2.異世界でコンビニ?
ずっと申し訳なさそうにしていた理由が、ようやく分かった。
「オーナー、頭を上げてください」
小椋さんが、ゆっくり顔を上げる。
「落としたのは、オーナーじゃないんでしょう。止めようとしてくれたんですよね」
「でも、君の暮らしを……」
「そりゃ、驚いてますよ。今も、正直よく分かってないです。でも、痛いところもないですし、とりあえず生きてるってことなら、大丈夫です」
魔力と融合したから異世界に行かなきゃいけないけど、とりあえず生きてるならと気持ちを切り替えることにした。
「オーナーも異世界に行くんですよね?」
「またオーナーと一緒に働けるなら、めっちゃ嬉しいです」
小椋さんは、膝の上に視線を落とした。
「……その予定だったんだけどね。俺は、行けない」
「どうしてですか?」
「今回の通路を通れるのは、受け渡す魔力を宿した、一人だけなんだそうだ」
「じゃあ、今は……」
「久太くんだけだ」
店の中が、急に静かになった気がした。
「本当は俺が魔力を預かって、向こうまで運ぶはずだった」
「俺が先に行って、そのあとオーナーが来るのは?」
小椋さんは首を横に振った。
「一人が渡ったら、通路は閉じる。次に開くのは、千年後だ」
俺は口を閉じた。次の言葉を考えようとしても、千年という数字が邪魔をした。
「俺……一人なんですね」
「うん」
小椋さんと一緒なら、知らない世界でも何とかなる。そう思ったから、異世界に行くことも受け入れられたのかもしれない。知っている人が一人もいない場所で暮らす。そのことが、ようやく具体的に感じられた。
「向こうの神様に、面倒を見てもらえるようにお願いしておくよ」
「お願いします」
「俺はこっちに残って、お店を続けるよ。常連のお客様も多いしな」
俺は、ゆっくりとうなずいた。
小椋さんは少し間を置いた。それから、レジの向こうの棚へ目を向けた。
「それで、もう一つ、相談があるんだ」
「はい」
「俺が向こうで始めるはずだった店を、君に引き継いでもらえないだろうか」
「コンビニを、俺が?」
「うん。ただ、これは断ってくれて構わない。向こうへ行かなきゃならないからって、店まで引き受ける必要はないよ」
異世界で、コンビニ。考えてみても、うまく想像できなかった。
「……異世界の文明ってどんな感じですか?」
まず出てきたのは、それだった。異世界と聞いて、ラノベによく出てくる中世ヨーロッパ風の世界を想像していたけど、違うかもしれないと思った。
「中世ヨーロッパのような文明だよ。ただ、魔法とかがある分、暮らしは豊かだね」
電気や水道はないかもしれないけど、そのへんは魔法で何とかしているんだろうか。それなら、とりあえず暮らしてはいけそうだ。
「商品は、どうするつもりだったんですか? 一から作るんですか?」
「ここと同じ商品を扱えるようにしてくれるそうだよ」
「おにぎりとか、お茶とか?」
「そう。日用品も含めてね」
「仕入れはどうするんです?」
「そのための力を、君に渡すという話になっているんだ。事故の補償と、向こうで生活していくための支援としてね」
小椋さんは、片手で何かを持つような仕草をした。
「発注端末、いつも使っていただろう?」
棚の前を歩きながら、売れた数と残っている数を確認し、天気予報やお客さんの動きを参考に、売れ行きを予想して注文する
忙しい日に限って充電が足りなくなっていた、あの機械だ。
「使ってますけど」
「あれを、好きなときに呼び出せるようにするらしい。向こうでは、そういう力をスキルと呼ぶんだそうだ」
「……端末だけですか?」
「いや、ちゃんと商品も注文できるよ」
「ああ、よかった」
端末だけあっても、商品が注文できなきゃ意味がない。
小椋さんは少し笑って、説明を続けた。
「注文すると、君の中の魔力を使って商品を再現する。地球の店から持ってくるわけじゃないそうだ」
「俺の魔力で、商品を作るんですか?」
「うん。それが手元に届くようにしてくれる」
俺は、自分の手のひらを見た。千年分の魔力が入っていると言われても、何も感じない。
「何でも頼めるんですか?」
「最初は食品や飲み物、それから日用品だね。扱える商品は端末に表示されるから、その中から選ぶことになる」
「数は?」
「一度に発注できる量には上限がある。必要な魔力も、商品によって違うそうだよ」
俺は棚に並ぶ商品に目を向けた。水とジュースでは、どのくらい違うんだろう。
弁当一つで、どれくらい魔力を使うんだろう。
「魔力がなくなったら、やばいですね」
「向こうでは、休めば魔力は回復するそうだよ。ただ、久太くんがどれだけ使えて、回復にどのくらいかかるかは、実際に確かめないと分からないね」
とりあえず、実際に使ってみなきゃわからない。
少し怖いけど早く魔力を使ってみたくなった。
「発注端末の呼び出し方、教えてもらえますか?」




