第二十二章 暗示
「おい、ケンジ。コジローってさ、やっぱ生えてんのかな?」
「生えてるって何がだよ、永久歯かよ」
「えいきゅうしって何だ?」
「乳歯が抜けて、生えて来る歯だって兄ちゃんが言ってたぞ」
「お前の兄ちゃん、頭いいからな。うちの兄ちゃんなんかAV女優には詳しいけどな」
「何だえーぶいじょゆうって」
「ヨシはお子様だな」
「それより、マサ。コジローに何が生えてるって?」
「そりゃあ、アレだよ。毛だ」
「毛か? そんなもん生えてるだろう長い髪だしな」
「ケンジ、バカだなお前」
「お前もバカじゃねーか」
「女で毛つーたら、アソコしかねーだろ」
「アソコって」
「アソコで分かんねーのかよ」
「またぐらだ。股間だよ。股間」
「ああ、そういえば母ちゃん、生えてるな。でも、鈴葉やマユは生えてねーぞ。ミオは見せてくんねーから分からんけど」
「何ーーーー? お前、マユの裸見てんのか」
「ああ、毎日、道場の稽古の後で風呂入ってから。おめえらも入りゃあいいじゃねーか」
「バカ、ど、同級生の女子と一緒に風呂に入れっかよ。お前、なんちゅうことしてんだよ」
「なあ、ヨシ。どうして、マユにはサオとタマがねーんだろうな、あいつはついてるべきだよな。なんだお前らどうした。赤くなってよお」
これはいつかの会話だ。目の前におぼろげに見えるのはヨシもとい田上とマサだ。二人とも剣道の道着を着てやがる。しかも、随分若けーというか幼いな。たぶん、小学校の低学年の頃だろう。
「あいつ、俺たちより二つ年上だろう。そんくらいから生えるって聞いたことあるぞ」
「ホントか?」
「ホントさ、生えてるとなちょっとエロいんだぜこれが」
「マユなんて、ガキ、ガキ。やっぱりオンナは年上だろう。そういえばお前の姉ちゃん、いくつ違うんだ?」
「姉ちゃんはなあ、六つ違うな」
「六つも違うのか?」
「そりゃあ中三だしな」
「つーことは、もうボウボウか」
「ボウボウって」
「ジャングルってことだよ」
「バカ言え、姉ちゃん、ちゃんと手入れしてっから芝生みたいにそろってるさ」
「ほんとかあ、ってお前、姉ちゃんとも風呂入ってんのか」
「姉弟だからな。そういうヨシだって、姉ちゃんいるじゃねーか」
「バカ言うな、あの暴力女。恥じらいなんかゼロだぞ。風呂上がりにおまたボウボウのままつ立って、牛乳飲んでんだぞ」
ああ、確かに姉を持つごく一般の弟がよく言われる光景だな。それが外面のいい奴だと、オンナに興味持たなくなるかもな。
「で、何でコジローのを見たいんだ」
「そりゃ、お前。身近に見てる年上オンナの方がぐっと来るだろう」
なんちゅう会話してたんだ、ガキの頃の俺たちは。
この後の出来事といえは、俺が尖兵でコジローこと紗希姉の入浴を床下からのぞきにいたんだった。当時の田上は腕っぷしも強くて、性格も今よりも強引だったからな。押しの弱い俺が貧乏くじ引かされることも多かったんだ。この時も田上に押し切られ、興味もあったんで俺は風呂場の床下をはって、秘密の隙間から田上特性の潜望鏡を穴からくぐらせて覗いたんだ。運のいいことに真正面っだったんだ。そして見えた。見えた、もろに見えたんだ。三角州の黒い草原が、草原ほどはなかったがうっすらサワサワと茂っていたんだった。俺はその光景に見とれ、ゴクリと生唾を飲み込んだのを覚えている。でも、その時、チョットばかり静かになって、潜望鏡が湯気で見えなくなったんで、そのまま床下くぐって出たんだった。出る時に、近くの立て掛け板を倒しちまって、突然に空いた窓からお湯をぶっかけられ慌てて裏庭まで逃げたんだ。裏庭に入ったところで背後から澪に襲われ、落とされたあと、紗希姉にフリチン逆さ吊りにされちまったサイテーの出来事じゃねーか。紗希姉はいたずらの仕返しも半端なかったからなあ。
この夢の続きはそこまで行くのか、今やられたらなら、とんでもないプレイに感じるけどな。
だが、夢の続きは、俺が紗希姉の秘部を見たところで終わった。紗希姉の秘部の脇の足の付け根には、三つボクロがあった。当時は秘部に目が釘付けだったが、今はその隣の足の三つボクロに釘付けになっている。
これはまた何かの暗示なのか?
どういう冗談だ。こんな場所、見知った女でも見せろとか迫ろうものなら、即、通報されて警察に逮捕されるだろう。
澪ですら、突然にそんなことすりゃあ覗きであっても肩を脱臼させるか落すだろうからなあ。紗希姉だって、似たようなものだろう。かと言って頼めば、真顔のままぐーで顔殴られか、爪を立てての往復ビンタされるのが目に見えている。豪田なら回し蹴り、霧子なら広辞苑の中に鉄板でも挟んで往復殴打だろう。俺の周りの女どもはキャーと叫ぶ前に手が出る奴らだ。
恭子なら自分から脱ぐかもしらんが、そうなりゃ向こうの家の跡取り決定だろう。
それにしても、こういうことになってるって事は、また、フリチンでおかしな機械にでもかけられてんのか。
『それはお前の力が覚醒した結果だ』
え、千代ばあちゃん。いるのか。
だが、その一言が聞こえただけで、俺の頭の中は真っ暗になり、意識は遠のいていった。
再び意識が戻ると顔の頬のあたりにふさふさした毛並みを感じた。まさか澪がヒーリングをしてくれてるのか、なんという大胆な。もう一線を超えてもいいという合図なのか、心の準備は結構出来てるけど、最初のあれって生はオッケーなのかな。まだ高校生出し、子供できちゃまずいだろう。外国じゃあ10才でガキ作った男もいるってことだし、俺のじゃ十分作れてしまうだろうに。
ああ、でもこの毛のフサフサ感。たまらない。俺は指先でもそっと触ってしまいたいが、体が起ききっていないので動かせないでいる。まぶたも開かないが、こりゃあ極上の幸せだあ。
だが、何か先のとんがったものが少しあたっている。何本か剛毛があるってか?
構わんぞ、俺は。澪、澪ちゃーん。
『にゃわ~ん』
おいおい、子猫チャンプレイか。お前も意外とマニアじゃねーか。もうちょっとこっちに、くそう俺、早く目覚めろよ。
そう焦っていると、鼻の頭がぬるっとしたものが僅かにあたった。
あれ? なんか覚えのあるような感触だ。
やがて、ぬるっとしたものが連続で鼻の頭に当たってくる。これはまさか。
カット目を開けば、マヤがいた。俺は自室のベットに胴着のまま寝かされていた。鏡を見れば左目に青あざ、右頬にキスマークで、先輩大好きの落書きがあった。
連れてきたのは、恭子だろうな。下半身に違和感も感じ、見てみればリボンが結ばれ、そこにも今日の先輩、カッコ良かったよとハートマークが書いてあった。
何をやっとんじゃ、あの娘は。
『お前さんも、ショウに似て結構モテモテだな』
また、千代婆ちゃんの声がした。だが、頭の中に婆ちゃんのイメージは現れない。いるはずもないとわかりながらも、周囲を見渡すが、幽霊のようなものも見えはしなかった。
『わたしを探しているのか、健児』
やっぱり、千代婆ちゃんだ。でも、声しか聞こえない。どうしてだ。
『健児、こっちじゃこっち』
声がする方向を見れば、マヤがいた。でも、マヤは猫の鳴き声しか出していない。なのに頭の中にはマヤの鳴き声とは別に千代婆ちゃんの声がするのだ。
俺はマヤを抱きかかえ顔をじっと見つめるが、ニャーっと泣くだけだった。どうやら俺はマユにどつかれて頭がおかしくなったようだ。
マヤは、ニャーっと鳴いて、俺の鼻の頭を舐めた。




