
剛は歩道に目を向けたまま器用にカップの取っ手を掴むと口元まで持っていく。
「仲良くなりたいってのは男として普通の事だと思うさ。僕が言ってるのは仲良くなるための手段だ」
「何がおかしい?」
全く分からないといった表情で剛がこちらに目を向ける。
「もういい」
説得するのを諦めた僕はスマホを取り出して天気予報のアイコンをタップする。
気温20度、風速15m。
現時点で気温が前日から5度も上昇している。
目の前の男とは無関係である事を装おうスマホを覗いた走だったがその数字は走の気疲れを助長させたようで走はすぐにスマホから目を逸らした。
「どうして僕を呼んだんだよ。ナンパなら一人で出来ただろ」
視線を隣に座るカップルと思しき二人組に合わせながら抑えたトーンで言う。
「言ったら来ないだろ?いつもなら一人でするけど今日はそういう訳にもいかない」
僕の苛立ちに気付いていないのか気付いていてあえてなのかは分からないが、緊張感の全くない声でそう言った剛に対して軽く怒りの感情が沸き上がるが、それを抑え込むと視線を剛に戻した。
「僕が必要なのか?」
「必要っていうか主役かな。このナンパはお前の為にやってるんだから」
剛は僕の目を見ながらそう答えた。口元は笑っていない。は?どうして?頭の中の疑問符は激流の如く全身を流れ血肉を満たす。しかし、疑問符の濁流は治まることを知らず決壊したように口から溢れ出た。
「どうしてそんな事をしたんだ?僕がいつそんなことを頼んだ?勝手な真似はやめてくれ」
それと同時にテーブルを叩き上に置かれていたコーヒーが波紋を作った。それを一気に飲み干して財布から千円札を取り出すとコーヒーカップの下に挟み、立ち上がる。剛と視線が交錯する。驚いた顔をしていたのも束の間、剛は顔を口元に笑をたたえた表情へと変化させる。
「走のそういう所を治してやろうと思ったんだよ。すぐに答えを求める所あるだろ?何かあるとすぐに結論を出そうとする。そして考えて過ぎて自滅するんだ。人間の行動なんて無意味な事ばかりだ。走はもっと心にゆとりを持つんだな」
剛はコーヒーをゆっくりと手に取り、ゆっくりと飲んだ。
「ナンパでお前のそういうところを一緒に.....」
剛の言葉を遮り僕は怒鳴った。
「何も考えてないのは剛だけだろ」
周りの客が何事かと視線をこちらに向けるのが見えた。僕は剛に背を向け歩き始める。
「おい、待てよ!」
背中から剛の声が聞こえたが止まるつもりはなかった。今日一番の強風が吹き、支持を示すように走の背中を押した。




