18:妖の正体
正直、思いがけない展開ではあった。
あの状況での殺人。内部犯ではありえない以上、外からやってきた殺人鬼か、ホテルに住まう悪霊の仕業とでも考えられるかと思っていたのに。
「まあ、予定違いは最初からか。でも、結果としては悪くない、どころか最高だ」
妖は空から桜に彩られたホテルを眺め、独り言ちる。
「まさか部外者が三人もやってくるとは思わなかったが、なかなかにいいアクセントだった。最近は少しマンネリ化していたから、たまにならこういうアクシデントも悪くない」
どちらかと言えば予定通りに進まないとイライラするたちではあるが、自身に都合のいい展開に繋がるなら話は別だ。
「まだ多少の不安を抱えた者もいるが、先に比べればはるかに安心して過ごしている。この流れはいい。とてもいい。人は一度希望を抱いてから絶望に落ちる方が、ずっといい顔をする」
いつだって妖の行動原理は一つ。
楽しいから殺す。
より楽しめるように殺す。
それはこの世界に存在してから常に持ち続けている、妖としての本能だった。
ホテルから外に出てくる人影が一つ。
空に浮かぶ妖の瞳は、愉悦の色をたたえてじっと標的を見つめる。
推理が終わった後、それぞれ好きな場所で朝まで過ごすことになった。そのどさくさにまぎれ、動画撮影を口実に外に来るよう誘っておいたのが今から一時間前。約束通り誰にも告げずに外に出てきてくれたようだ。
しかし警戒は怠らない。ホテルから出てきたのが標的一人であることを注意深く確認する。
誰もいない。
音もしない。
ここには標的のみ。
妖はゆらゆらと地上に戻ると、気配を殺して標的の背後に忍び寄る。
少し怯えた様子で首を動かす彼女の背後で、妖はするすると首を伸ばし――刹那、妖として幾度かの危機を乗り越えた生存本能から、咄嗟に首を切り離した。
「うわミスった。ついいつもの癖で首を狙っちゃった」
まさに間一髪。
先ほどまで妖の首があった位置を、黒く鋭いクナイの刃先がすり抜けた。
宙に浮いた妖の頭は、敵の姿を驚きと、それ以上の憤怒を込めて睨みつける。
敵――音無寧々は、素早く忘却草を用い標的――猫又を眠らせると、不敵な笑みを浮かべ振り返った。
「なるほどねえ。今回の妖様の正体は飛頭蛮、いや、ろくろ首だったわけか。まあこの状況で釈明も何もないと思うけど、一撃で仕留め損ねたから聞いてあげる。
黒木楼部さん。何か言い残すことある?」




