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植物達の願い

 エドの服を取りにいったタマが戻ってきて、やっとルナは毛布から解放された。

 午後からこの城に住む移住者の世話を千夏が彼に頼むと、ルナは早速城の2階にある厨房の修理を始める。最上階のスペースは魔女のプライベートルームだったようで、彼の仕事場は一階から4階までと決まっていたそうだ。


 魔法陣に興味を持ったキューイと茜を置いて千夏は、プチラビット達がくるくる回り掃除している様子を見ながら下に降りていく。何か魔法を使っているのかプチラビット達が通った後は埃が一瞬で消え、綺麗になっていく。朽ちた窓枠も一瞬で元通りになっている。


 すれ違うたびにプチラビット達はタマに興味を持ったように近づいてくる。

「―――竜?」

 プチラビットは可愛らしく小首を傾げて、タマを見上げる紅いくりくりとした目で見つめる。


「タマでしゅ」

 タマは挨拶すると幻獣に興味を持ったのか、ぷっくりとしたプチラビットの頬をぷにぷにと撫でる。

 タマは自分より小さいものを見る機会にあまり恵まれていない。シャロンに小さい子には優しくしてあげるんだよと言われていたので、タマがされて嬉しい撫で撫でをしてみたのだ。


「きゃうぅん」

 プチラビットは嬉しそうに身をくねらせ、すりすりとタマに近寄ってくる。その可愛らしい仕草にタマは嬉しそうに更にプチラビットを撫でる。その度にプチラビットが嬉しそうに跳ね回る。

 小さい幼児のふれあいに千夏はほっこりする。


 実際はプチラビットのほうが何百年も生きているので年上なのだが、そんな細かいことはプチラビット達は気にならないらしい。うさぎの特性を持つプチラビット達は可愛がってくれる人に好感を抱く。


「私は先に降りているね」

 しばらくタマとプチラビット達のふれあいを観察していた千夏が声をかける。

「タマも行くでしゅ。またでしゅ」

 タマはプチラビットに手を振ってから千夏の後に続く。プチラビットは名残惜しそうにタマを見送ると、思い出したかのように掃除を再開する。


 すでに地竜達によりエントラスホールの修理が終わっていた。あとは移住者用の家具の搬入をすれば十分人が住めそうだ。

 エントランスホールにいたニルソンと村長に千夏は声をかける。

「掃除はしなくても大丈夫。幻獣たちがしてくれているから」

「幻獣だか?」

 村長は聞いたことがない単語に首を傾げる。


「ん……まぁ魔物みたいなものね。うさぎが掃除しているから、見かけたら頭を撫でてあげると喜ぶわ」

 説明が面倒になった千夏は簡単に村長に説明する。

「働きもんのうさぎだべか。さすが領主どんだべ」

 すでに竜が居ついているこの村では、多少他の魔物がいても全く気にならなくなっている。というよりも、不思議な魔物を村人達は喜ぶだろう。


 掃除をしなくて済んだ千夏はとりあえず屋敷へと戻った。午後には新入居者がくる。それまではのんびり過ごすことにした。





 最初の異変に気が付いたのは太郎だ。

 太郎はいつものように畑で植物たちと会話しながらのんびりと畑に生えた雑草を引き抜いていた。

『怖い、怖いよ』

 植物たちが一斉にざわめき始める。そのざわめきは波のように広がり畑一面に広がっていく。

 大量の植物たちの声に頭がくらくらする。太郎は一度全ての植物の声をカットして、目の前の玉ねぎの苗だけの声を聞こえるようにする。


「何があった?」

 怖がる植物に太郎は根気よく話しかける。最初は怖いしか語らなかったが、何度も話しかけた甲斐もありまともに返事を返してくれるようになった。

『奴らが集まりはじめた』

 震える声で玉ねぎの苗が答える。


「奴らって?」

『小さい虫。でもすぐにたくさんの虫が集まる。奴らは根こそぎ僕らを食べる。怖い、怖い』

(虫?沢山?根こそぎ?)

 太郎は植物から聞いた話を頭の中でまとめる。頭の中で何かが引っかかる。


「その虫はどこにいるの?」

 太郎はしゃがみ込んで、苗に向かって尋ねる。

『ここからかなり離れた南西のほう。タロウ怖い。早くやっつけて。沢山集まる前に』

 かなり遠い場所が発信源のようだ。恐らくその位置から植物たちが危険を知らせ合っているのだろう。

 普段は人や虫に食べられることを自然の摂理だと、気にしていないはずの植物たちが怯えている。太郎は立ち上がると急いで領主の館へと走り出した。


「どうしたの?」

 息せききらしながら食堂に姿を現した太郎に千夏は驚く。太郎はどちらかというとのんびり屋さんで、魔女の城での戦闘の際にも落ち着いていた。

 リサが水差しから水をコップに淹れ、太郎に渡す。太郎はお礼を言ってから、水を一気に飲み干すと千夏の前の椅子に座り込む。


「植物たちが異様に怯えているんだ。ここから南西にかなり離れた場所で小さな虫が集まり始めたって。沢山集まって植物を根こそぎ食べるので怖いと」

 太郎がそう告げると千夏は目を細めてじっと考え込む。

「それってもしかして蝗害?」

「やっぱりそう思う?」

 千夏に問われて太郎も自分でも辿り着いていた答えにぞっとする。


 今は実りの秋だ。これから収穫される食物が大量にある。被害は農作物だけではない。もし蝗害だとしたら森も全て綺麗に消えてしまう。


「蝗害って何だ?」

 千夏と一緒にお茶を楽しんでいたレオンが知らない言葉に反応する。那留もよく判らないようで、千夏と太郎の回答をじっと待っている。

「もしかして地獄の行進(デスパレード)のこと?」

 リルは両手で掴んでいたマグカップを置き、千夏達に尋ねる。その手は少し震えていた。


「こちらではそう言うのかしらね。突如何百億万以上のバッタが発生して、根こそぎ植物を食べ荒らしていくことを蝗害というの」

「ああ、パニック映画かなにかで見たことがある」

 千夏の回答に那留は納得し、腕を組んで顔をしかめる。映画では何百キロにも及ぶバッタの大群が現れ、人々がなすすべもなく逃げまどうものだった。


「デスパレードが起きたら、食べるものがなくなって飢饉が起きるって学校で習ったことがある。確か前に起きたのはだいたい40年前くらいで発生場所は南国諸島。沢山の餓死者が出たそうだよ」

 リルの声は沈んでいる。収穫前の中央大陸でデスパレードが発生したらどれだけの被害が出るのか想像もつかない。


「大丈夫だよ。まだあまり集まっていないって植物が言っていたから、早めに対応すればなんとかなるんじゃないかな」

 沈んだリルに太郎は励ますように言葉をかける。

「そうだね。太郎が植物と話が出来てよかった。悪いのだけど、太郎と一緒にバッタ退治してきてもらっていいかな?」

 千夏はレオンと那留に視線を向ける。本当は自分も行きたいところだが、午後から新規移住者が来るのだ。


「いいぜ。俺たちのメシを食い荒らされちゃ困るしな」

 那留はすぐに立ち上がる。

 植物が根こそぎバッタに食べられると食物連鎖が崩壊する。草食動物も死に、それを食べる肉食動物も餓死していく。

 レオンも無言で立ち上がり那留と太郎と一緒に屋敷を飛び出して行く。


「ガーシャ様どこか出かけるのですか?」

 那留が竜に戻り、背中に太郎を乗せているのを見かけた水竜が尋ねる。

「バッタ退治だ。お前も暇なら来い」

「いいですよ」

 既に空中で待機しているレオンに続き水竜もそのまま空へと駆け上がる。


 那留は太陽の位置を確認し、進路を南西へと向ける。しばらく進んでは方向が間違っていないかを確認するため、地面に降りて太郎が植物に話しかける。

『風が吹いてくるほうにいるよ、早く倒して』

 植物たちはざわざわと不安を口にする。


 更にしばらく進むと前方に1キロほどの黒い塊が見えて来る。思ったよりも数が多い。

 バッタ達は飛び跳ねながら、生えている草に群がりあっという間に食べつくし、次の草へと向かっていく。みるみる緑の草原がバッタ達の黒い影に覆われると、草が一本も生えていない荒野へと様変わりしていく。


「あの群れが大きくなる前に叩く!」

 レオンはバッタの群れに向かってドラゴンブレスを吐き出す。飛び跳ねていたバッタが次々と凍死してそのまま下に落ちていく。水竜もレオンに続いて氷のドラゴンブレスを吐き出す。


 那留は落下したバッタに向けてドラゴンブレスを吐き出す。那留が吐き出す闇のドラゴンブレスで、バッタそのものの姿が崩れ落ちていく。凍死しているとは思うが、念のために跡形もなく破壊することにしたのだ。

 3匹の竜に急襲されたバッタの群れはあっという間に崩壊する。


 太郎は那留に下に降りてくれるように頼み込む。バッタの群れに飲み込まれる寸前だった草に向かって太郎は話しかける。

「もう他に虫の大群がいるところはないよね?」

『今はもういないよ』

『タロウたちのおかげ。ありがとう』

『ありがとう』

 雑草達がさわさわと風に揺らされながら、太郎に向かって一斉にお礼を言う。


『タロウ、みんなからのお礼。受け取って』

 太郎の一番近くに生えていた草がゆらりと動いて、小さな紅い色をした種を一つ生み出す。太郎はそれを手に取ると「ありがとう」と言って種を受け取る。

 一体何の種なのか判らないが、判らないものを育てるのも楽しみのひとつだ。


『ほう、その種をもらったのか』

 ゆらりと突然太郎の目の前に4対の羽を持つ小さな妖精が現れる。茶色の艶々した髪を長く伸ばし、慈愛に満ちた茶色の瞳で太郎を覗き込む。

 以前魔女の城で出会った風の妖精王と同様の厳粛な雰囲気が似ている。風の妖精王は少女の姿をしていたが、目の前にいる妖精は少年の姿だった。


『我の姿が見えるのか。ふむ。風の妖精王の残り香ある。なるほど』

 少年の姿の妖精は納得したように頷くとくるりと太郎の顔の前まで近寄る。竜達も突然現れた土の妖精に興味を持ったのかこちらに寄ってくる。


『我が名はガイア。その種を無駄にしないように、お前に土の祝福を授けよう』

 妖精は太郎の額に軽く口づけをすると、すっと消えていった。

 太郎は茫然とただ立ち尽くした。


評価とご感想ありがとうございます。


あまり話が進まずすみません。

今回は太郎のメインの話になりました。

4大精霊のうちあと出てきてないのは火ですね。


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