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ヒロインの座、奪われました。  作者: 荒川きな
3章 気勢と待望
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4.衝撃的な対面

「そろそろお時間ですよ」


 書庫で本を読んでいた聖花は声の主の方を見る。

 いつから居たのだろうか、聖花の少し後ろにメイド長が立っていた。誰かから聖花の居場所を聞いたのだろう。


 単にメイド長が気配を消すのが上手いのか。それとも聖花が読書に没頭しすぎて気が付かなかったのか。それは誰にも分からない。

 どちらにせよ、メイド長の言う通りなのは確かだった。



(もうそんな時間‥‥‥?)


 聖花は、今度は壁に掛けられた時計をチラリと見た。

 書庫にある時計の針は、既に一日の半分が過ぎていることを指し示している。


 授業の時間がすぐそこまで迫っているということだ。



「ところで、書庫にはどなたに案内されましたか?

 姿が見当たらないのですが」


「すみません。名前を聞くのを忘れてしまいました。

 何せ送るなり何も言わずに去ってしまったので」


「成る程‥‥‥」


 メイド長が目を細める。無言で立ち去ったメイドをどう処罰するかを考えているようだ。

 どうせ他の者に聞けばメイドが誰かはすぐに発覚するただろう。


 ここでは敢えて、先の不躾な態度は言わないでおく。ヴィンセントに直接報告したほうが制裁がより重くなることだろう。

 向かってくる人間には我が身を守るために臨むが、聖花は出来る限り大勢の人に罰を負わせたくなかった。



「‥‥‥‥行きましょうか?」


 すっかり白けてしまったので、聖花が促す。

 メイド長の雰囲気がいつの間にか元に戻っていて、あたかも何事もなかったかのようだ。切り替えが早い。


 聖花はその場から立ち上がり、本を元の位置へと戻す。机に積み重なっていたそれらは魔術に関する本だ。


 そもそも彼女は、カナデに何をされたのかを調べる為に書庫に訪ねていた。些細なことでも知りたかった。

 しかし、闇属性についての情報が少なく、特に収穫はなかった。ただ知識がまた一つ増えただけだ。


 書庫を後にする。


 聖花たちが廊下を歩いていると、行きしな無視してきたり、陰口を叩いていた者たちが笑顔で挨拶してきた。メイド長がいるからだろうか。

 ただ、メイド長に浴室に連行された時も聖花は無視されていた。

 もしかすると、それは単にメイド達が時間に追われていた為でなかろうか。聖花はそう思った。


 そうして歩くと、間もなく同じ階に窓付き扉の部屋が見えてきた。扉の上部にひし形の窓が付いている。

 基本的に窓が付いていない貴族の部屋では珍しい。



「こちらになります」


 メイド長が立ち止まって手を扉へと向ける。


 驚くべきことに、その部屋が所謂『勉強部屋』だった。

 勉強の邪魔にならないよう外から監視する仕組みになっているらしく、中からは見えないようになっている。しっかりとした対策だ。

 

 窓から様子を伺うと、中にはまだ誰も見当らない。着くのが少し早かったようだ。


 部屋の中は聖花が思っていたよりも広くなく、みっちりと本が詰まった棚で囲まれている。隙間なく置かれた棚はもはや壁と言っても差し障りない。

 そんな不可思議な空間の真ん中に大きな机がひとつ置かれていた。四人が向き合って座れるくらいの広さだ。


 廊下で待っていても埒が明かないので、聖花は先に部屋に入って教師を待つことにした。扉から近い方の席にじっと座る。


 音が本に吸収されているのか、部屋の外の音は聖花には聞こえない。空間が切り離されたかのようだ。

 聖花が少し動くだけで音がよく耳に届いて、何故だか動いてはいけないかのような気持ちになった。


 そうしていると扉が少し開いた。ただし、教師が屋敷に着いたという連絡が入っただけだった。

 それでも、思ったより早くこの状況から抜け出せそうで、聖花は気を楽にした。


 彼女がまだかまだかと扉を見守っていると、ようやく()が部屋へと入って来た。のだが、聖花にはどこか見覚えがある。

 ‥‥‥‥‥何だか嫌な予感がする。



「初めまして、麗しきご令嬢。

 僕は教師のフェルナン・パース。よろし・・・」


 部屋に入るなり、教師は跪いて聖花と視線の高さを合わせた。

 手慣れたように軽く跪礼してから顔を上げ、聖花と目を合わせる。彼女の片側の手に手を伸ばして、次の言葉を続けようと。

 しかし、彼は途端に動きを止め、言葉を詰まらせた。瞳孔が開いている。


 対する聖花はと言うと、石のように固まっており、目線が固定されている。遥か遠くを仰ぎ見ているようだった。



(か、か、彼は・・・・)


 警戒を怠っていた。これは完全なる誤算だった。

 試験の際、教師陣の殆どは現地に来ておらず、日雇いで学生が試験官を行っていた。

 その為に聖花たちはあまり心配しなかったのだ。


 教師に()()()()が来ることは聖花も、勿論ヴィンセントも想定外だった。

 一応化粧をして変装はしている。が、聖花は何故だか不安になった。


 彼、フェルナンは聖花には印象に残っている内の一人だ。捕縛された時、優しく接してくれた。

 顔も名前もしっかりと覚えている。


 彼で間違いない、と彼女は確信した。口調や声色、顔のつくりも全くもって変わらない。

 異なるのは肩書きと服装、そして雰囲気だけだ。


 衛兵だった彼は教師だと名乗り、軽量のシンプルな鎧でなく洒落た装飾の衣服を身に纏い、ミステリアスで妖艶な雰囲気を醸し出している。本当に教師か?と疑いたくなるレベルだ。


 兎に角、沈黙が長引くのは良くないと思い、聖花が先手を打った。何事もなかったかのように誤魔化す。



「、初めまして!私はセイカ・ダンドールと申します。

 こちらこそよろしくお願いします、先生」


 始め辺り少し早口になった。が、内心の焦りや不安感は態度に出していない、つもりだ。

 聖花はあくまで初対面を装う。



「……………よろしく、ね」


 フッと息を吐いて、フェルナンが微笑んだ。どこか裏がありそうな、不穏な笑みだ。


 しかし、彼女は聞くことができない。

 本当に本人であるかもそうだが、変装した聖花の正体を見破っているかなど、聞けるはずがない。

 気付いていてもいなくても、より面倒なことになるのは変わりないからだ。もしかしたら彼の疑いが確信へと変わる可能性もある。


 何かを考えていたフェルナンは、聖花に伸ばした手を引っ込め、彼女に()()()()立ち上がった。

 何事もなかったかのように彼女の向かい側の席に座る。



「では、さっそく始めようか?」


 傭兵の姿で見せた穏やかな笑顔と全く異なる、女性たちを虜にするような妖しげな笑みを浮かべた。

 思わず、一体何を始めるのか聞きたくなる。


 聖花は小さく息をついた。不安要素がまた一つ増えたからだ。

 

(何事もなく終われば良いんだけど………)



 しかし、聖花の願いは授業後すぐに散ることになる。


※フェルナンが傭兵に扮していた理由は

 学園入学後に明らかになります


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


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