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11.脱獄直前

「決行は、本日行う」


 アーノルドは、まるで明日の予定でも伝えるかのような平然とした口調でそう告げると、聖花の反応を確かめることさえせず、さらに言葉を重ねた。



「異論は聞かん。今夜、貴女をここから連れ出す」


「……え?」


 思わず口から漏れたのは、覚悟を決めた人間とは思えないほど気の抜けた声だった。


 つい先ほどまで、二人の間には互いの命と思惑を探り合うような張り詰めた空気が流れていたはずである。アーノルドは聖花へ、自分に命を握られる覚悟があるのかと問い、聖花もまた、それならば彼にも相応の責任を負ってもらうと言い返した。


 それによって、ようやく互いの利害を認めたうえで手を組むことになったのだと、聖花は理解していた。

 だからこそ、これから何日かをかけて計画の詳細を詰め、脱出に必要な準備を整えていくものだと思っていたのである。


 少なくとも、決意を口にした直後に「今夜逃げる」と告げられるとは想像していなかった。



(ここから出るとは決めましたけれど、いくら何でも急すぎるのでは……?)


 驚きのあまり、聖花は暫くアーノルドの顔を見つめたまま言葉を失った。



(先ほどまで、あれほど覚悟がどうの、命を握るだのと重々しく仰っていたのに、決行については随分と軽く決めるのね。準備はどうするのよ。牢の鍵も必要だし、見張りの騎士もいる。それに、ここを出た後の服や身分、移動手段だって――)


 考えれば考えるほど、確認しなければならないことが増えていく。


 自分の命が懸かっている以上、計画がずさんであれば困るどころの話ではない。失敗すれば再び牢へ戻されるだけでは済まず、脱獄を企てた罪まで加わり、今度こそ弁明の余地なく処刑される可能性が高い。


 先ほどまでの重々しい空気は、聖花の「えっ」という一言によってすっかり失われてしまっていた。


 彼女は自分でもそのことへ気づき、慌てて口元を手で覆ったものの、一度こぼれた声をなかったことにはできない。


 むしろ、覚悟を決めた直後にあまりにも間の抜けた反応を見せてしまったせいで、先ほどまでアーノルドへ向けていた威勢まで虚勢だったように思われかねなかった。


 聖花が気まずそうに視線を逸らすと、アーノルドは僅かに眉を上げた後、呆れとも笑いともつかない息を吐いた。



「何をそこまで驚く」


「驚きます。普通は、もう少し準備を整えてから実行するものではございませんか」


「準備ならば、すでに整えている」


 アーノルドはあっさりと答えた。

 その表情には、聖花が何を不安に感じているのか、初めから分かっていたような余裕がある。



「こちら側の都合もあってな。貴女を養女として迎えるための手続きには、相応の時間が掛かる。表向きの身分を作り、過去に不自然な点が残らないよう整えるには、早く動くに越したことはない」


 そこで一度言葉を切ると、アーノルドは鉄格子へ背を預けるように立ち、事もなげに続けた。



「引き受け先へも、すでに話は通してある。無論、貴女の事情を全て説明したわけではないが、養女を迎えることについては了承を得ている。ここを出た後の移動先も、当面の生活も手配済みだ」


「……既に、そこまで」


 聖花は驚きを隠せなかった。


 一週間前、彼は返事を待つと言っていた。それならば、聖花が提案を断る可能性も考えていたはずである。

 にもかかわらず、アーノルドは彼女の答えを聞く前から、引き受け先との交渉も、身分を整える準備も進めていたことになる。


 それは用意周到という言葉だけでは足りない。彼は最初から、聖花が自分の手を取ることを疑っていなかったのだ。


 その事実へ気づくと、胸の奥に小さな苛立ちが生まれた。



「随分と準備がよろしいのですね」


 聖花は感心したような口調を装ったが、言葉には自然と棘が混じった。



「ですが、もし私が提案をお断りしていたら、どうするおつもりだったのですか」


 少しくらいは答えに詰まればよい。


 自分の判断を勝手に決めつけていたことを認め、多少なりとも困惑してくれれば、掌の上で転がされているような不快感も和らぐかもしれない。


 そんな僅かな期待を込めて尋ねたのだが、アーノルドは一瞬たりとも考え込まなかった。



「どうもしない」


「……何も?」


「ああ。断ったのなら、貴女をここへ残して帰っただけだ」


 あまりにも冷淡な答えに、聖花は僅かに目を見開いた。


 けれど、アーノルドは彼女の反応など意に介さず、薄く笑みを浮かべる。



「だが、貴女は受け入れた。それが事実だろう」


「それは、そうですが……」


「ならば、仮定の話をしても意味はない」


 聖花のささやかな反撃は、まるで最初から予想されていたかのように、簡単に受け流されてしまった。


 彼にとって、カナデという少女はどれほど重要な存在なのだろう。一週間前には「生きていてほしい」と真剣な目で訴えていたが、断られればそのまま見捨てるつもりだったという。


 それが強がりなのか、本心なのかは分からない。ただ、今の自分が彼にとって、何を犠牲にしてでも守りたい存在ではないことだけは確かだった。


 利用する価値があるから手を差し伸べる。

 応じないのなら、必要はない。その程度の関係なのだろう。


 すべてが彼の読み通りに進み、自分はただ差し出された唯一の道を選ばされただけなのだと思うと、聖花の胸には、やはり悔しさが残った。


 アーノルドの力を利用すると決めた以上、多少のことは受け入れなければならない。

 それでも、何から何まで彼の思い通りになっていると認めるのは癪だった。



「殿下は、初めに仰いましたよね」


 聖花は気持ちを落ち着かせるように一度息を整えると、アーノルドの顔を正面から見据えた。



「私を、ただ助けたいだけなのだと」


「ああ、言ったな」


「ですが、今のお話を伺う限り、とても純粋な善意だけとは思えません」


 アーノルドの表情は変わらなかった。


 聖花は構わず続ける。



「それに、貴方は随分と態度が変わります。初めにお会いした時は、軽薄とも思えるほど砕けておられたかと思えば、突然王族らしく命令し、次には私を心配するような顔を見せ、先ほどは命を握るなどと脅してきた」


 一つずつ数えるように言葉を並べていくうちに、これまで抱えていた疑問が改めて明確になった。



「いったい、どれが本当の貴方なのですか、殿下」


 聖花が問い終えた瞬間、アーノルドは珍しく呆気に取られたような顔をした。


 王族へ向かって、これほど真正面から人格を問いただす者など、ほとんどいないのだろう。

 数秒の沈黙の後、彼は堪えきれないように吹き出し、やがて地下牢という場所には似つかわしくないほど大きな声で笑い始めた。



「ははっ……! なるほど、私へそのようなことを尋ねるか!」


「何がそれほど面白いのですか」


 聖花としては、真剣に尋ねたつもりだった。

 不意を突くことには成功したらしいが、期待したような困惑は見られず、かえって楽しませてしまっただけである。


 笑い続けるアーノルドを、聖花は呆れた目で見つめた。

 鉄格子を挟み、一方は王族、一方は処刑を待つ罪人でありながら、外から見れば親しい者同士が他愛ない会話を交わしているようにも見えたかもしれない。


 その異様な構図へ気づくと、聖花は周囲が急に気になり始めた。

 これほど大きな笑い声を響かせれば、いくらアーノルドが王族であっても、見張りの騎士たちが不審に思うのではないか。



「あの……」


 聖花はまだ笑っている彼へ、遠慮がちに声を掛けた。



「随分と声が大きいようですが、誰かに聞かれてはいないのでしょうか」


「ああ、その心配はない」


 アーノルドはようやく笑いを収めると、何事もなかったかのように答えた。



「伝え忘れていたが、私は王族の身でありながら、森属性を持っていてな。風を操る術を少し工夫し、この周囲だけ音が漏れないようにしている」


「森属性……」


 聖花は、微妙な表情を浮かべた。


 森属性が具体的に何を意味するのか、十分な知識はない。だが、風の魔術を応用して防音の空間を作るという説明だけを聞けば、随分と便利な力であることは理解できた。


 以前、彼がやってきた時にも、外の音が一瞬で消えていた。あれも、森属性の力によるものなのだろう。


 ただ一つだけ気になることがある。


 王族であるのに、森属性。アーノルドはわざわざ「王族の身でありながら」と付け加えた。

 それが珍しいことなのか、何か問題があるのか。疑問は浮かんだものの、彼の過去へ深く踏み込むべき時ではないと判断し、聖花は今は考えないことにした。



「そうなのですね」


「反応が薄いな」


「驚いてはおります。ただ、貴方に関しては、少々のことでは驚くだけ無駄な気がしてきましたので」


「それは何よりだ」


 褒めたつもりなど一切ないというのに、アーノルドは都合よく受け取ったらしく、満足そうに頷いた。


 聖花が僅かに眉を寄せると、彼はようやく先ほどの質問を思い出したように表情を改める。



「先の問いへの答えだが」


 声から笑いの気配が消え、彼は再び落ち着いた調子へ戻った。感情の切り替えが早いのか、単に表へ出す顔を自在に選んでいるのかは分からない。



「一週間前の貴女には、優しい言葉が必要だと思った。何もかもを失い、生きることさえ諦めている者へ、初めから命を握るなどと告げたところで、手を取るはずもなかろう」


 聖花は口を挟まず、彼の言葉を待った。



「だが、今の貴女は違う。自分の意思でここを出ると決め、私を利用するとまで言った。ならば、救済を装った偽善よりも、互いの思惑を隠さず話した方が都合がよい」


 アーノルドは、聖花の黒い瞳を真っ直ぐに見つめた。



「今の貴女には、こちらの私の方が合っている。違うか?」


 その問いかけには、彼なりの理屈があった。

 優しく接する姿も、威圧する姿も、ふざけた態度も、どれか一つだけが偽物というわけではないのだろう。


 相手と状況に応じて、必要な顔を見せている。

 それが王族として身につけた処世術なのか、元来の性格なのかは分からないが、少なくとも聖花は、今のように思惑を隠さず話す彼の方が信用できると感じていた。



「……どなたが私を、そのように変えたのでしょうね」


 聖花が皮肉を込めて尋ねると、アーノルドはわざとらしく首を傾げた。



「さて。一体、どこの誰であろうな。私にはまるで心当たりがない」


「そうですか」


「ああ。ところで、そろそろ脱出の計画を話そう。時間が惜しい」


 あからさまに話題を変えられた。


 聖花は一瞬、何か言い返そうとしたものの、彼の言うことにも一理ある。今夜実行するというのであれば、皮肉の応酬へ時間を費やしている場合ではない。


 不満を隠さず見つめていると、アーノルドは面白そうに片方の眉を上げた。



「話を逸らされて不満そうだな」


「そのようなことはございません」


「顔へ出ているぞ。それに、元々話を逸らしたのは貴女の方だろう」


 確かに、決行の説明を聞く途中で彼の本性について尋ねたのは聖花だった。言い返す言葉を失い、彼女は小さく息を吐く。


 つくづく性格の悪い男である。

 相手が何を考えているかを読み取り、それをわざわざ言葉にして動揺させることを楽しんでいるように見える。



(王族というのは、皆このような方なのか)


 もしそうであるなら、今後王族と接する時には、相当な覚悟が必要になる。もっとも、アーノルドが王族の中でも特別に性格が悪いだけという可能性の方が高そうだった。


 これ以上話が逸れれば、いつまで経っても計画を聞くことができない。

 聖花はわざとらしいほど深く息を吐くと、姿勢を正し、表情から余計な感情を消した。



「……それでは、改めまして。脱獄の計画をお聞かせいただけますでしょうか、殿下」


「あい分かった」


 アーノルドも、ようやく本題へ戻る気になったらしい。

 鉄格子から離れると、周囲に誰もいないことを改めて確認し、声を僅かに落とした。



「先ほども申した通り、決行は本日の日没後だ。正確には、王宮内にいる他の王族が寝静まり、夜間の警備へ完全に切り替わった頃に行う」


「王族の方々が眠った後……」


「ああ。日中は人の出入りが多すぎる。貴族、官吏、使用人、騎士が絶えず行き交うため、いくら姿を隠しても、貴女を連れ出すのは難しい」


 王宮の構造を知らない聖花にも、それは理解できた。昼間に罪人を堂々と連れ歩けば、すぐに何者かの目へ留まるだろう。



「夜であれば、見回りの騎士の数は限られる。牢獄の周辺については、特に都合がよい」


「都合がよいとは?」


「見張りの幾人かには、少し眠ってもらう」


 アーノルドは、まるで眠れず困っている者へ睡眠を勧めるような口調で言った。


 聖花は嫌な予感を覚えた。



「眠ってもらう、とは……」


「文字通りだ。多少手荒な方法になるかもしれんが、命へ別状はないようにする」


「それは、気絶させるという意味ではございませんか」


「細かいことを気にするな」


「細かくはないと思うのですが」


 聖花が呆れた目を向けても、アーノルドは気に留める様子もない。



「夜間にこの区画の警備を担当する者たちは、失態を公にしたくない事情を抱えている者が多い。朝になって貴女が消えていたとしても、自らの処罰を恐れ、すぐには報告しない可能性が高い」


「随分と信用のない方々へ、重要な場所を任せているのですね」


「王宮という場所は、清廉な者だけで動いているわけではない。むしろ、弱みを持つ者の方が扱いやすい場合もある」


 アーノルドは淡々と答えたが、その言葉には、彼が王宮の暗部を熟知していることが滲んでいた。


 聖花はこれまで、王宮とは国を治める高貴な者たちが暮らす場所だと思っていた。

 だが、権力が集まる場所である以上、誰もが正しく誠実であるはずがない。むしろ、表へ出せない秘密や利害が絡み合っているからこそ、アーノルドのような人物が自由に動けるのかもしれない。



「牢から出た後は、私が直接貴女を王宮の外まで連れていく」


 彼は説明を続ける。



「移動に必要な経路は確認してある。正面から出ることはできないが、ほとんど使われていない通路がある。そこを抜ければ、王宮の敷地外へ出られる」


「途中で誰かに見つかった場合は?」


「私が対処する」


 簡潔な答えだった。

 その「対処」が説得を意味するのか、魔術で眠らせることを意味するのかは、あえて尋ねない方がよいように思えた。



「王宮を出た後は、貴女を引き取る貴族の者が待っている。以後のことは、その者から説明を受けろ。衣服も、新しい身分を証明するための書類も、すでに用意させている」


「その方のお名前を、今伺うことはできないのですか」


「今はまだ教えられない」


 聖花が眉を寄せると、アーノルドは念を押すように続けた。



「貴女が信用できないからではない。ここで名を口にすれば、万一この魔術が破られていた場合、その者まで巻き込むことになる。何事にも絶対はない」


 それまでの奔放な振る舞いとは異なり、その判断は慎重だった。

 アーノルドは計画の全てを軽々しく扱っているわけではない。聖花が見えない場所で、失敗の可能性を一つずつ潰してきたのだろう。



「分かりました」


 聖花は軽く頷くと、今聞いた内容を頭の中で整理した。


 今夜、王宮が静まり返った後にアーノルドが再び来る。彼が見張りを無力化し、牢の扉を開け、聖花を王宮の外まで連れ出す。その先では、養女として聖花を引き取る貴族が待っている。

 一見すれば単純な計画だが、どこか一つで予想外のことが起これば、全てが崩れる。


 王宮内で誰かに見つかるかもしれないし、見張りが想定より多いかもしれない。脱出用の通路が塞がれている可能性もある。引き受け先が、本当に聖花を受け入れてくれる保証も、まだ彼女自身は確認していない。

 危険な橋を渡るどころか、足元の見えない暗闇へ踏み出すようなものだった。


 それでも、今さら引き返すという選択肢はなかった。

 一度覚悟を決めた以上、恐怖を理由にここへ残れば、二度と外へ出る機会は巡ってこないだろう。



「大体は、理解いたしました」


「大体、か」


「実際に動いてみなければ分からないことも多いでしょう。貴方が全てを説明してくださっているとも思っておりませんし」


「疑り深くなったものだ」


「誰の影響でしょうね」


 聖花が返すと、アーノルドは楽しげに目を細めた。


 以前の聖花であれば、不安を押し隠すために無理に微笑み、相手の言葉へ従うだけだったかもしれない。

 だが今は、恐怖や疑念を抱えたまま、それを相手へ示すことができる。


 アーノルドを信用していないことも、彼に利用されるだけでは終わらないことも、隠す必要はなかった。彼も、そのような聖花を望んでいるように見えた。



「では、私は一度戻る」


 計画の説明を終えたアーノルドは、展開していた魔術を解除するため、片手を僅かに動かした。


 消えていた周囲の物音が徐々に戻り、遠くから水滴の落ちる音と、誰かの咳が再び聞こえてくる。



「今夜まで、余計なことをせず待っていろ。食事が運ばれてきても、普段通りに振る舞え。見張りへ不自然な印象を与えるな」


「承知いたしました」


「また今夜、会えることを楽しみにしている」


 アーノルドは、その言葉の裏側に何か別の意味を隠しているような笑みを浮かべた。

 これから始まる脱獄を楽しんでいるのか。聖花を外へ連れ出した後に待つ何かを期待しているのか。その表情から真意を読み取ることはできなかった。


 だが、聖花も彼の前で怯えた姿を見せるつもりはない。



「奇遇ですね」


 彼女は敢えて、アーノルドと似たような笑みを浮かべた。



「私も、今夜が待ち遠しくて仕方がございません」


 言葉だけを聞けば、親しい者同士が再会を約束しているようにも思える。

 けれど二人の間にあるのは、信頼や親愛ではなく、互いの目的のために結ばれた危うい協力関係だった。


 アーノルドは聖花の返答を聞くと、心底愉快そうに笑い、暗い通路の向こうへ歩き去っていく。その背中が見えなくなるまで見送った後、聖花は鉄格子からゆっくりと離れ、壁際へ腰を下ろした。


 胸の鼓動が、先ほどまでよりも速くなっている。


 実行は今夜。あと数時間後には、この牢から出ることになる。

 そう考えると、期待よりも先に恐怖が込み上げた。


 失敗すれば死ぬかもしれない。成功したとしても、その先に幸福が待っているとは限らない。

 それでも、自分の意思で選んだ道だった。


 聖花は震え始めた指を両手で包み込み、暗い通路を見つめながら、何度も呼吸を整えた。

 この鉄格子の向こうへ踏み出した瞬間から、マリアンナ・ヴェルディーレとしての生活には、本当の意味で別れを告げることになる。


 もう二度と、以前と同じ自分へ戻れないかもしれない。

 だが、それでも生きる。生きて、何が起きたのかを確かめる。身体を奪った少女と、もう一度向き合う。そして、いつか自分自身の居場所を、自分の手で選び直す。

 胸の内でそう繰り返すうちに、震えていた指先が少しずつ静まっていった。


 やがて聖花は、誰もいない牢の中で小さく顔を上げると、薄暗い天井の向こうにあるはずの夜空を思い浮かべた。


 今夜、ここを出る。


 罪人として連れ出されるのではなく、自分の人生を取り戻すために、自らこの牢獄を脱け出すのだ。

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新作短編作品 百番目の死神
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