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ホテル花鳥櫻月の殺人  作者: 天草一樹


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23/23

23:後日談

「はあ、これでようやく事件の後処理が全部終わったね。新しい協力者もできたし、任務も成功してこれからも一緒にいられるし、結果としては悪くない感じになったかな。殺された出雲さんには申し訳ないけど」


 山神との話し合いを終えカフェを出た私と理桜は、二人並んで歩きながら軽い雑談をかわす。


「ああ。だが、私はほとんど役に立てなかった。やはり今の私では、寧々の隣に立つにはふさわしくないな」

「はあ! 何言ってんの! 私の隣にふさわしいのは理桜しかいないから!」

「分かってる。だから理想の姿を考えるのでなく、これからは、私が理想に近づけるよう努力をする」

「え、あ、うん……」


 思いがけない言葉。

 決然とした理桜の凛々しい横顔に、私の胸が激しく高鳴るのを感じる。

 理桜は、あのホテルでの一件以来、ちょっとだけ変わった。

 ろくろ首を仕留めるために理桜とヒスイが共闘したわずかな時間。そこで何かしら、彼女の意識を変える出来事があったらしい。

 今の理桜なら、私の本音をぶつけても傷つかないでいてくれる。それがどんな結末になろうとも。そんな気がする。

 だからむしろ、今の問題は私にあるかもしれない。

 何度か手をワキワキさせながら呼吸を整える。

 それから少し強引に理桜の手を握った。

 理桜は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに優しい笑顔に変わり握り返してくれる。

 ホテルからの帰還とか、里への任務の報告とか、山神への協力関係の話とか、いろいろあって答えを聞くのは先延ばしにしてきた。

 いや、それは言い訳だ。

 土壇場で、私の方が怖くなった。

 理桜は優しいから、それを察して話題を避けてくれている。もう、彼女の心は決まっているのに。

 私は空いている手で胸を押さえてから、言った。


「私、理桜のことが好きだから」


 * * *


 カフェを出て二人と分かれた俺は、平然を装いながらしばらくまっすぐ歩き続けた。

 数分して一度周囲を見回し、音無と伏見の姿がないことを確認する。まあ相手は本物の忍者らしい。本気で尾行されたら気付くことなどできないだろうが、それでもしないではいられなかった。

 何せ、俺には二人に隠しているやましい事情があるから。

 来た道を引き返し、人気のない細い路地に入る。そしていかにも廃ビルですという薄汚い建物に忍び込み、


「おそいよー山神さん。待ちくたびれちゃったよー」

「……すいません」


 階段に腰を下ろし足をぶらつかせている森ヒスイに頭を下げた。

 ホテル花鳥櫻月を脱出してからのこと。

 俺以外の全員が、忘却草とかいうやばそうな薬を飲まされ、ホテルで起きたことをすっかり忘れていた。

 だから流れとしては、ホテルに着いた途端、漏洩していたガスにより全員が失神。依頼人であった三目さんはどこかに姿を消し、運悪くガスを吸い込み過ぎた出雲さんが死亡。送迎用の車もなく途方に暮れていたところ、いつまでも帰ってこない俺たちを心配した誰かが警察に通報し無事救助される、ということになった。

 また俺自身は、今回の一件から有用性があると判断され忍者の協力者となるよう音無から脅迫――もといお願いされ、記念すべき一回目の話し合いの場として本日カフェでの打ち合わせが行われた。

 そこでの会話は信じられない話ばかりだったが、正直それもたいしたことではない。問題は、今日の打ち合わせ前に森ヒスイに依頼――もとい脅迫された内容だった。

 某有名ゲームのスライムのような笑みを浮かべた森は、階段から立ち上がり「それで、どんな様子だった?」と聞いてきた。


「どんなって、ホテルで会った時とそこまで変わってる風には見えませんでしたよ。少なくともまだ、公に付き合ってる感じはしませんでした」

「ふふーん。あれだけせっついたのに、やっぱりオリジナルちゃんは勇気を持ちきれずにいるみたいだねー。これなら、まだ私にもチャンスがありそうだ」

「……」


 彼女がしてきた脅迫内容は、定期的に音無と伏見に会い二人の様子を報告すること。詳細は聞けていないから知らないが、まあ要するに、森は音無のことが好きらしい。

 こぶしを握り締め喜んでいる彼女を見ながら、俺は気まずそうに頭を掻いた。


「ああでも、伏見さんの方はちょっとだけ印象が変わってましたよ。ホテルで見た時より、何か決意を固めてる感じがあって。正直もう時間の問題というか、今から割り込むのは無理な気がしますけど」

「なーに言ってるの。そこを何とかするために、わざわざ君が彼女たちの協力者になれるよう推薦したんじゃん。ちゃーんと二人の恋路の妨害と、私への情報漏洩はお願いするよ、名探偵もといスパイ君」

「まじで、勘弁してもらえないですかね……」


 ウキウキ顔で俺の背を叩く森を尻目に、俺は大きく肩を落とした。


最後までお読みくださり有難うございました!

本作を面白いと感じていただけたなら、次回作執筆のモチベーションアップに繋がりますので、是非評価と感想の方よろしくお願いいたします!

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