表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
七章.黄昏時
104/206

4.カフェHot

 休日を挟んで週明け。もう一度開かれた話し合いの場で結果が報告された。


「俺たちの『カフェHot』は、委員会での協議の結果……」


 紙束携えた実行委員である二人が教卓の前に立って発表する。ドラムロールの幻聴が流れてくるような盛大な溜めを作ったあと、ぱっと目を見開いて実行委員男子が告げた。


「見事! 採用となりました! はい拍手!」


 わーとパチパチ拍手を煽る男子に釣られてそこここから喝采が起こる。無事に企画が通って皆安堵しているようだ。俺だってこれで身を削った甲斐もあったとほっとしてる。


「ついては改めて学校側からの修正やら何やら言われてるんで皆確認してー。今日は更なる擦り合わせやって本決まりさせたいと思いますー」


 学校側からの提案書だとプリントが配られる。修正ってのが気になったが、読めばやっぱりメニューや調理方法に関してのものがちらほらあった。

 牛乳、卵の取り扱いはやっぱり駄目みたいだなぁ。ホットプレートの導入も難しいとある。カセットコンロは最高四台までか。取り扱いには注意が必要だと指導内容が載ってるが複数台許可が下りただけ良かった。これでどうにか回せそうだな。


「給仕役をもう少し増やすべきとかあるなぁ」


「当日は混雑が予想されるので列整理役も必要って、おい学校」


 当然修正箇所は調理班だけではない。他にも気になる点を幾つか指摘され、それらへの対応を検討してどうにか正式な企画書は仕上がった。これを提出すればあとは文化祭当日に向けて準備をするだけでいい。とりあえず山は越えたかなといった所だ。


「どうなることかと思ったけどなんとか纏まって良かったね」


 明くる日、いつもの昼休みで中庭にて弁当広げている最中に美樹本がほっと一息吐きながら言ってくる。山場の一つを乗り越えたという安堵感が気の抜けた表情から滲み出ているな。


「調理班も大変だったでしょ? 雑賀さんにまで話を聞きに行ったんだってね」


「ああ。大分迷走してたからどうしようもなくてな。おかげでスッキリと決めることが出来たから良かった」


「意外と平気そうかな? 亨に暴露された時の真人は今にも死にそうな顔してたのにね」


「うるせぇ」


 労る美樹本になんでもない風に返せば嵩原が瞬時にからかってきた。お前だって女子の圧力に若干辟易だ、みたいな顔してたの知ってんだぞ。流石のフェミニストも強制決定には物申したいことがあったと見える。


「あー……、なんかごめんな。永野がそんなバイト先のこと黙っていたかったとか思わなかった」


 ポリポリ頬を掻きながら桧山の奴が頭下げてくる。本当に悪気はなかったようで、この話題に触れると桧山はシュンと肩身狭そうになるんだよな。

 俺も暴露された直近はつい怒りに任せて責めたから、それもあって桧山は萎縮してしまうんだろう。よく考えればあとになってバレた場合には女子から物理的に吊るし上げなんて食らいかねないんだ。最悪の危機は回避出来たのだと、そう思うことにしよう。


「もういいよ。店に金落としてくれるならそれで手打ちだ」


「おう! 絶対食べに行く! チキンステーキうまかった!」


「そこは甘い物じゃないんだ」


 ニッコニコな桧山に美樹本も苦笑気味だ。そんな気に入ったのか? 確かにバクバク食っていたけど。


「パスタも美味しいよね。お菓子も手頃な量の奴も置いてあって女の子が喜んでたよ。盛り付けもお洒落だって写真撮ったりしてたし」


 くつくつと喉を鳴らして笑う嵩原にえ?なんて顔を美樹本と桧山は浮かべた。

 そう、こいつ一回本当に店に女連れてやって来たことがあった。しかも休日だ、休日。カウンター入ってた俺の前の席に座って「ここ知り合いに教えてもらったんだ」とか格好付けて話してるの聞いた時はコントか何かかと思った。


「嵩原も食べに行ったんだ」


「女の子から洋食食べたいってリクエストもらったからね。お店にも貢献するって言っちゃったし、ついでに有言実行果たしにね」


「僕もお礼がてら寄らせてもらったんだよね。ガトーショコラをオマケに付けてもらっちゃってお礼かどうかは微妙になっちゃったけど」


 言い難そうに美樹本も店にやって来たことを明かす。美樹本は平日に行ったそうであとで雑賀さんから来訪は聞いた。丁寧に菓子折持って行ったようで、「生真面目だねぇ」と苦笑してその菓子をふるまわれたのは記憶に新しい。


「……俺以外皆店行ってんの!?」


「そうなるか?」


 実はの事実に桧山が盛大に驚く。まさか自分一人だけが違ってたとは思いもしなかったようだ。なんせ話し合いの時まで忘れていたみたいだしな。目をかっ開いて嘘だと言わんばかりに口開けてる。

 別に来店は強制でもないし、俺としては来てくれない方が有難いんだからそうショック受けることもないんだが。いや、これ仲間外れになってる!と、そっちで衝撃受けてんのか?


「俺も行く!」


「お店行ってる余裕あるの? サッカー部の練習だって連日の如くあるって話なのに」


「正直ない!」


「素直な断言だねぇ」


 勢いの止まらない桧山に嵩原もやれやれと首を振ってる。大会予選が先月終わりから本格的に始まったようで、桧山も最近は非常に忙しそうにしていた。それこそ、放課後も休日もサッカー漬けだと言うほどの忙しさだ。


「結構いい感じなんだっけ?」


「おう! 今の所負けなし! 次の日曜で三回戦!」


「そこで勝てたら準々決勝出られそうなんだっけ。でも文化祭と諸に被るんだよね」


「文化祭も出たい! でもやっぱ大会も勝ちたい!」


「ま、そうだよな」


 我が学校のサッカー部は順調なようで今の所悪くない成績であるらしい。桧山もいろいろあってスタメンからも外されてしまったのだが、今は熱心に練習にも参加して信頼は取り戻されつつあるようだ。二回戦ではフィールドにも上がれたらしいし。


「我がクラスとしては亨には是非文化祭に出てもらいたいって思ってるかな?」


「あー、まぁ、そうだろうね。なんせ僕ら客寄せパンダだし」


 張り切る桧山の傍らで、シニカルな笑みと諦め切った呟きが交わされる。俺もこいつらも多数決の暴力に全力で曝された身だ。メニュー決めのあれこれと当日の仕事を思い浮かべて知らず美樹本とため息が被った。


「……何はともあれそれも今週の予選次第? まだ文化祭までは二週間以上間があるんだし、確か準々決勝までは一週まるっと期間空くんだよね? その間に一日くらいはお休みもあるんじゃないかな? それなら路シェーヌにも行けるかもね」


「いやいや、聖、失念してるよ? 来週にはまた別のイベントあるじゃない」


「え?」


 キョトンと美樹本が嵩原を見返す。急に何を言い出すのか。こんな直近でイベントなんてあるはずがない。


「皆忘れちゃった? 学生の本分と言える真っ当な行事が開催される見通しじゃない。中・間・テ・ス・ト。範囲だって続々と出題されてるのに忘れるなんてうっかりだねぇ」


 ふふふと含み笑いで以て告げられた単語にそう言えばと一気に現実を思い出した。そうだそうだわ、もう来週テストなんだよな。文化祭関連のあれこれですっかりと意識から抜け落ちてた。


 二学期始まってから一発目のテストになる。まだ期末じゃないだけそこまで重要性も低いかなと思われるテストではあるが、でもここで赤点なんて取ったらそれこそ文化祭とか部活なんかにも影響は出るかもしれない。

 そう思ってちらっと桧山の顔を窺ってみる。唖然と口開けて固まってた。桧山も今気付いた、みたいなリアクションだな。俺も忘れていた口だが、桧山は多分俺以上の衝撃受けてんだろうな。なんせこいつは今の今までサッカー・文化祭・喫茶店の三項目しか頭にはなかった訳だし。


「……美樹本、多分お前が頼みの綱になるだろうから頑張れ」


「……僕、つい二ヶ月前に夏休みの宿題っていう大物片付けたばかりなんだけどな」


 固まる桧山とニヤニヤと傍観する嵩原の隣で、美樹本はさっきよりも余程大きな諦めのため息を吐いた。




 企画書は無事受理され、週明けには中間テストも行われと怒濤と言った十月中旬はさくっと始まってさくっと終わった。

 まぁ、最大の懸案事項だった出し物関係が片付いた俺は精神的なゆとりもあり、テストの手応えも可もなく不可もなく、いつも通りであったと言える。つまりは平均くらいかなと言った感じか。


 俺にとってはそこまでしんどい一週間でもなかった。俺にとっては。大事なことなので二回言ったが、当然そうじゃなかった奴もいる。


 一人は美樹本。いつもなら余裕な顔でテストなんかさらっと流してクラスで一番の成績取るようなあいつは、今回に関してはテスト始まりの一日目は正に屍の様相といった具合にもう燃え尽きてた。土日でやれるだけやったんだろうなと奮闘の跡の残る姿に、事情知らない人間は具合でも悪いのかって心配するほどだった。


 テスト期間中は常にそんなグロッキー状態を継続させてて、最後なんて一周回って澄んだ表情浮かべていて怖かった。吹っ切ってはならない人間的な何かを打っ千切ってしまったのかもしれない。これまでにも何度もこの手の修羅場なんて乗り越えてきたはずなのに、今回はそこまで退っ引きならない所まで追い込まれているのかと見ているだけのこっちまでなんでかハラハラした。


 で、もう一人は当然の如く桧山だ。こっちはこっちでなんかもう一杯一杯といった感じ。いつもテスト期間中は萎びた人参みたいにしおしおとなっていたけど、今回はより酷く消耗しているように見えた。


 話によるとテスト前の三回戦では無事勝ちを収めて準々決勝への切符は獲得出来たらしい。

 本来なら週初め、顔を合わせた所でおめでとうの一言でも掛けるべきではあるんだろうけど、肝心の本人がそれなので話し掛けるのも躊躇われた。予選に勝ち進んだ所で定期テストで赤点取ろうものなら部活動の停止だって言い渡されるのが学生ってもんだ。だから桧山も必死なんだろう。

 美樹本の草臥れた感からもどれだけ勉強に追われたのかは簡単に想像も出来るというもの。多分近年にない、ひょっとすれば受験並みの追い込みだったんじゃないかと想像して勝手にゾッとなってる。そこまでじゃないか? でも、二人にとってかなりしんどい一週間であったことは間違いなかった。


 まぁ、そんなこんなでテストもどうにか乗り切り、弛緩した空気が流れる校内は次のイベントへと急速に舵を切っていくことになる。

 来週からは文化祭に向けての準備期間が始まる。月末の本番に対し熱気のようなものが徐々に高まっていく気配を感じながら、こうして文化祭までの一週間は始まろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ