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ヒロインの座、奪われました。  作者: 荒川きな
1章 転生と幸福
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7.不穏な気配

 あっという間に時間は過ぎ、綺羅びやかなパーティーも終わりへと差し掛かった。


 片付けなどでメイドたちが会場内を忙しく動き回っている。パーティーを楽しむ貴族たちの邪魔にならないように。


 聖花はアナスタシアたちと色々な会話を交わし、仲を深めた。好きな物の話から家のことまで様々だ。

 彼女らも聖花同様、学園に入学する予定らしく、聖花は学園生活がより楽しみになったのだった。


 そんな聖花も今は一人きりである。《《所用》》により、パーティーホールより少し離れた廊下を歩いているのだ。

 明かりは乏しく、何処までも薄暗い道が続いている。


 聖花たちが会場に来た当初、屋外に見えた幻想的な夕焼けは既に見当たらない。あるのは窓硝子(ガラス)越しに映るほんの小さな星々だけだ。

 ガラスで囲われた蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、廊下を歪に照らす。まるで踊っているかのようだ。


 どこか薄気味悪く、不思議な気持ちに聖花は陥る。



「…‥もう。まさかトイレがこんなに遠いなんて…」


(それにここ、他の場所より暗い……)


 気味悪さを誤魔化す為か、聖花がポツリと愚痴を溢す。

 辺りにはメイドすら見当たらず、彼女は行く場所を間違えたように感じた。早足でメインホールに向かう。


 そうしていると、聖花はおかしなことに気が付いた。そもそも誰にこの道を聞いたのだろうか、と。

 とても案内無しで行ける場所ではないのだ。


 聖花が頭を捻って思い出そうとした、丁度その時。

 


 コツン、コツン、コツンーーーー



 不意に、彼女の向かう先から、誰かの歩く音が聴こえてきた。

 こちらに向かってきているようで、聖花に聴こえる音が次第に大きくなっていく。



(………………………誰?)


 恐ろしく気配を感じたのか、聖花は自然と身構えた。生唾を飲み込む。


 その場から今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、何せ一本道なのでそれも出来なかった。

 じっと視線の先を真っ直ぐ見つめ、固められたかのようにその場に立ち止まる。


 ……それからほんの暫くして、一人の少女が、薄暗い闇の中から現れた。何処か奇妙な森閑とした雰囲気を(まと)って。


 その少女は、髪が胸と肩の間辺りまで伸びており、どこか幼い顔立ちをしている。ただ、暗くて本当に判別出来ているか聖花には不明だ。髪色も把握することができない。



「…あの、、、いきなりで申し訳ないですが、こちらの先にトイレは…、あ、いえ何でも御座いません。

お花を摘みに行きたいのですが、どこにあるのですか?見当たらないのです」


 少女が何処の誰は分からないが、一刻の猶予もない。

 恥ずかしがりながらも、聖花はその少女に尋ねることにした。


 この世ではトイレという用語が存在しない。従って、聖花は別の表現で懸命に伝えることにした。

 ‥‥‥‥‥伝わるかは別だが。

 


「……ふふっ。急に話し掛けるものだからビックリしました。()()()()()さん、其方(そちら)でしたら、ここから私の方に向かい真っ直ぐ進むとすぐに見つかりますよ」


 しかし、どうやら通じた様だ。

 少女は小さく笑い、彼女に道を教えてくれた。



「そうなのですね。教えて頂きありがとうございます。自己紹介が遅れて申し訳ございません。マリアンナ・ヴェルディーレと申しますわ。ダンドール伯爵様の二女です。よろしくお願いしますね」


 聖花は少女に対し、できる限り丁寧に挨拶をした。やんわりと微笑む。


 先ほどまでの何処か恐ろしい気持ちは聖花からすっかり失せた。が、どうも釈然としないように感じていた。

 聖花にはそれが少し不思議だった。



「……、よろしくお願いします。…ところで、先に行かれてはどうでしょうか?見たところお急ぎのようですし」


 少女は軽く会釈して、聖花のの瞳をチラリと見た。まるで覗き込まれているかのように。

 聖花は少し背筋が寒くなるのを感じた。


 丁度その時、窓ガラスの向こう側から入って来た星の光が、少女の眼をうっすらと反射した。黒く染まった眼、だ。


「‥‥‥‥‥どうされました?」


「…あぁ、そうですね。お気遣いありがとうございます。では失礼しますね。また後でお会いすればお話ししましょう」


 我に返ったように、聖花は感謝の気持ちを告げる。そして、少女の言った方向に従って歩き出した。


 少女はその後ろ姿をじっと眺めていた。



「二人とも、遅くなってしまいました。パーティーは、もう、終わりですね」


 無事にそこから迷わずに聖花は戻ってくることが出来た。

 パーティー会場の眩い明かりのおかげだろう。


 アナスタシアとリリエルに、聖花は慌てた様子で駆け寄る。



「そうですね…。ところで、随分遅かったですね。

 何処かに寄り道でもされていたのですか??」


「いいえ、お花を摘み行っただけですよ。

 恥ずかしながら途中で少し迷ってしまって…。思っていた以上に遠くて驚きました。

 先に来ていた黒目のお方に助けて頂けたお陰で、無事に辿り着けたのですよ」


 聖花は先ほどのことを照れながら二人に話す。

 すると、リリエルが不思議そうに首を(かし)げ、アナスタシアは驚愕したように声をあげた。

 どうしてそんなに驚いているのか、聖花は疑問に思った。が、アナスタシアが声を上げたことで、それは一変した。



「こんな暗い中、お花を摘みに行ったのですか!?

 何故そんなことを‥‥‥‥?」


 何か会話が噛み合っていない気がする。聖花はそう感じた。

 アナスタシアが続ける。


 「加えて、私の知る限り、今日来ている令嬢に黒目の方はおりません」


「……え、…?」


 衝撃的な一言に、聖花から気の抜けたような声が溢れた。





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