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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
二章.凍雨
22/206

4.奇病とイジメ

 脅威のイケメンバトルから数日、やはり美樹本・嵩原の諍いは多数の注目を引いたようで校内に噂話として広まってしまった。


 あることないこと尾ひれ背びれが付着して生徒の間を飛び交う噂話なのだが、そんな噂話の中でも気になるのが『美樹本の姉は例の奇病に罹って倒れた』というものだ。これ絶対嵩原の所為だろ。

 奇病自体半信半疑の域を出ていないってのに、噂ではさもそれが真実みたいに語られてて美樹本本人に影響が及んでいる。


 あれだ、小学生なんかが〇〇菌~とか言ってハブったり個人攻撃するあれ。奇病に罹った身内のいる美樹本に関わると、自分も病気になるとかなんら根拠のない差別発言かます奴が出て来ているのだ。


 勿論病気を忌避して自衛に励むことを否定したりはしない。

 インフルエンザ等の感染を防止するため、他人との接触を一時的に制限するなど、防疫という観点からして有益な手法ならそりゃ実行した方がいいだろう。結局、感染性のある病気は他人との接触をなくすことが一番の防疫だからな。


 だが、今回の奇病に関してはそもそもが実在自体が妖しく、現状噂の域を出ていない。

 そして感染性の病気かも分からず接触を制限することに意義があるのかもはっきりしていないのだ。


 そんな中でまるで美樹本が病原菌かのように扱うことに果たして正当性なんてあるのか?

 そもそも、そうして糾弾している形で美樹本に悪口ぶつけてる奴らは、揃ってニヤニヤと小馬鹿にした笑いを顔に浮かべているのだからその本旨が何かなどお察しだろう。

 高校生が小学生レベルの嫌がらせを嬉々として行っている姿は、傍から見ていて失笑ものでしかない。


 そういう奴らに限ってこそこそそこらに屯して聞こえるように悪口を言うのだから陰険極まる。というか非常に邪魔。

 教室の出入り口付近とか渡り通路の交差点とか、果ては廊下で広がって通り掛かる美樹本の傍で、聞くに堪えない暴言ぶつけたりと通行そのものの障害物化してたりすんだけどなんなの?

 ただでさえ見苦しいのに物理的にも他人の邪魔するって一体何がしたいのか。周囲の人間が迷惑そうに睨んでいるのに、当人たちは美樹本を虐めるのが楽しいからかそんな視線気付きもしない。


 俺も何度かそういった邪魔してる連中には「邪魔だから」と、直接文句言って散らしたりしてるんだが一向に改善が見られないのがもうねぇ。

 向こうは集団だから、ソロの俺に強気で声荒げたりしてくるけどこっちだって苛ついてるんだ。文句あんのかと睨み付けてやればそそくさどっか行くのだから大概根性がない。

 俺もどちらかと言えばヘタレで平和主義者だから喧嘩とか好きくないけど、流石に日常で邪魔してくる輩相手には黙ってもいられない。本当通行の邪魔。道幅一杯に広がってちんたらチャリ漕いでる学生並に奴らは鬱陶しい。


 最近は、俺にまでヘイト溜まってるような気配が見られるが知ったことじゃない。これまで誰一人俺に一人で言い返して来た奴がいないのだから所詮そんなものなのだろう。

 いっつも誰かと連んでは声色合わせて文句言うのも一緒。男子が揃いも揃ってまるで女子みたいに肩寄せ合って、ニヤニヤ笑ってるのって本当絵面が酷いからな。とても見られたものじゃない。


 そう、美樹本に文句言ってるのが極一部の男子のみってのも事態の情けなさを演出している。つまる所、美樹本に嫌がらせを行っている輩は嫉妬を動機としてここぞとばかりに攻撃を加えているんだ。


 美樹本は美少年だ。少女に見える美少年だ。その上礼儀正しく穏やかな気質も相俟って、当然女受けはこれ以上ないほどに良い。

 そんな美樹本を元から面白くないと思っていた輩共は、都合よく湧いて出た攻撃材料である奇病云々の噂にこれはいいと飛び付いた訳だ。自身の面白くないという気持ちと、上手くすれば美樹本を排除出来るかもしれないという欲を昇華させるため動いたと。実態はそんな情けなくも理不尽なイジメだったのだ。


 狙いが明け透けな野郎共の嫌がらせだ、当然第三者としては何やってんだと辛辣な印象しか持たれない。

 そもそも美樹本は元々女子からの人気が高い。そんな美樹本に対して不穏な噂が流れたとして、果たして女子が忌避感など抱いたりするのか?


 答えは否だ。確信のない噂話程度で美樹本に対する好感度など目減りはしない。寧ろ噂に乗っかって虐めてくる輩を、一部過激派女子はこれでもかと敵視して排除に回った。


 まぁ、極一部の男子VS美樹本ファンの集合体という図式が成り立つよね。なので美樹本の学校生活そのものはそこまで悲惨な様相を呈していない。

 やっぱり女子の集団は、男子のそれより遥かに厄介で恐ろしいものだなと心の底から感じ入った。なるべくこれからも女子の集団だけは敵に回さないよう気を付けよう。


 女子の怖さを再認識したことはともかく、嵩原の奴もなんだってこんな争いの種を蒔いたりしたのか。

 長雨と不穏な噂で浮き足立った空気が校内には蔓延っているというのに、そこに限定的且つ結果的にだが男子と女子の対立を引き起こしたその行いは罪深い。


 あいつなんでいきなり美樹本に突貫して来たんだろうか。身内に病気になった人間がいるとか初対面で訊ねることじゃないよな。

 美樹本が不機嫌になったからっていうのもあるだろうが、質問後早々に辞去したのはやっぱりその問いが本命だったってことか。

 意図はなんだ? 美樹本を孤立させるのが狙い? 自分のライバルになりそうだから嵌めたとか?


 嵩原の人となりなんてさっぱり知らないからなんとも言えん。罠に嵌めたっていうならとても最低。この時期にやることじゃなかろうて。これもまた推測でしかないから頭の片隅に『嵩原最低』と置いておくだけにするけど。

 同じクラスという誼から俺は断然美樹本の味方だ。客観的に見ても悪いのは嵩原の方なので、これは決してモテ野郎が憎いとかそんな私怨なんかは込められてはいない。


 この騒動で嵩原の人気が下がってくれたら何より、いや、そんな個人的な願望、いやいや、望み、いやいやいや、私怨はない。ないったらない。ないのだ。





 あくまで奇病は噂の域を出ない、そんな風に学校内の騒ぎを静観していたのだが、騒動はこちらの楽観など端から無視するつもりであったようだ。

 最悪なことに、雨で沈む我が地元に更なる凶報がもたらされた。


 噂の段階を越えなかった奇病が実在すると断定されたのだ。




 事の始まりはいつも通りに生徒間での噂からだった。

 三年生が一人暫く学校を休んでいる。三年という時期もあり長期に学校を休むのもあまりいいことではない。現在の状況も相俟り、流石にどうしたのかと心配した友人が自宅へお見舞いに伺ったらしい。


 対応してくれた母親は始めは口重く、会わせてくれと頼む友人の言葉に頑なに頷こうとしなかった。

 しかし心の底から心配だと訴える姿にやがて口を開け、そして実は重い病気に罹って入院してしまったと明かしたと言う。


 この時期に入院ともなれば脳裏に浮かぶのはあの奇病の噂だろう。その友人は純粋にただその生徒への心配から入院した病院を聞き出し、見舞いへと向かった。

 通された病室で友人が対面したのは、低い体温で昏々と眠り続ける噂通りの症状を発症した生徒の姿だったという。


 この話はその友人当人から聞き出したものらしい。虚脱したように元気のないその友人を心配した周囲の人間が聞き出し、そしてあっという間に学校全体に広がった。


 その友人としても入院している生徒を気味悪がってといったことはなく、ただショックが酷くて聞かれるがまま答えてしまっただけらしいのだが、おかげで校内は奇病に関する噂で持ち切りとなってしまった。


 皆実在したのかと必死にこれまで流された病気についての真偽不明の話を囁き合っている。

 罹りたくない。倒れたくない。その一心でどうにか病気への対抗策はないか、それを探っているのだろう。


 その内に病気の発症原因についてあーでもないこーでもないと語る一派も出始めた。そいつらは新種のウィルスだ、日照不足が原因だとこれまでのテレビ放送の内容も交えて講説振り、さもこれが正解だといったように持論をあちこちで話して回った。


 テレビで語られるような科学的根拠を基にした推論ならばともかく、果ては長く振り続ける雨と関連付け、この雨に当たるから病気になるのだと声高に叫んで早退する生徒もいたとか。

 はっきり言ってもう滅茶苦茶だな。


 それでも罹らないようにと具体的な対処法を求める生徒たちはその考察に飛び付き、皆これが原因、あれが原因と日々論拠を変えながら必死になって病気についての噂を話し合った。

 ちょっと前の流行り方など目でもない、皆が皆曇った空を見上げ病気について噂する。ちらちら上目遣いで空を眺める姿は、まるでお伺いを立てているようでうっすら背筋が寒くなったほどだ。


 ここまでの混乱振りも中々のものがあったが、最悪なのはこの事実により美樹本にまで大層な煽りがいってしまったことだ。


 話は簡単であの小学生の嫌がらせが真実のものとして周囲に流布された。

 病気の身内がいるならそいつから感染してもおかしくない。近しい人間からどんどん感染していくんだ、近付くと病気になるぞ、と言った風に。


 根拠も何もない滅茶苦茶な主張だ。だが、これを囁く一派が、原因解明について考察する一派と接触したがために事態はおかしな方向へと動いてしまった。

 病気の原因はウィルスか、日光不足か、あるいは化学製品によるものか、はたまた雨の所為か。

 真実は未だ解明されてない。だからこそ、曖昧な理論でもそれっぽく装飾して口に乗せてしまうのだ。病気に罹った者が近くにいるならそこから広まってしまってもおかしくない、と。


 多数の人間が理に適った推測だと聞き入っていた一派からの発言だ。真実だと広まるのは本当にあっという間だった。

 これにより美樹本を白眼視する人間は確実に増え、校内における風当たりも非常に厳しいものとなった。

 

 美樹本の注目度もさることながら、やはり身内に罹患者がいると一度でも広まってしまったのがまずかった。まるで病気を撒き散らすその原因であるかのような扱いを周囲の人間がし始めた。

 近付かず、擦れ違うのも回避して触れられるのも嫌う。イジメと言うよりも、より悪質な差別が校内で横行することとなってしまったのだ。


 勿論、噂話を真に受ける人間ばかりではない。一部の冷静、または良識ある人間、それから美樹本のファンなどは対応を変えなかったり、寧ろ美樹本を守ろうと陰に日向に庇い立てもしていたようだ。


 だが、過激な嫌がらせを行う人間は止めろと言われて止めたりはしない。多くの生徒が奇病に対して忌避感を抱くようになった現在、奴らにとっては自分たちの主張を貫くにはこれ以上ない環境だと思うようになったのだろう。大衆を味方に付けたと言わんばかりの強気な姿勢を崩そうともせず美樹本に絡む。

 実際に奴らに賛同する生徒はそれなりにいた。美樹本を嫌っている人間もいれば病気を忌避しているのもいる。嫌がらせは勢いを弱らせることもなく、美樹本の華奢な体に何度も何度も見舞われた。


 大多数の人間による集団イジメだ。クラス処か学年さえ飛び越えてのイジメだが、当の本人である美樹本はそれをただ無視するだけだった。

 悪口も自分を忌避する態度も涼しい顔で流してしまう。それがまた嫌がらせをする人間は気に入らないようで、よりエスカレートしていくのだがそれもなんでもないように無視する。

 変に相手にせずただ無視することで同じ土俵に上がることは回避してみせる。変にやり返してそれを槍玉に挙げられては美樹本も無傷ではすまないしな。後々のことを思えば、ただ向こうの非ばかりを積み上げさせる美樹本の対応は遥かに賢く、そして大人であると言えた。


 俺もヘイトを稼いでいた身として勢い付いていた野郎共に軽く嫌がらせなどされたりしたが、泰然と流していた美樹本を見たあとなのでその幼稚さには失笑しか出なかった。

 同じように無視すれば声高に叫ばれたが、俺まで排除する意義は果たしてあったりするのかね。

 所詮奴らは、今流布している奇病の噂に乗っかることでしかでかい顔も出来やしないのだ。あまり好き勝手やり過ぎると噂が終息したあと困るのは奴らなはずなんだけど。勿論、親切な助言なんかしてはやらない。


 校内はそんな感じで荒れて美樹本の身辺も慌ただしく不穏な気配を見せている。クラスでも噂を鵜呑みにする馬鹿がいるが、幸い女子の大半が美樹本の味方なので大事にはなっていない。

 いや、ムカっとはするけど。モテ野郎ムカつくとは思ってはいるけども。過保護発動した女子に囲まれる美樹本見ると嫉妬心が沸き上がってはくるけども。


 まぁ、それでもどこか元気のない美樹本を見ればやはり影響はあるのかとちょっと同情心は湧いてもくる。大多数から敵意向けられて平然としている方がおかしいもんな。

 変に反抗したり、もしくは怯えて見せたらエスカレートしそうだから敢えて無視なんてしているんだろうし、本当はベコベコに凹んでいたりするんだろう。それだって教室では見せられないって、あいつ、今辛いだろうなぁ。


 痛々しく思えるが、だからと言って俺がやれることもない。

 調子に乗っている奴らを諫めた所で、敵対心を煽るばかりで美樹本への被害は減らせないだろうし、美樹本個人への感情ではなく、奇病を恐れるからこそ排除に動く人間には道理を説いた所で意味はない。


 人道に悖る行為だとこんな混乱した状況で告げたとして、果たして冷静に聞き入れる人間なんて何人いるか。

 冷静さを失っているからこそ個人攻撃に至っているんだろうしな。病気の発覚のタイミングがあまりに悪かったとしか言うしかない。


 こんな長雨なんていう非常事態も起こらなければ、きっと美樹本はイジメとも無縁でいられただろうに。

 そう考えれば早くこの雨も止めと願わずにはいられない。多くの人間を不安にさせて混乱させてくるのだ、時期によっては恵みのなんて形容詞が付くこともあるが、現状ではただ禍を呼び寄せるものにしかなっていない。


 なんだってこうも長く振り続けるのか。大量の水分の所為で高まる湿気とは別に、どうにもクサクサとする気分をぶつけるつもりで曇天の空に思いっ切りため息を吐き出した。


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