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だらだら行こう(仮)  作者: りょうくん
ハマール編
141/247

夜襲 (3)

「あれが、魔族か!」

 遅れて西の砦に転移してきたトールは、砦前に悠然と佇む人狼の巨大な姿に唖然となる。初めて魔族を見た他の兵たちも、ただその姿に圧倒される。


「魔族は魔物に変化する。人型よりも何倍もの強さになるんだ。いいか、よく見ておけ。最悪お前たちにも戦闘に入ってもらう」

 マイヤーが兵たちにそう叫んだ瞬間、人狼の前に2匹の竜が出現する。


 一匹の竜は人狼とほぼ同じサイズで、全体を覆っている水色の鱗と一部おなかから首にかけてはこげ茶色の鱗が輝いている。額に生えている角は少し短く橙色だ。

 もう一匹は幼竜らしく、全長はおよそ5メートル。緑色の鱗に額には紅く輝くルビーのような角が生えている。


 頼みにしていた竜騎士団はどこかへ飛ばされ、突如現れた竜達に砦の中は絶望に押しつぶされる。魔族だけでも対抗できるかわからないのに、さらに竜が現れたのだ。

 もうこの砦は終わりなのかもしれない。砦を守る警備隊長は愕然と握っていた剣を取り落す。


 先手必勝とばかりに、タマは空高く舞い上がると、人狼に向かって虹色のドラゴンブレスを吐き出す。

 人狼はさっと巨大な体で横に跳びブレスを避ける。タマの放ったブレスを受けた平原は一瞬にして草が消滅し、地面は爆発したかのように盛り上がり、四方に土が盛大に飛び散る。


 人狼が避けた着地点に向けてすかさずレオンが氷のブレスを吐く。

 2匹の絶え間ない攻撃により少しずつだが、人狼が砦から離れていく。


 敵だとばかり思っていた竜達はどうやら人狼の敵らしい。最終的に勝者のどちらかがこの砦を攻めてくる可能性があるが、互いにつぶし合ってくれればもうけものだ。

 少しの活路が見えた警備隊長は、息をゆっくりと吐きだす。


「あの竜は味方よ。今の内に砦の防御壁の再構築をしなさい」

 突然現れた貴族らしき女が警備隊長に向かってそう命令する。

「お前は誰だ?」

 訝しげに警備隊長はセラを尋問する。


「そんなこといってる場合じゃないでしょ。いまの防御壁のままだと、もう一回衝撃波を受けたら砦が撃沈するのはわかっているの?あなたは砦を守る責任がある。違うの?」

 セラに正論を吐かれ、警備隊長はとりあえずセラのことは後回しとし、魔法部隊へと視線を移す。


「砦を守る魔石に新に魔力をチャージしろ。備蓄している魔力回復剤の使用を許可する。魔石へのチャージと並行に物理結界と魔法結界を展開しろ。副長、王都へ魔術師の増援を依頼しろ。薬の補充も忘れるな!」

「「はっ!」」

 副長と魔術師部隊長が同時に返事をし、命令通りに動き始める。


「エッセルバッハに現れた下級魔族はタマのブレスで殆ど無効化できたけど、あの魔族は2匹の竜の攻撃さえ回避する。やはり、これは上級魔族と見た方がいいわね」

 セラは親指の爪を噛みながら、膠着状態の戦場を見下ろす。



 人狼は突如現れた竜達の連続攻撃でどんどんと砦から離れていく。

「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

 人狼はタマに向かって衝撃波を放つ。衝撃波が直撃し、ぐらりと空中でタマがバランスを崩す。

 その隙にレオンの氷のブレスをよけつつ、人狼はレオンに向かって突撃する。


 巨体同士がぶつかり合い、バシンと大きな音が鳴り響く。体当たりの衝撃でレオンがずずずと数メートル後ろに押し戻される。人狼はすかさず、両腕をレオンに向かって素早く何度も振り下ろす。


 ザシュッ!

 レオンの固い鱗が鋭い爪で切り刻まれていく。


 すぐにレオンは猛威をふるう人狼の腕を氷漬けにし、翼を広げ上空へと一旦退避する。そのままレオンは上空で傷つけられた体を水魔法で癒していく。


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 人狼は氷漬けとなった両腕を、何度も地面に激しく叩きつける。すさまじい衝撃で、人狼の近くの地面が揺れる。


 何度目か地面に叩きつけた衝撃で、骨まで凍った両腕は氷とともに砕け散るが、すぐに損傷した部分から新しい腕が生えてくる。

 魔力が枯渇しない限り、何度でも魔族は再生するのだ。


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その隙に接近した、アルフォンスとセレナが人狼に向かって斬撃波を放つ。


 狙いは右足の膝だ。二人が同じ場所に向かって放った斬撃波によって、人狼の膝下の筋肉が切断され、むき出しにされた骨が肉の間から顔を出す。

 バランスを崩した人狼は左膝を地面につけ、自分を襲った2人に向かって牙をむきながら低く唸る。


「グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 人狼はアルフォンス達に向かって腕を振るう。腕の先から巨大な火球が生み出され、空から落ちてきた隕石のように、次々とアルフォンス達を襲う。


 二人は迫りくる炎を冷静に見上げ、リフレクションブレイクを発動する。

 まさか自らが放った魔法が反射されるとは思っていなかった人狼は次々と火球に被弾する。


「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 人狼の右腕と腹部に火球があたり、火勢に血肉が蒸発し、肉が焦げる強烈なにおいがその場に立ち込める。


「すごい」

 砦上層からアルフォンスとセレナを見守っていたトールが感嘆の声を上げる。彼らに伝授された技を極めればあのような巨大な魔法でさえ跳ね返すことができるのだ。


 すぐに体組織の回復を始める人狼に向かって、衝撃から立ち直ったタマがドラゴンブレスを上空から放つ。

 好機だとばかりにレオンも氷のブレスを人狼に向かって吐き出す。

 アルフォンスとセレナもすぐに攻撃態勢をとり、斬撃波を何度も放っていく。


 この好機に、エドは魔封じの盾を使って魔族の力を封じ込める。魔封じの盾は短時間しか発動できないのだ。いざというときに切り札として使用する。


 人狼は発動しない魔法に苛立ちながら、集中砲火されている場所から転がって抜け出す。3方向からの猛追撃でひどいダメージを受けたが、脅威の回復力ですっかり人狼の体は元通りになっている。


「どれだけ、あの魔族はまだ魔力を持っているのかしら」

 上級魔族は百年ほど生きた成竜と同等の力を持つといわれている。魔族の魔力をダメージで削りとってはいるが、底がしれない。

 カトレアのように魔力を計れるスキル持ちがいれば、残量がわかるのだが……。


 最悪タマ達のほうが先に力尽きるかもしれない。いいしれない不安がセラの胸にこみ上げてくる。


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 竜達に向かって人狼は衝撃波を放つ。衝撃波はユニークスキルなので、魔封じの盾で封じることができなかった。


 タマとレオンは上空でひらりと衝撃波を躱す。その隙に、人狼は四つん這いになり再び砦に向かって疾走を始める。

 どうやら当初の目的を果たそうと動き出したようだ。


 それまで魔族の風魔法を封じこめることに集中していた千夏は、接近してくる人狼に向かって身構える。千夏はアルフォンス達を転移で砦前に移動させた後、砦の近くにずっと待機していたのだ。


 タマとレオンがすぐに人狼に追いつき、レオンが人狼の進路にブレスを放つ。タマはそのまま急降下し、人狼の背中を鉤爪で鋭くえぐる。

 どうやら竜達を倒さない限り砦に進むことができないと理解した人狼は、竜達に向き直って咆哮を上げる。


 千夏は先ほどアンジーから教わった風の特級魔法を発動させるために、魔力を指先に溜めこんでいく。


「静と動、万物の理を切り刻め!妖精王アンジーの名において千夏が命じる。吹き荒せ『破滅の風(カタストロフィ)』!」

 千夏は貯めこんでいた魔力を人狼に向かって高々と右手を振り下ろす。


 アンジーがひらりと舞い上がり、祈るように空に向けて手を伸ばす。アンジーの手の中に何十万、何億と圧縮させた空気と風の断層が作り上げられる。それが鋭い刃となり、人狼の頭上から振り下ろされる。


 風の断層は一瞬にして人狼を押しつぶし、威力が衰えないまま、大地に直撃する。極地的大地震が発生し、慌ててタマとレオンはアルフォンスとセレナを抱え込み空へと退避する。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 大地に深い亀裂が走り、何重にも物理結界がかけられた砦が大きく揺さぶられる。

 亀裂は砦と並行に走り、それは数キロにわたってやっと止まる。亀裂の深さはおよそ2キロほど。覗き込んでも穴の先まで見通すことができない。


 千夏も緊急退避としてアンジーの風の魔法で空に浮かんでいた。目の前に広がる大地の崩壊を千夏は見下ろし、魔法の威力に少し腰が引ける。

 先程まで感じていた巨大な魔族の気はいっさい感知できない。どうやら倒すことができたようだ。


『チナツ!やり過ぎよ!』

 すぐに遠話でセラからクレームが入る。


 幸い砦は大きく揺れはしたが、なんとか無事であったからよかったものの、魔法をあてる角度が少しでも違っていたら、間違いなく砦は崩壊していたに違いない。

 次に使うときは角度をきにするべきかなと千夏は反省する。


「いやー、しかしびっくりしたね」

 素直に千夏は自らが放った魔法の感想を述べる。

 火炎地獄(インフェルノ)よりは攻撃範囲が狭く、極地的にダメージを与えられるがそのあとの余波が大きいようだ。特級魔法は一撃必殺ではあるが、周りの影響が大きい。


『次から特級魔法を使う場合は一度連絡を入れるように』

 憮然としながら、セレナを抱え空を飛ぶレオンからも苦情が入る。

「ごめんごめん」

 千夏は頭を掻いて隣に浮いているレオンに向かって謝る。


『念のための確認だけど、その魔法ってどのくらい撃てるものなの?』

 セラが千夏へ質問する。

 今回はひとりの魔族だけだったが、次に来襲するときはどのくらいの人数になるのかわかったものではない。戦力の把握をきちんとしておきたかった。


「火と違って、アンジーが半分魔力を持ってくれているようだから、まだまだいけそう。自分の残魔力がよくわからないから何とも言えないけど」

 頼もしい千夏の言葉に、セラは安堵する。最悪は千夏一人で前線に出して暴れさせたほうが効率がいいのかもしれない。

 最近はずっと千夏をゴロゴロさせていたので、魔力は十分に貯めこまれていることだろう。


 砦の上層に降り立った千夏達をハマール兵たちが遠巻きに見ている。タマとレオンが人の姿を変化するたびにどよめき声が上がる。

 いい加減に周りの反応に慣れてきた千夏は綺麗にそれをスルーする。


 タマとレオンが少し怪我をしていたのでリルが治癒魔法をかける。すぐに二人の傷は綺麗に治る。

「みんな無事でよかった」

 リルは戻ってきた仲間達の顔をみてほっとする。


「アンジー、来てくれてありがとう」

 千夏は空に浮かんでいる美少女に向かってぺこりと頭を下げる。


『どういたしまして。じゃあ、またね』

 アンジーは手を振ると、すっと姿を消す。千夏は翡翠の指輪をなくさないように、アイテムボックスに収容する。


「やっぱりちーちゃんはすごいでしゅね」

 タマがキラキラと目を輝かせて、千夏を見上げる。

「タマもよく頑張ったね」

 千夏はタマの頭を撫でる。


「なんか腹がへってきた」

 アルフォンスがおなかを押さえる。セレナもぐぅとおなかを鳴らせ、恥ずかしそうに笑う。

「じゃあ帰ろう。美味しいご飯とコムギが待ってる」

 千夏は何事もなかったかのようににっこりと微笑んだ。


評価ありがとうございます。


戦闘シーンがある回はどうしてもなかなかうまく書き進められず、時間だけがかかります。

アンジーと千夏の組み合わせは最強です。

やっぱり必殺技は最後でないと・・・

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