来客
太田時連は、ほんわかした顔をして「こんにちは」と言った。後ろには、伊賀兼光をはじめとする、今まで忠顕と闘茶勝負をした武家たちが続いた。
次に、直衣姿の凛々しい人物が入って来た。今出川兼季である。
「げえっ! う、右大臣……」と忠顕。
「弁天のような、琵琶の達人がいると聞いたのでな」と、忠顕に挨拶する。玉は静かに頭を下げた。
それから、後伏見院と光厳上皇が入って来る。忠顕は「ひいっ」と叫び、慌てて座り直して頭を下げた。現在の天皇は大覚寺統の後醍醐天皇だが、その次の天皇は持明院統から選ばれる習わしである。忠顕は次の政権に移ってからの事も考えていた。
「おほう、玉や、玉が闘茶とは、驚いたぞ」
後伏見院はニコニコして玉を見る。玉は微笑んで頭を下げた。光厳上皇は頬を染めている。
庭の方にも次々に、彼らの従者や家臣、足利の兵、京の町の人々が入って来た。忠顕の若侍たちは、どんどん奥の方に追いやられて行き、隅の方で小さくなった。
「どんな取り決めでござるか」と高氏は言う。時連は、章有に書き記したものを見せてもらい、それを皆に聞こえるように読み上げた。
「現在、八番勝負が終わり、千種殿が百十万六千貫、勝っておる。この九番勝負の賭け金は一千万貫である」
時連が言うと、場が「おおー」と、どよめいた。
「では、中原殿、発表をお願いいたします」
章有は、忠顕をチラッと見る。大勢の見守る中、章有は意を決して言った。
「玉、栂尾。千種殿、宇治。勝者は…」