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ヒロインの座、奪われました。  作者: 荒川きな
4章 学園生活の幕開け
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20.委員決め

「すみませんっ。遅れました」


 聖花が慌てて教室に駆け込むと、クラスメイトの視線がチクチクと刺さった。名簿を確認し終え、授業を始めていたエルザも、そんな聖花を横目に見た。10分以上の遅刻だ。


「今日はもういいから、早く席に座りなさい。そこに立たれるのも迷惑よ」


「はい‥‥‥申し訳ございません」


 入学早々、堂々と遅刻してきたのだから呆れもするだろう。エルザは小さく溜息をついて黒板に視線を戻した。

 刺すようなクラスメイトの視線を一身に浴びつつも、聖花はそそくさと席へと向かう。ヒソヒソと陰口を叩かれているが、最早致し方無い。


 本探しに夢中になっていた聖花は、うっかり時間を確認し忘れていた。否、想像より早く時間が過ぎていたのだ。

 彼女が気が付いた頃には既に昼休憩は終わっていて、授業が始まる寸前だった。これから走っても間に合う訳がなく、予定通りの到着は絶望的な状況だった。


 一階に比べ、図書室の二階は人通りが元々少ない。というのも、華を好む貴族たちにとって、(カビ)臭い歴史書で溢れた場所(二階)は近づき難いエリアだからだ。あるいは、入学して(新学期が始まって)間もない為に、図書室に寄る余裕がないのかもしれない。

 兎に角、言い訳をするならば、その為に聖花は違和感に気が付くことが出来なかった。とでも言うことにしよう。元々人気のない所から人がいなくなったって、然程気になる訳がないと。



(本当、何をやってるんだか)


 自身を卑下しつつ、聖花は席に腰を落とした。

 そうしていると、隣に座っていたルードルフが彼女に小さく耳打ちした。



「‥‥‥何かあったのですか?」


 ここにいれば嫌でも目につくことだろう。昼休憩が始まった途端に教室を飛び出し、一度も戻って来なかったばかりか授業を遅れて来た。そんな人物。聞くか聞かないかは別にして、何をしていたのかと不審に思って然るべきだ。



「いいえ。大した事ではございませんよ。図書室に用があって、うっかり時間を忘れていたようです」


 下手に嘘をつくよりも本当のことを言った方が良い気がした。目的を有耶無耶にしつつも、聖花は有りのままのことを話した。

 だとしてもわだかまりは残る筈だ。何故そんなところに行ったのか、一体何の用があったのか。気になっても深く詮索することは出来ない。否、ルードルフがしないことは確信していた。これまでの彼の言動が、聖花にそう思わせたのだ。


 成る程、とルードルフが頷く。何故図書室?と言いたげな表情を浮かべていたが、大方聖花の予想通り、下手に聞くのを止めたようだった。そもそも端から聞く気すらなさそうだった。



(それにしても、‥‥‥舐めてたわ。あれは一朝一夕で見つかるような量じゃない。今度は頑なに自分で探そうとせず、きちんと職員に聞きましょう。初めからそうすべきだったとは思うのだけど、‥‥。過ぎたことはもういいわ)


 エルザの話を聞きながら、聖花はそんなことを考えていた。それですんかり見つかったら、と思うところだが、きっとそう上手くはいかない。

 黒板を眺める。これから委員決めを行うらしく、クラス委員に美化委員、図書委員に体育委員など、様々な委員があるようだ。大抵の委員が男女1名ずつで、中には男女2名ずつのものもある。任期はどれも1年間と記されていた。



「何処かいきたいところが?」


 聖花が黒板の文字をまじまじと見つめていると、又もやルードルフに話し掛けられた。隣の席だから仲良くしようとしているのだろうが、彼が王太子だからか悪目立ちしている気がするのは聖花の気の所為ではない筈だ。授業中だから当たり前だが、コソコソと話をしているのが却って貴族――特に令嬢たちを刺激している。


 そんなことも分からないほど馬鹿ではないが、それが彼を無視する理由にならない。

 そもそも、ここは社交の場でもないし、彼も言わば(いち)クラスメイトである。気軽に話してはいけない等という縛りがある訳ではない。



「図書委員が少し‥‥‥。他にも何をするのか気になるところがいくつかあります」


「本がお好きなのですね。任期は1年間ですし、一度やってみては如何でしょう?もしかしたら貴女に合っているかもしれませんよ」


 ルードルフが提案する。先程の事もあってか、何かを誤解しているようだった。

 確かに聖花はしょっちゅう本を読んでいる。マリアンナの時も、この身体になってからも。ただ、それは唯の時間潰しや情報集めの一環に過ぎない。あるいは、アデルに勧められたから、だ。

 だがそれを態々話す必要はない。だから敢えて訂正せず、ルードルフに生粋の本好きだと認識させておくことにした。



(図書委員、か。図書委員ということは自ずと図書室に近付く機会が増えるはず。本の場所も情報も簡単に入手できる筈だし、何かと便利かもしれない。クラス委員のように目立ち過ぎるものは避けたいし、どの道他クラスの人とも接点を持つために委員会には所属するつもりだったから悪くないのかも)


「そうですね。先ずは一年間だけでもやってみて良いかもしれません。ルードルフ様はどうされるのですか?」


「私ですか?‥‥‥私は委員会には入れません。

 いえ、少し語弊がありますね。私は生徒会に入るので、委員会に入ることは出来ないのですよ」


 不思議そうに小首を傾げる彼女を視界に入れると、ルードルフはそう補足した。


 生徒会。確かに彼はそう言った。確か、聖花の覚えている限り、生徒会は選ばれた人間しか入ることの出来ない所だった。例えば、成績上位者。例えば、稀有な才能の持ち主。そんな人間が集まる所であると彼女は記憶している。


 まさか彼女の直ぐ隣に生徒会に入る人物がいるとは。ただ、彼のことを考えれば自ずと納得出来た。伊達に王太子を名乗っている訳ではないようだ。

 と、なるとアーノルドのこともやはり気になる。彼もまた、兄と同じ生徒会に入るのだろうか。あるいは兄と同じところは避けて、他のところに入るのか。



(彼ならば生徒会には入れそうだけれど、どうなのかしらね)


 そんな考えは置いておいて、一旦気持ちを切り替える。とはいえ、聖花の気持ちは殆ど図書委員に入ることに傾いていて、他の委員は然程考えていない。

 問題は、カナデが同じ委員を選ぶか否か。だが、それも恐らく大丈夫そうだ。彼女を見る限り、図書委員を選ぶような性格はしていないだろう。


 委員は案外すんなりと決まった。殆どの人が被ることなく、あるいは譲り合って、そもそも取り合いになることがなかった。意外だったのはロザリアが美化委員に手を挙げていたことと、一番面倒臭そうなクラス委員が直ぐに決まったことだった。

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