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コンビニ勤務している俺が、異世界でも便利商人に・・・神様に頼まれて異世界にコンビニ開業します  作者: 300の果てに。


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4.第一異世界人はペットボトルに興味あり

半分ほど水の残ったペットボトルを片手に、土の道を歩き続けた。

ときどき水を飲んで、また歩く。道の脇に生えている草も、吹いてくる風も、今のところは地球とそう変わらない。

どこか違うものがないかと辺りを眺めているうちに、前方に灰色の壁が見えてきた。


「あれか」


近づくにつれて、壁は思っていたよりも高くなった。

五メートルくらいはあるだろうか。大きな石を積んだ壁が、道の左右へ長く続いている。

その中央に、門があった。


ようやく人の姿が見えたと思ったら、一人や二人ではなかった。

荷物を背負った人や、荷車を引いた人。その列が、門から道に沿って長く延びている。


検問でもしてるんだろうか。俺は最後尾に並んだ。

前にいたのは、肩から大きな布袋を提げた男だった。


「あの、すみません」


声をかけると、男が振り向いた。


「何かあったんですか?」


男は門のほうを見てから、少し声を落とした。


「最近、街で違法な薬が出回ってるらしくてな。門番が、怪しいやつが入ってこないか調べてるんだよ」

「それで、こんなに並んでるんですね」

「ああ。普段は、もう少し早いんだが」


ちゃんと会話ができた。


神様に説明されてはいたけれど、初めて会う相手と言葉が通じると、やはり安心した。

男の言葉も、自分が話す言葉も、特に意識することなく意味が分かる。


ただ、聞いた内容はあまり安心できるものではなかった。

異世界に着いて、最初に聞いた街の話が違法な薬とは。


俺がボトルを持ち替えると、男の視線が手元に止まった。


「それ、水か?」

「ええ。飲み水です」

「悪いが、少し分けてもらえないか。こんなに待つと思わなくてな。持ってきた分を飲みきっちまった」

「もちろん。どうぞ」


男は布袋から、小さな金属のコップを取り出した。


「これに少し注いでくれるか?」

「はい」


キャップを外し、差し出されたコップに水を注ぐ。

半分ほど入れたところで、男がうなずいた。


「ああ、それで十分だ。ありがとう」


男は水を飲み、満足そうに息をついた。

俺はボトルのキャップを閉めた。底のほうには、まだ水が残っている。


「ところで、その水筒は何でできてるんだ?」


男が、俺の手元を指さした。


「これですか? ペットボトルですけど」

「ぺっと……?」


聞き慣れないらしく、男が眉を寄せる。


「軽くて、中が見える。ガラスじゃないんだよな?」

「はい。落としたくらいじゃ、そう簡単には割れないですよ」

「ちょっと見せてもらってもいいか?」


コップをしまった男に、ボトルを渡した。

男は受け取ると、持ち上げるようにして重さを確かめた。


「ずいぶん軽いな」


指で側面を押すと、ぺこりとへこんだ。

男は驚いた顔で指を離し、元に戻ったところをもう一度押した。


今度はキャップに目を留め、ゆっくりと回す。

外して、口の部分を眺めてから、また閉めた。


「よくできてるな。これで水は漏れないのか?」

「ちゃんと閉めれば、大丈夫です」


男はボトルを傾けた。

中に残った水が動くのを、透かすように眺めている。


地球なら、飲み終えたら分別して捨てるものだ。

それを、こんなに熱心に見られるとは思わなかった。


「なあ、これを売ってくれないか」

「これを、ですか?」

「ああ。銀貨十枚でどうだ?」


銀貨、十枚。


多いのか、少ないのか。

パンがいくつ買えるのかすら、俺には分からなかった。


ただ、使いかけのペットボトルに値段がつくとは思っていなかった。

水はまた発注できるし、こちらの金も、今は一枚も持っていない。


「俺が使っていたものですけど、いいんですか?」

「構わん。気に入ったんだ」

「それなら、どうぞ」


男の顔がほころんだ。


「ありがたい。ちょっと待ってくれ」


腰の袋から取り出した銀色の硬貨を、男は一枚ずつ数えた。

差し出された手から、俺の手のひらへ、十枚の銀貨が移る。


思ったより、ずっしりしていた。


「確かに、十枚です。ありがとうございます」


俺は硬貨を確かめてから、ポケットにしまった。

男もボトルを大事そうに布袋へ入れた。


「こっちこそ、いいものを譲ってもらった」


ずいぶん喜んでもらえたらしい。


中身の水より、容器のほうに価値がある。

こちらで必要とされるものは、俺が思うものと違うのかもしれない。


列が動き、俺たちは少しずつ門へ近づいた。


門の両脇には、長い槍を持った門番が立っている。

道の端には小さな机が置かれ、街に入る人たちは、その前で足を止めていた。


一人ずつ机に近づき、何かに手を触れている。

そのたびに、白い光がちらりと見えた。


机の上にあるのは、透明な石のようだった。

両手で包めそうな大きさで、下には台座がある。


あれも、魔法の道具なんだろうか。


前の男の順番が来た。

男は慣れた様子で石に手を置いた。白く光ると、門番がうなずく。


続いて、男は懐から一枚のカードを取り出した。

門番に見せてから硬貨を渡すと、道を空けてもらっている。


「じゃあな。水も助かったよ」


男が振り向いて片手を上げた。


「こちらこそ、ありがとうございました」


男は布袋を肩に掛け直し、門をくぐっていった。


「次の方」


呼ばれて、俺は机の前に進んだ。


近くで見ると、石の中には細かな筋がいくつも走っていた。

向こう側が透けているのに、見る角度によって、奥のほうが淡く光って見える。


「こちらの水晶に、手を置いてください」

「あ、はい」


水晶の上で、右手を止める。


俺の中には、千年分の魔力があるらしい。

それがこういう道具に影響したりはしないんだろうか。


壊れたりしたら、どう説明すればいいんだ。


「軽く触れるだけで結構ですよ」


ためらっている俺を見て、門番が付け加えた。


「分かりました」


恐る恐る、水晶の上に手を置いた。


ひんやりとした感触が、手のひらに伝わる。

その直後、水晶の内側に白い光がともった。


「はい、結構です」


門番は落ち着いたままだった。

水晶から手を離すと、光はゆっくりと消えた。


ほかの人と同じ、白い光だ。

通っていいということだろうか。


「あの、これで何が分かるんですか?」

「街で悪事を働こうとしている者は、赤く光ります」


門番は水晶に目を向けた。


「最近、違法な薬が持ち込まれていましてね。確認にご協力いただいています」

「赤く光ったら、入れないんですか?」

「事情を聞いて、荷物も詳しく調べます。白なら、この確認は終わりです」

「なるほど。ありがとうございます」


触るだけで分かるなんて、ずいぶん便利な道具だ。


「では、ギルドカードをご提示ください」

「ギルドカード、ですか?」


門番が、俺の顔を見た。


「お持ちではありませんか?」

「はい。まだ、持っていないです」

「承知しました。通行料は、ギルドカードをお持ちの方が大銅貨一枚、お持ちでない方は銀貨一枚になります」


街に入るにも金がいるのか。

しかも、カードがあるかどうかで値段が違うらしい。


俺はポケットから銀貨を一枚取り出し、机に置いた。

門番は硬貨を確かめ、小さな箱へ入れる。


「はい。どうぞ、お通りください」


礼を言って、机から離れた。


ペットボトルを売っていなかったら、ここで立ち往生していたかもしれない。

門の向こうへ消えた男に、もう一度礼を言いたくなった。


それにしても、街に入るのに銀貨一枚。

あの男は、その十回分をボトルに払ったことになる。


高い買い物だったのかどうかは、まだ分からない。

けれど、俺には見慣れたあの容器を、男がずいぶん気に入っていたことは確かだった。


門の内側へ一歩入ると、壁の陰で空気がひんやりした。

厚い壁を抜けた先から、人の声が聞こえてくる。


呼び込みらしい大きな声。

車輪が石の上を転がる音。

どこかで、金属を打ち合わせるような音もする。


門を抜けると、道の両側に建物が並んでいた。

軒先には布の日よけが張られ、その下で人が商品を並べている。

籠に積まれた野菜。吊るされた衣服。店先で足を止め、何かを言い合う客と店主。


俺は邪魔にならないよう、道の端に寄った。


「……着いた」


ポケットに手を添える。残っているのは、銀貨九枚。

まずは、これで何が買えるのか。店先に並ぶ商品を眺めながら、俺は人の流れに足を踏み出した。

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