20:伏見理桜と森ヒスイ
「さて、これで恐ろしい妖も退治したし一件落着!――のはずだけど、そのクナイは何かな、伏見理桜ちゃん」
「言葉にする必要があるか? お前の正体と、目的を教えろ」
今まさにろくろ首を退治したクナイをヒスイの首に当て、理桜は恫喝する。
ヒスイは緩んだ笑みを崩さず、「あたしの正体と目的かあ。それこそ言葉にする必要ある?」と聞き返した。
理桜はクナイを下すことなく数秒黙考すると、自身の考えを語りだした。
「初めてお前が食堂に現れた時から、妙にネネがお前を警戒していた。特に妖の特徴もないただの女学生だったお前をだ。そしてあの場面で寧々が警戒する理由は一つ。寧々はお前の存在に気づけなかったんだ」
「ふーん」
「そしてもう一つ気になることがあった。寧々との密談を終え食堂に戻った後、基本積極的に動かないでいたお前が真っ先に出雲へと声をかけ、念仏を唱えるのをやめさせた。それも宗教上の理由がどうのと、そこまで大事でもない理由でだ」
「宗教は大事だよ? 伏見理桜にはわからないかもだけど」
興味なさげなヒスイの言葉を無視し、理桜は話を続ける。
「……この二つの事象から考えられるお前の正体は、霊に属する妖ということだ。霊であれば移動に音は生じない。聴力に特化した寧々が接近に気づかなくても不思議じゃない。加えて念仏をやめさせた理由もわかる。霊であるお前には、これ以上ないダメージがあったからだ」
「へーそう。じゃあ私はたまたまこのホテルに迷い込んだ、野良の霊の妖だったんだ。って、本気でそんなこと思ってる?」
「……ただの妖ではないんだろうな。お前はついさっき私と同じ秘術を使っていた。つまり元忍者の霊ということに――」
「だーかーらー、本気で言ってるの、その話。てか、いつまで下らない茶番続ける気? まさか本当に気づいてないわけないよね」
ヒスイは眉間に皺を寄せ、初めて苛立ちを露にする。
対する理桜は、彼女の首に当てていたクナイを下げ、沈痛な表情で顔をそむけた。
一向に口を開かない理桜にしびれを切らし、ヒスイは大きくため息を吐く。そして「そういうところだよ、あたしが生まれたの」と呟いた。
「他でもないあなただけは、一目見た瞬間からあたしの正体なんてわかってたはずだけど。ねえ。何度も思い浮かべてきたんでしょ。こうなりたい、こうありたいって。
だって私は伏見理桜の理想を反映した生霊なんだから。可愛くて、小さくて、それでいて芯があって賢くネネちゃんを支えられる存在。ねえ気付いてる? 私の名前って、伏見理桜のアナグラムなんだよ。て、気付いてないわけないよね。だってこの名前もあなたが考えたんだから」
顔を俯け、拳を震わせ、それでも何も言わない理桜に対し、ヒスイは再度大きなため息を吐き出した。
そして自身の体を徐々に霊化させながら、天を見上げた。
「本当に情けない。こんなのがあたしの生みの親だなんて。まあ情けないからこそ私が生まれたわけだけど、それにしたってねえ。最愛の人から口づけまでしてもらえたのに、まだこんなに自信がないんだから」
「それは……」
「このホテルであなたはちゃんと知ったはずだよ。ネネちゃん――音無寧々が本当に好きなのは、伏見理桜の理想であるあたしじゃなくて、あなた自身なんだって」
「……」
「ああもう! そろそろネネちゃん来そうだから私は消えるよ! じゃ、しっかりやりなよオリジナル!」




