第二十一章 相伝
『苦戦しておるようにも見えぬが、これは試合じゃなく、稽古じゃろ。テキトーにやっとけばいいでは無いか』
さすがは千代婆ちゃんというべきだろうか、確かに苦戦はしていない。間合いも掴めて来た。今は髪一重でかわせているし、余裕で弾き飛ばすことも実は造作もないんだと、実感できている。だが、それをやればあいつをまた傷つけはしないかと恐れてもいるんだ。
『向上心の強い者に手加減など無用だぞ、健児。
お前は相手に気づかれぬようにやってきたつもりなのだろうが、それは所詮、お前の傲りだ。相手は一番それに気づいている。だから淀みと密着したんだ』
密着? マユが自ら淀みを取り込んだと言うのか? 馬鹿な?
『わたしは所謂、幽霊のようなものだ。常に家族のいる一帯を浮遊しておる。正彦の成長も、その孫たちの成長もわたしは見てきた。残念なのは、最初の子である瀬奈の成長を見届けられなかったことだろうな。
もちろん、正彦に母の温もりを与えてやれず、お前たちを抱けなかったことも無念ではあるが、お前たちがこうして生きていることはわたしの喜びでもあるのだ。
それに、わたしは弥生姉様を見捨てる訳には行かなかったのだ。わたしが短いながらもショウと夫婦になり、子をもうけ、家庭を持てたのもすべて姉様のおかげなのだからな。
話がそれた。あのマユとかいう娘がどうやって淀みを内在させたかは、わたしにはわからぬ。わたしはお前たち木村家の守護霊のようなものだからな。幽霊とて、テリトリーがあってな。血縁ない者たちのことなどはさっぱりわからんのだ。
だが、対処法ならわかるぞ。こうやって、お前と意思疎通ができたのも何かの運命なのだろうとわたしは思う。健児、わたしとともに来い!』
千代婆ちゃんの頼もしい言葉は勇気を振るい起こしてくれる。俺は婆ちゃん叫びに呼応して、『がってんだ!』と叫んでいた。
『淀みを内在させる人間は何タイプかおるが、本人の意識があって動いている時に淀みの強い意志が入ってしまって肉体の主導権を取るような場合は、衝撃波で体を眠らせれば、淀みはいられなくなり抜けていく。皆は衝撃波で悪い魂が抜け出るかのように表現しとるが、実際は強い気の波動を送って、相手の体を一時的に動けなくしてるだけだ。淀みは気流や引き込む要素が無い場所では拡散してしまうからな。
お前の戦いの相手は皆そんな奴だったじゃろ』
確かにそうだ。久商の不良達も、暴れ猪も、そして新宿のノスフェラトゥの亡霊も体の動きを止めていた。そうなるとマユはそれでは効かないということなのか?
俺は以前にも淀みの力を得たマユと戦ったような気がするのだがはっきり思い出せない。仮にあったとしたら俺はどうやって、窮地を凌いだのだ。
『健児、衝撃波とかいうのは詠御の力の無い武闘波でも気の訓練を積めば出来る、初心者技だ。
お前はもう十分に訓練を積んでいるようだ。気の大きさがそれを証明している。余程の師に学んだのだろうな』
ああ、婆ちゃんの血筋じゃないかもしらんが現役の黄泉だ。
『そうか、それなら心配無用だな。よし、健児。円移動でマユちゃんとの距離を保ちながら螺旋の気を腹の中心に貯めるようなイメージを持て、出来るだろ。やれ』
螺旋の気のイメージと言われ、俺は直感で理解した感覚を得た。体の中に螺旋状の竜巻のような気の波動が起きている。そして、その気流の回転数を徐々に上げて行くのだと理解した。
『凄いぞ健児、螺旋の回転に全くブレが無い、呼吸も乱れていないな。安定を与えているには誰だ。そうか藤崎殿の血縁者か、もう一人おるようだが気が強くて確認出来ん。これがお前の師なのか』
藤崎といえば、澪の姓だが。そうか父ちゃんの記憶で、父ちゃんの乳母を澪の婆ちゃんがやっていたのだ。俺の頭の中にぱっと、澪のイメージと澪の婆ちゃんの生乳出し姿が重なって浮かび、周囲が桃色の霞に包まれた感じがした。その直後に後頭部に木刀で直撃されたような痛みが走り、俺はよろけた。
『このバカモンが! この非常時に何不抜けたこと考えとるのだ!』
やばい、やばい。澪の事になると脊髄反射的にエロいことを想像してしまう癖はどうにかせねばならんな。本人の前では抑えられても、本人がいないところではオカズにしているのだからな。
不思議なことであるが、体の中の気の螺旋は婆ちゃんのどつきにあっても崩れていなかった。
『気を崩さ無かったことは大したものだと褒めてやりたいが、どうして、こういう時にエロいことを想像できるのだ。全く。
藤崎殿の孫娘がお前の恋人なのだな。その点に関してはでかしたと認めてやろう。あの家系は代々、大増幅師だからな。
藤崎殿にはショウも惚れとったが既に別の武闘派の彼女だったからのう。もっともショウは惚れとったというよりもオカズにしとったという不届き過ぎる理由じゃったんで、それに気づいた時にはアイツをこっぴどくしばいたわ!』
俺のこのウツケなエロ性格は爺ちゃん譲りだったのかあ。なんか爺ちゃんが今まで以上に身近に感じたよ。
『こら健児、ショウのエロ性格はどうでも良いわ。精神を集中させろ、アイツを押さえ込むぞ!』
押さえ込むって、・・・・。一瞬だが、千代婆ちゃんの言わんとする意味がわからなかった。いや、なんとなく気づいてもいたんだ、例によって記憶の一部に欠落を感じるが、同じような体験をつい最近していることを薄々感じている。
淀みを体内に宿して一体化している場合は、淀みを体内の奥底に沈め沈静化させるのだということを。
『わしは今でこそお前の意識の中におるが、いつ居なくなるとも限らん。六十年という年月は生きている者には膨大な長さかもしらんが、霊体には時間の観念はない。こうして会話している瞬間にも転生してしまうかもしれんのだ。転生すればお前とこうして話すことも、子や孫たちの成長を見届けることもできんのだ。
健児、この偶然を最大限に使え!』
わかったぜ、婆ちゃん!・・・・、あっ、
『気を使わんで良い健児、婆ちゃんでいい。私はお前の婆ちゃんだ。お前と話せて良かった。雅彦に迷惑かけるんじゃないぞ!
お前はもう、あの娘に何をするべきかを心得ただろう。これで終わるわけじゃない、これはいっ時の応急処置だ。試練はこの先にある。乗り切れると自分を信じろ!
だが、無茶はするな。私の二の舞いにだけはなるな。ショウと雅彦が悲しむ。それだけは絶対に避けるのだ』
マユを中心に円移動しながら俺の体の中の螺旋の竜巻エネルギーは最大限に大きくなったと感じた。それと同時に頭の中にいた千代婆ちゃんの気配も消えてしまった。
俺はマユを強い気と共に睨み付ける。マユは気に煽られよろけを見せた。俺は本能的に動きマユに面を入れると同時に螺旋の気をマユの体の中心をめがけて一気に叩き込んだ。マユは雷にでも打たれたように棒立ちとなり、瞬時凍りついて、ぐったりと膝から崩れ落ちた。
女子部員らは慌てて駆け寄るが、マユは気を失ってしまっている。マユを覆っていた邪悪さのある荒々しい闘気も今は感じなくなっている。
婆ちゃん、ありがとう。
自然に言葉が漏れた。生きていたら、きっと可愛くて、気がきいて、温かくて、小うるさい婆ちゃんだったことだろうな。
部員はマユの防具を外し揺すっているが、マユはなかなか意識を取り戻さないでいる。こういう時は頬でもぱちんと張れば気づくものだが、真正面でそれを遣れる勇者はうちの部員には居ない。本当に目を覚まそうものなら脊髄反射的な攻撃が真正面から来るのだから。
やれやれと俺はマユの後ろに回り活を入れてやることにした。男勝りで競泳選手のようにガッシリとした肩なんだが首筋からほのかに香るフェロモンに俺の股間はゆっくりと膨張を始めた。
堪えろ! マイサン!
なんとしたことか、道場の風呂でマユの全裸を年中見ても鼻血すら出さんこの俺が、マユの首筋に萌え、フェロモンに中毒をおこし、マイサンが膨張しているのだ。もはや全裸を普通に見ている俺には、フェチのようなものに欲情するようになったのか!
なんと不健全なんだ。男は女のヌードに正直に反応せねばならぬのに。これでは変態ではないか?
俺の真っ直ぐに育んで来たエロがフェチごときに汚されてしまった。とはいえ、今はマユを気が付かせるのが先だ。俺は角度を変え、ややマユの背中に密着させてマイサンの膨らみを女子部員共に悟られぬようにした。
そして、やーと活を入れた途端、マユは目を開けた。皆は歓喜の声を上げた。
「健児、あたしはまた負けたんだな」
ポツリと寂しそうな声がマユの口から漏れた。
「すまんがそうだ。だが、俺は本気で戦ったぞ」
「そうだな。お前は、今まで以上に本気だった。あんな速さじゃ太刀打ち出来ないさ」
マユも俺も笑いがこぼれた。
俺は急に周囲がしんと鎮まり、部員たちが目を丸くして、こちらを見ているのに気づいた。
「木村副部長、それマズイです!」と、朝比奈が神妙な面持ちで告げた。
心なしか右手の指先がプニプニした小さな突起のようなものをもて遊ぶかのように、いじっている。この感触は大きさこそ小さいがマサの爺ちゃんとこの花子の乳にのようだ。
そうだこれは乳だ!
俺はそうっと右手の指先を見た。すると、マユの豊満なバストをきつく締めていたサラシが緩み、顔出したピンク色の乳首を人差し指と中指の間に挟んで遊んでいた。
覚悟を決める間も、マユの怒涛の怒りを感じる間もなく、俺の目の前は真っ暗になった。




