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ヒロインの座、奪われました。  作者: 荒川きな
2章 孤独と希望
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11.脱獄直前

「決行は本日行う、異論は聞かん。」


「えっ」


(ここから脱出すると決めたけれど、いくらなんでも急すぎでは……?さっき、あれほど脅しを掛けておいてそんなに軽く…。準備は??他にもやることはないのかしら……)


 聖花から思わず気の抜けた声が漏れ、その場の緊張感が一気に台無しになった。


 彼女は慌てて口を押さえたが、それも無駄な足掻きで、むしろアーノルドに醜態を晒すことになっただけだった。

 しかし以前の姿に比べたら小さなことに過ぎない。


 彼も場の空気を少しでも和ませるように軽く息をついた。


「此方側の都合でな。養女になる手続きは時間が掛かる故、出来るだけ早いほうが良いのだ。引き受け先にも諸々の話は通しているゆえ、心配は無用だ」


 考えを読むように簡素に、詳しい説明を省いてアーノルドは彼女の疑問に答えた。

 殆ど表情は動いていないが、聖花の目には彼が心なしか面白がっているように映った。 


 彼女の方は心の内を盗み見られたようでいい気はしない。

 だから、少しでも困惑した様子を見たくて、ありえもしないことを聞くことにした。



「用意周到ですね・・・。

 もし私が断っていたらどうしていたんですか?」


「どうもしないさ。…だが、受け入れただろう?

 それが事実ではないか。」


 そんなことも虚しく、予想していたかのように軽く流されてしまった。

 彼にとって『カナデ』など、そんな程度でしかないのだろう。

 今はまだ、居てもいなくても大して変わらない存在。

 

 ……結局、すべて彼の手のひらの上で踊らされているのだと実感させられてしまっただけだったが、それでも一矢報いないと気がすまない聖花は皮肉を言うことにした。

 実際に彼女が感じていたことを添えて。



「殿下は、初めに私に『ただ助けたいだけ』と仰いました。

 ですが、とてもそうとは思えませんね。殿下?

 ・・そもそも、態度がコロコロと変わりますがどれが本当の貴方なのですか?」


 一瞬、あっけらかんとした表情をしたや否や、アーノルドは大声で笑い出した。

 どうやらこんな場所で真っ向から聞かれるとは想定していなかったようだ。



(何がそんなに面白いの…)


 不意打ちは成功したものの、(かえ)って聖花にはモヤッとした気持ちが残り、呆れ顔でアーノルドを凝視していた。

 その構図は、牢を隔てているとはとてもではないが思えないほど異質であった。



「あの……。声が大きいのですが、流石に不審に思われるのではないでしょうか」


「あぁ、それも心配いらない。

伝え忘れていたが、俺は確かに王族の癖に『森』属性でな。風の魔術を工夫して、音が周りに漏れないようになっている」


「・・そうなんですね……」


 聖花の指摘を聞いて、ようやく笑いを収めたアーノルドが、そう言い放った。

 あまりにも当たり前のように言う為、聖花は彼がしたことについて、今は深く考えないことにしたし、何か引っかかることがあったものの、気の所為だろうと思っておくことにもした。



「……先の問いの答えだが、今の貴女には偽善よりこちらの方が向いているように感じたのだ。違うか?」


 さて、気を取り直したところで、彼は少し前の皮肉に答えた。

 感情の脈絡が激しいのか、それとも隠すのが上手いのか、先程までの様子が嘘のように落ち着いている。



「……どなたが私をそうさせたのでしょうかね?」


「さぁ?一体どこの誰であろうな。心当たりがないな。

 それより、そろそろ脱出の計画を話そうか。時間が押しているのだ。」


(あ、今話そらしましたね)


 聖花が嫌みを言うと、嫌みで返された。

 彼女はまた、してやられた気分になったが、彼の言うことも事実であるので、何も言わず彼を見ていた。



「話が逸れて不満げだな。元々話を逸したのは貴女であろう?」


 どうやら思っていたことが顔に出ていたらしく、アーノルドに煽られた。

 本当にいい性格をしているな、と逆に感心すると共に、王族は皆()()()なのか、と聖花は思った。


 再び話が逸れそうになったので、聖花はわざとらしく溜め息をついて、意識をそちらに向けつつ話を戻した。

 出来る限り深刻そうに見せ、場に緊張感を走らせるように。



「……さて、計画をお聞かせいただけますでしょうか」


「あいわかった。

 ……先ほど申したが、決行は本日の日没後、邸にいる他の王族が寝静まってから行う。なに、見張りの幾らかには眠ってもらおう。きっと罰則を恐れて失態を隠すことだろう。


 迎えは、俺が直接行く。それまで待っておけ。

 邸から出た後は、貴女の養い先の貴族に任せてある故、あちらに諸々聞け。分かったか?」


「はい。大体は」


 聖花は軽く頷いて、計画の概要を頭の中で整理した。

 本当に上手くいくかは不透明であるが、この危険な橋を渡らない選択肢は端から存在していない。

 もう覚悟を決めたことである。



「では、戻る。また今夜会えることを楽しみにしている」


「奇遇ですね。私も待ち遠しいです」


 アーノルドは今後の自分の未来のことを考え、心底愉快そうに嘲笑った。

 聖花も、彼に合わせるように、敢えて不敵に笑った。



ーーーさあ今夜、脱獄だ。

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