玉の負債
七番目の勝負。忠顕は「伊勢」、玉は「駿河」と答え、審判の章有は千種を勝者とした。
「はあーっ、はっはっはっ! これで、十万六千貫の勝ちだ。あー、たまらん、よし次だ、次行こう」
玉の後ろに控える吉永は、額から冷や汗を垂らす。警固衆は、オロオロとしていた。
八番目の勝負、忠顕は「伊賀」、玉は「武蔵」と答え、章有は、忠顕を勝者とする。忠顕は、狂ったように喜んだ。
「ひゃあーっ、はっはっはっ! これで、百十万六千貫、百十万六千貫だ。ひゃあーっ、はっはっはっ!」
さすがの吉永も顔を青くした。忠顕は、ねちっこく玉に声をかける。
「おっ、玉あ、玉ぁ、こんな大金払えるのかぁ、ええ、玉ぁ」
「千種様、負けた者は、必ず支払わねばなりませんか」と玉が聞くと、
「当たり前だ! 一銭でも払えなかったら許さん! 賀茂氏の領地を差し出せ! 神社を売れ! たくわえた奉納品を全て差し出せ! 玉の身体で支払え! 足りなかったら巫女を全員差し出せ!」
と忠顕は怒鳴った。そして「中原! 取り決めにちゃんと書いておけ!」と言うと、また「くーっ、くっくっっ、はーっはっはっはっ!」と、ご機嫌になって笑った。
「良いか」と章有は玉に聞いた。
「つまり、最終的に支払えない場合は、領地、財産、身体を全て差し出すという事ですね」
「そうだ」
「分かりました。ではそのようにお願いいたします」
玉は頭を下げた。章有は、少し申し訳ないような顔をして、その事を取り決めに書き加えた。
九番勝負が始まった。忠顕は「これに勝ったら一千万貫。これに勝ったら一千万貫。ヒヒヒ…」と血走った眼で舌なめずりした。忠顕と玉は、解答を記した短冊を章有に渡す。
「玉、栂尾。千種様、宇治。勝者…」
章有が勝者を決めようとした時である。
「かーっ、かっかっかっ。やっておるな。お、千種殿、玉殿」
ずかずかと、佐々木高氏が廊下を歩いて来た。忠顕は目を見開いて驚く。
「さ、佐々木殿! なんでお主がここに」
「失礼します」
そこへ足利尊氏も入って来た。その後ろには、忠顕の家人が、あたふたして付いて来ている。
「千種殿と玉の闘茶勝負を見物に来たのじゃ。かっかっかっ」
「なっ、な、何故……」忠顕は口をぱくぱくさせる。
「勝負は、誰もが観覧できる……ですね」と尊氏。
「佐々木様、足利様、お越しくださり、ありがとうございます」と玉は三つ指をついて礼をした。
「おお、玉殿、手紙を貰って飛んできたぞ。かっかっかっ」
「頑張ってください」尊氏は、真面目な顔をして、頭を下げた。
そこへ次々に人が入って来る。闘茶の会場はがやがやと賑やかになってきた。




