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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
七章.黄昏時
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5.去年と今年の文化祭

 中間テスト明けて翌週。十月最後の一週間となるこの週は、いよいよ文化祭が迫って来ていることもあって校内の空気も浮ついて正に祭り前の様相となっている。

 校内は文化祭に関しての話題で持ち切りだ。どこそこがどういう模擬店出すとかこんなイベントをやるだとか。宣伝を兼ねて噂を流している向きもあるんだろうな。おかげでまだ時間もあるのに校内の盛り上がりようが半端ない。


「皆楽しそうだなー」


「去年はあんまり盛況とはいかなかったようだからね。今年はと意気込むのもいるんじゃない?」


 放課後、教室で買い出し班が戻ってくるのを待機していると桧山が廊下を見ながらそう溢し、嵩原が推測を口にした。

 まったり教室内に控えているこの状況下でも廊下側からは実に楽しげな喧騒が扉を越えて聞こえてくる。文化祭の準備期間一日目の本日、まだ初日だと言うのに校内に残って準備に当たる生徒はそれなりにいるらしい。


「実際盛り上がったとは言えなかったっけ?」


「幾つか模擬店は出ていて、部活動の発表やらは開催されていたがクラス単位ではそんなに店もやってなかったか。三階が静かだった記憶があるな」


 美樹本の問いに記憶を穿り返しながら答える。本校舎一階二階はそれなりに店も出ていて繁盛していたと思うが、俺たち一年の階は出し物も多くはなかったような。自分所は休憩所だったし。


「俺らやる気なかった?」


「うーん、一年で文化祭参加って中々難しいよね。学校生活にも慣れ出したかなって頃合いで、クラス全体で一つのこと成し遂げようっていうのも主張するのも遠慮するような気配があったし。まだあと二年あるからいいかなって余裕もあるしね」


 そうなんだよな。今回のあれやこれやでも散々に思い知らされたけど、大人数で一つの目標に向かって突き進むってかなりしんどい。歩調合わせるのは当然として自分でも全体を意識して動いていかないとといけないのがマジで大変。

 今年がどうにか乗り切れたのも、二年になって心の余裕と少しは気慣れした奴らがいるから歩調合わせるのも楽になったって事情があるから正直やれてるんだと思う。

 あの一年の時のクラスで同じように喫茶店やれとか言われても俺は絶対サボるね。


「不慣れだから、やる気がなかったからといろいろ理由は挙げられそうだけどね。でも模擬店の出店の低さは一年だけのことでもなかったみたいだね」


「ん? そうなの?」


 意外だと美樹本が軽く目を見張る。俺も意外だと思った。一年はともかく二年三年はそこそこ盛り上がってた印象があるんだが。


「実際に去年のアルバムなんか見ると出ている模擬店の数って結構少ないんだよ。例年だと各学年五クラス程度、一年は下回るとしてそれでも十は超える店が幟なんか立てて客引きやってる写真があって然るべきなんだけど、それが去年は辛うじて十いくくらいだったんだよね。あくまで本校舎クラスでの集計なんだけど」


「……それ、クラス単位での参加が少なかった、てこと?」


「うん。去年は文化祭への参加意欲自体が全学年で下火になっていたみたいなんだ。だから出し物も少なくなっていたって訳」


 嵩原の講釈に聞き入る。マジで? 去年ってそんな感じだったのか? 全然記憶の中の印象と違う。


「そうだったっけ? 俺そこそこ楽しめた記憶あるぞ?」


「まぁ、全く盛り上がらなかった訳でもないしね。それに俺たちは一年生だったから、高校初めての文化祭で出し物が多い少ないと比較する基準も持ってなかったから気付かないのは当然だよ。でもね、当時の二年三年、現三年生からしてみればやっぱり盛下がっていたとは感じてたらしいんだよね」


「そうなんだ。でもなんでだろうね? 自覚するくらいに熱意がなくなるなんて、明確に何かしらの理由がないと普通は起こらないんじゃない? 一クラス二クラスがやる気なくしたって話でもないんだし」


「それなんだけどね」


 ニヤッと嵩原が暗黒の笑みを浮かべる。こんな顔する時のこいつは腹黒いことかオカルト関係の話をするって経験で知ってる。あってなるけど、止める間もなく奴は意気揚々と語り出した。


「ほら、去年は春先にいろいろあったじゃない? 校内でも不和が生じるような重大な出来事。どうにもそれが尾を引いて文化祭へのモチベーションを下げてしまった、てことらしいんだよね」


 去年の春先。そう言われれば思い浮かぶものはたったの一つだ。美樹本もスンって感じに真顔になった。心当たりが瞬時に思い浮かんだようで。


「春先? ……あー、長雨かぁ」


「そ。あの時の騒乱って覚えてる? あっちでどうこう、こっちでどうこうと校内もいろいろ騒ぎがあったでしょ。それが元で人間関係拗れた生徒が大量にいてね、文化祭まで修復が上手くいかなくてクラス内もギスギスした結果、共同作業も困難となってしまって出し物の辞退に繫がったという話だよ」


 桧山も忘れてはいなかったようで、当たりだと認めた嵩原による解説で事の真相が見えた。

 てことは何か、つまりは長雨時の騒動による内部不和がそのまま文化祭にまで波及して、それでクラス一丸となるぞ!という意欲も削られての出し物減少だってのか。それ俺たちのクラスだけのことじゃなかったんだな。


 へーと一年越しの真実に驚けばいいのか納得すればいいのか曖昧な心境で耳傾けていると、横から視線を感じてそちらへと顔を向けた。見れば美樹本の奴がじっと俺の顔見てる。

 ……あ、何言いたいのかと思ったけどこの真実は不都合だからと美樹本に伏せていたな。拙い、察知されると俺の身が危うい。


「……永野、もしかして」


「だから今年は去年の分も加えて盛大にやってやろうって動きがあるみたいなんだよね。特に三年。流石にもうクラス替えもあって一年も経っているんだから時効だって開き直った向きもあるみたい」


「そっかー。そりゃ折角ならわーってやりたいもんな。祭りが盛り上がらないってつまんないし」


「亨なら細かいことは気にせず突き進んでいたかもね」


 美樹本が問い質しモードに入るそのタイミングで嵩原の注釈が上手いこと差し挟まれた。桧山も乗ったことで美樹本の気勢が削がれたな。

 すいと外れた視線に密かに安堵の息を吐き出してたら嵩原の奴がパチリとウィンクなんてかましてきた。助けてやったぞって意思表示なんだろうけど、秘密明かしたのお前だからな。美樹本怒らせた過去だって俺は忘れちゃいないぞ。この場での追及は止めておくけど。やぶ蛇やぶ蛇。


「あ、それとは別にね、今年の春に人の悪口言いまくって評価下げた一部男子勢が挽回するために文化祭の成功に躍起になってるなんて話も耳にするよ。どこかの誰かが受けた被害をまた誰かが明らかにしたためなんだけど、我が学校も随分騒がしいことだよね。ねぇ、聖、真人?」


「へぇ。僕らの学校って結構やんちゃな生徒ばかりいるのかな?」


「挽回出来る舞台があって良かったな。内申にも影響するだろうし、是非とも頑張ってもらいたいね」


 さらっとぶっ込んできた探りを、こちらもさらっと受け流す。嵩原のこの手の当て擦りなんてもう慣れたものだからな。美樹本もポーカーフェイスが巧いこと。


「そうやって必死な層もいるんだよ。文化祭に命懸ける、誇張でもなく本当に挽回願ってるらしくて、神頼みに走ってまで文化祭の開催と盛り上がりを願ったとも聞くよ。長雨でのやらかしを知るからこその必死さかな?」


 嵩原もリアクションは期待してなかったようであっさりそのまま話を続けた。

 つか今更慌てるのもなぁ。当時に直ぐに我に返ってたらこんなあとになって慌てることもなかっただろうに。

 後悔はあとからするもんだってのはもう手垢の付きまくった格言ではあるけど、あの時に暴走した輩共は是非とももっと後悔と反省して。そしてもう関わってこないで。


「ま、そんな事情が実はあったって話。この盛り上がりようも少しは理解出来たかな?」


 講釈は以上です、なんて示すように嵩原が両手を広げて肩を竦める。昨年からのあれこれを聞かされたこっちは、そんな事実もあったんだなとあくまで他人事としてしか受け止められないけど、比較的話の中心に近い位置に立ってる美樹本はどう感じたのか。今だって渋面浮かべてらっしゃる。


「……まぁ、この学校の諸事情なんかは把握出来たけど、それをなんで今聞かせたの? 当て擦り?」


「他意はないつもりだよ? 例年、これは昨年だけじゃなくて一昨年以前も含めての比較だけど、今年の文化祭への意気込みは本当にちょっと頭疑うほどのものがあるから、いずれ疑問に思うかなと思って先に説明しただけ」


 言って廊下に目を向ける。ガヤガヤワイワイとした喧騒は変わりなく聞こえてきていてやる気に逸る様子も窺える。決起集会なのか、「おーっ」なんて掛け声も外から届いたりしてきた。

 なるほど、確かにこんなにも騒ぎになってるなんて体育祭以外には見たことも聞いたこともない。


「聞けば模擬店参加もクラスの八割ほどに達するとか。『今年の上蔵はロケットエンジン!』なんてキャッチコピーがポスターに採用されるとか噂流れていたよ」


「意味分かんない」


「それだけ勢いがある、てことか?」


 本当なんだか冗談なんだかも分からんなぁ。でも盛り上がってるのは確かだよな。


「俺らも喫茶店やるしな!」


「……先生からの発破受けて僕たちも出し物やるって決めていたけど、嵩原の話聞いたら去年の盛下がりを懸念した学校側の、体面を重視したさり気ない誘導だった可能性が……」


 美樹本の奴がふと思い付いたみたいになんか黒いこと呟いてる。

 文化祭ってのは開催される学校の文化的レベルを示す真っ当な機会みたいな話は聞いたこともあるけれども。文化祭が盛下がる=学校の活動も低下みたいな図式が成り立つのは安直と言わざるを得ないが、でも一概に考え過ぎだとも言えないわな。

 学校運営の裏なんて一学生が気にすることではないのは確かだけど。結果皆楽しそうに文化祭に励むってなってるならそれで充分だろう。ウィンウィンだ。誰と誰とかは明言しない。


「それならそれで踊る人間が増えたってだけの話だと思うけど。外の理由とは関係なしにやる気に満ちてる人間はいたはずだよ。今年は一般開放が十月の末日だと分かっていたんだし、世界的な祭典に託けて騒ごうと計画していた層もそこそこいたんじゃない?」


「世界的……、ああ、ハロウィンか」


「そうか。そういえばそんな時期なんだなぁ」


 我が国とは全くの関係性などない大規模な仮装イベントと化している元は収穫祭だったらしい祭り。どこぞの交差点が有名だが、あれってただ馬鹿騒ぎしてるだけで何も祝ってる訳でも祈ってる訳でもないよなぁ。仮装に主軸置かれてるけど、あれ誰が、いやどこが最初に投じた流れなんだろう。


「ハロウィン。カボチャ、いやお菓子がどうこう?」


「そんなイメージだよね。本来は秋の終わりの収穫祭、だったんだっけ?」


「元ネタはケルトのお祭りだよ。ケルト民族にとって一年は秋で終わりを迎えて冬にまた新しく始まるとされていたんだって。つまりは年越しのお祭りだね。その新年であり冬の始まりの際には死んだ祖先の霊が家族の元に帰ってくると考えられていたそうだよ」


「へぇ。盆みたいだな」


「事実盆みたいなものだったみたい。その祖先が帰ってくる日はね、何も身内の霊だけが戻ってくるって訳でもなかったそうなんだ。同時に悪魔や死霊、生きている人間に悪さをするようなものたちまで現れると考えられていた。ま、死者がこの世に帰ってくるとなれば、似たような立場のものも同じく帰ってくると考えるのは自然なことかな?」


「……あ、それで仮装もするんだっけ? 自分も同じくこの世のものではないとアピールして襲われないようにするとか聞いた覚えが」


「その通り。ハロウィンと言ったら仮装という発想もそこから来てるようだね。ま、大元はどこぞの大国でホラー映画が流行ったから定着し、それを我が国が文化輸入してこっちでも流行ったって流れみたい。元々コスプレして騒ぐって下地は立派にあった訳だしねぇ」


 天下に名高いサブカルな。よく考えれば仮装の大会なんてのも昔っからテレビで放送されてたりするんだし、嵩原の指摘通り下地は舗装された状態であったようなもんか。


「今だともう立派な季節のイベント的立場になってるよね。でも文化祭に取り入れるなんて話あったっけ?」


「主テーマにしようかという流れはあったみたいだよ。でもそれだとハロウィンが主体となってしまって学校行事の文化的発表の場とは見なされないと却下食らったみたいだね。だからあくまで個人レベル。クラスや部活動、一つの団体で取り入れるのならOKとなったらしい」


「そっか。まぁ、ハロウィン主体になったら仮装OKで校内も騒然としそうだしね。テレビで見るあの騒ぎが校内で起こったらと思うとちょっと笑えない」


 美樹本の意見には同意する。全部が全部ニュースで取り上げられるようなはっちゃけ振りを披露するとは思ってないけど、誰か一人でも通報案件なことやらかせば学校行事はアウトだからなぁ。

 学校というのは公的な機関であって、だからこそ問題が起きた際は公への対応を求められんだよな。模擬店やるのに細かに制限掛けられたのも、下手に食中毒なんか出しちゃいかんから定められてんだし。


「その辺りを学校も気にしたのかもね。やるとしても内装や出し物にハロウィン要素が入るくらいじゃない?」


「注目は集めそうだよね。僕らのクラスはやらないんだ」


「ハロウィン取り入れるってなったら多分いの一番にお前らがコスプレする羽目になると思うけど着たいのか?」


「やんなくていいよ。文化祭はあくまで学校行事なんだ、お祭りの体ではあっても相応しい格好はしてないと」


 誰を担ぎ上げての出し物だと思ってるのか。ハロウィン仕様にしたらまず以て美樹本たちにテコ入れがなされることになるだろうよ。


「ハロウィンは時期被りはしても文化祭の本旨とはまた別だからねぇ。それにコスプレしたって亨は一般開放の日には文化祭出られないし」


「お? おう。日曜は準々決勝!」


「おめでたいけど文化祭出られないのはちょっと寂しいね。それこそ、期日が重なっちゃったんだから仕方ないけどさ」


「だから土曜はめっちゃ楽しむ! クラスの出し物も俺頑張る!」


「亨が頑張ってくれるなら少しはサボれそうかな?」


 そうなんだよな。ハロウィンのその日は生憎とサッカーの準々決勝が控えてる。一般開放時に我がクラス出し物の売りの一つである桧山が不在というのも痛手ではあるが、美樹本の言う通りこればかりはなぁ。

 桧山が大会に向けて熱心に練習に励んでいたことを知る身としては応援しない訳にもいかない。


「応援には行けないけど頑張ってきてね、桧山」


「おう! あんがと! 精一杯走ってくる!」


「そこ点取るとかじゃないのか?」


「亨なりの意気込みかな?」


 サッカーはフルマラソンだった?


 ともあれ、嵩原からの情報に終始するが今年の文化祭はとっても盛り上がりそうな気配を見せているな。長雨による影響(+α)により祭りにおける参加者の挙動が変わるとか、どこかで聞いたような流れだわ。夏祭りも確か去年は長雨による反動で運営も客も大盛況だったとか。

 今年はそうでもなかったが、代わりと言ったように我が校の文化祭が大盛況になりそうか? まぁ、はしゃいでるのは主に生徒なんだけども。


「お、買い出し班戻ってきたみたいだぞ」


 俄に騒がしくなった教室出入り口を見て桧山が言った。ガサガサビニール袋やら紙袋やら鳴らしながら教室に入ってきた雑用の男子勢が、疲れを訴えつつ出迎えた女子にとお遣い物を渡してる。

 衣装、そして調理だけでなく内装にも力を入れたいと我がクラスでもやる気は満ち溢れている。雑用に逃げて露骨にやる気目減りさせていた男共も、ある時ふと「女の子が大量に来訪するならそれナンパチャンスなのでは?」と思い至ってからは積極的に出し物へも協力し出した。

 これもどこぞの夏祭りで見た流れだ。それでいいのかお前らはと一度男共には問うてみたいものだ。結局濱田の奴は一夏の思い出を刻むことが出来たのだろうか。


「衣装班は至急制服作成に入って。他は内装ね。あ、給仕班の人はサイズ測っちゃうからまず集まってー。仮縫いなんかで何度か呼ぶことになると思うから出来るだけ放課後は残っといてくれると助かる」


 材料の到着に合わせて慌ただしくクラスメートも動き出す。嵩原以下は衣装合わせもしなけりゃいけないと指示に従って席を立った。俺も雑用係に紛れて内装の手伝いに行こう。このやる気に満ちた教室の空気感からしても、サボろうものなら男子女子両方から顰蹙買うことは必須だな。


 文化祭まであと一週間。果たしてどうなることやら。



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