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ホテル花鳥櫻月の殺人  作者: 天草一樹


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17:見せかけの解決と読者への挑戦

 静寂

 しわぶき一つしない時間が流れる。

 やがて、夜行が声を詰まらせながら呟いた。


「い、いや、それはおかしいんじゃないの……? 確か、出雲さんには吉川線があったのよね? 自殺はあり得ないんじゃ……?」

「そんなことはありません。吉川線は自作自演で簡単につけられます。彼が自殺でない根拠にはなりません」

「でも、そんなことって……」

「出雲さんの行動を振り返ってみましょうか」


 まだ話を呑み込めていない彼らに向け、山神は丁寧に説明を行っていく。


「出雲さんが自殺したのだとすれば、犯行は単純です。まず黒木さんと猫又さんに対しトイレに行くと虚偽の宣言をし、一酸化炭素缶を隠しておいた102号室に向かう。部屋に入った彼は自ら首をひっかき吉川線をつけると、さらに隠し持っていた紐で痕ができるほど強く首を絞める。こうして他殺に見えるよう仕掛けを施すと、一酸化炭素を部屋中に充満させ一酸化炭素中毒で亡くなった。これであの現場が再現されます」

「さ、再現はされるかもしれないけど、どうしてそんな面倒なことを彼がするのよ。いくらなんでも現実的じゃ――」

「おそらく保険金が目的です」


 夜行の言葉を遮り、山神は出雲の動機へと話を深めていく。


「ここからは完全に憶測になりますが、出雲さんも俺と同じように家族のために大金を欲していたんだと思います。そして大金を得る方法として、自身に多額の保険金をかけての自殺を考えた。しかしただ自殺をしては保険金が下りないため、今回のように他殺に見える自殺を考えたんです」

「え、でも、やっぱおかしくない!? それなら三目さんを殺す理由はないし、夜行さんへの指示もいらないと思うんだけど! ね! ね!」


 混乱した様子の猫又が、同意を求めるように私たちを見まわす。

 皆曖昧に頷きはしたが、積極的に肯定も否定もしない。猫又の言う通りおかしな点こそあるものの、出雲が自殺したとする山神の推理には確かな説得力と、何より安心感があったから。

 因みに私も分かっていない。ヒスイが山神に提案したのは出雲殺害の罪を出雲自身に着せることと、それを山神の口から話してもらうことだけ。

 そこまでの道筋や動機については山神に一任という無責任ぶりだったからだ。

 果たして彼がどこまで論理を巡らせることができたのか。もし本当に、この場の全員を説得することができる論理を構築していたのなら。ヒスイが言っていたように彼を本格的に協力者にすることも視野に入る。

 様々な思惑を伴う視線が向けられる中、山神は堂々と演説を続けた。


「出雲さんが三目さんを殺した理由は二つ。一つは連続殺人にした方が自殺だと疑われにくいから。そしてもう一つは、復讐のためです」

「復讐?」

「はい。三目さんは俺たち訳アリの事情を持つ者を調べていた。彼はそれを利用して、自分に都合のよいように動く手駒を集めていたんです。そして今回集められた俺たちとは違い、出雲さんは既に三目さんの手駒としていいように使われていた。だから彼は自殺を図る前に、後顧の憂いを断つため三目さんを殺害した」

「三目の殺害方法はどうなんだ。三目はかなり太い縄で首を絞められ殺されたはずだが」


 理桜が殺害方法について尋ねる。


「凶器を持っていては怪しまれますから、出雲さんが着ていた袈裟を使ったんだと思います。折りたたみ方次第では、十分首を絞める太い凶器になる」

「首以外にも縛られた様子があったのはなぜだ」

「猟奇性の演出のためです。これでおかしな殺人鬼が紛れていると思わせられ、自身の自殺を疑われにくくした」

「送迎用の車をパンクさせたのは」

「それも同じ理由です。今回の一件を連続殺人事件と思わせようとするため。それに、自殺する前にホテルから出られても困りますからね」

「夜行への指示の件はどうなんだ」

「死後すぐに発見してほしかったんだと思います。時間が経てば誰かが寝てしまいアリバイのない者が現れる。そうして無実の人に罪を着せることになるのは避けたかったのでしょう」

「それだけの目的なら、別に部屋から飛び降りさせなくてもよかったじゃない……」


 ぼそりと夜行が文句を呟くが、それくらいのもので否定的な意見は上がらない。

 理桜も首を横に振ってこれ以上疑問がないことを示していた。

 思い思いの理由で皆が黙ること約一分。

 実質的に山神の推理を誰もが認めたことを感じたのか、猫又がおずおずと、「じゃあもう、ここで殺人事件は起こらないってこと?」と呟いた。

 山神は彼女を安心させるよう、しっかりと頷いてみせる。


「はい。出雲さんが犯人である以上、これから新しく犠牲者が生まれることはありません。安心して、自由に動いて大丈夫です。もちろんお手洗いもご自由に」


 そこかしこで安堵の息が漏れる。

 少しずつ、自分たちが助かったのだという意識が芽生え始めていた。


「いや凄いね山神さん! まさか本物の名探偵に会えるなんて思ってなかったよ! よかったらこの話動画で使わせてもらえないかな!」


 黒木がテンション高く山神に声をかけている。

 苦笑しながら首を振る山神を横目に、私はこれからの本番に向け、そっと伸びをした。


『読者への挑戦』

 本事件の犯人は「妖」である。

 日本に生まれし聡明なる諸兄姉であれば当然知っている妖ゆえ、このような挑戦状は無礼極まりないかもしれない。

 しかし敢えて私は挑戦する。

 此度の凄惨なる事件を引き起こした「妖」は一体何か。

 そしてその「妖」は登場人物の誰であるか。

 正体を見破りし協力者が現れること、心よりお待ちしている。


 ――ああそれから、蛇足ではあるがもう一つ。

 森ヒスイの正体は何か。

 一体何の妖であるのか。

 余裕がある知恵者は、ぜひこちらにも挑戦していただきたい。


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