最終戦
中原章有は九番勝負の勝者を発表した。
「玉、栂尾。千種殿、宇治。勝者は……、玉」
「うおおおおおお!」と割れんばかりの歓声が上がった。三条吉永や警固衆は、跳びはねて喜ぶ。
千種忠顕は、呻きながら震えていた。凶悪な目をして、章有を睨みつける。章有は目を逸らした。
章有は、丹波忠守の立てる茶は、忠顕に合図を送って答えを知らせていた。また、忠守が帰った後からは、千種は、出題される順番を知っていたが、わざと間違った答えを書き、それを章有に正解とさせるという、いかさまをしたのである。
しかし章有は、この衆目の集まる中で、それをする危険がどれだけ愚かであるか、十分理解していた。ここには、訴訟の達人、太田時連がいる。右大臣、今出川兼季は、雑訴決断所において、章有の直接の上司である。先の天皇が二人も観戦している。
もしここで、いかさまをしたら、自分の首が飛ぶ。章有はそう思った。章有は、一千万貫の証文を玉に渡すと、最終、十番勝負の準備に取りかかる。
「では、最後の賭け金は、一億貫です。証文をお書きください」と言うと、
玉は涼しい顔をして証文を書く。忠顕は、ぶるぶると震えて、筆を机に叩きつけた。
「ふ、ふざけるな! 一億貫など、都中の金を集めても足りないわ!」
「書かないんですかい」吉永は、にやにやして言った。
「試合は十番勝負…、途中で辞める事は認めない…、賭け金を支払えない場合は、領地、財産、身体を全て差し出す…、だったかのぉ」
太田時連は、空を見ながら、ぽーとした表情で言った。
「千種殿、勝てばいいのでござる。かーっ、かっかっかっ」と高氏。
「男らしく勝負でござる」と尊氏。
忠顕は、六波羅攻めの戦友たちの言葉を聞き、「ぐぬぬぬ……」と呻きながら証文を書いた。時連は、次の勝負は、丹波殿の持ち寄った茶を使うのが良かろう、と付け加えた。
そして十番、最終戦。玉は当然のように勝利する。観客の歓声の中、忠顕は大声を上げて喚き散らした。
「いかさまだ! いかさまに決まっている。認めん! わしは認めんぞ!」
忠顕は、今出川兼季や後伏見院の袖にしがみつく。
「あ、あの巫女は、いかさまをしているのです! どうか、調べてください。あの女を捕えてください」
兼季や後伏見院は、呆れたような、困った顔をした。吉永や警固衆だけでなく、庭で観覧していた人々は、忠顕を非難する。
「無礼者!」
「玉様が、いかさまする訳ないだろう!
「いかさましたのはお前だ!」
「いいから負けを認めろ!」
「今すぐ支払え!」
忠顕は、「何い」と簀の子へずかずかと出て行き、「おい、頼光! あの者たちを斬れ!」と、自分の護衛に言う。
護衛は、三条吉永が自分に匹敵するか、それ以上の男と認めた男である。吉永は、玉の前に身を置き、最大限の警戒をした。




