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妖精たちとの宴会??

妖精はいたずら好きで気まぐれ屋である。

そんな彼らが酒に酔ったら・・・それはもうタチが悪い。


『おいらの酒が飲めないっていうのか?』

と無理やり酒を飲ますくらいなら普通の酔っ払い。

ただ絡まれているのはタマであったので、「おいしいでしゅー」とご機嫌に注がれる酒を飲み続ける。


一番災難だったのはアルフォンス。

千夏にサイレンスの魔法をかけられたので文句をいおうにも言葉にならない。

というかサイレンスがかけられていなくても言えなかっただろう。

数人の酔っぱらった妖精に次々と口の中に果物を押し込まれている。

しまいには妖精たちはアルフォンスの頭や服にまで果物を押し付け始める。

自らも妖精に絡まれ少し気づくのが遅くなったエドがアルフォンスを掴んで妖精から引き離す。


酒で眠り込んでしまった同胞にも顔にいたずら書きをしたり、高い木のてっぺんまで運んで吊るしたり。

『きゃははははは!』

異様な笑い声に宴会場は包まれていた。


千夏の周りにも妖精が群がる。

遊んで、遊んで攻撃に千夏は少しうんざりしていた。

「じゃあ、かくれんぼしましょう。私が鬼ね。50数えたら探しにいくよ。いいね。いーち、にー」

千夏がそう言った瞬間周りにいた妖精たちは笑いながら散り散りになって森に駆けていく。

「はーち、きゅーう」

そこまで数えると千夏はふぅと息をつき、目の前の果物を食べ始める。

そう、千夏は真面目にかくれんぼする気はなかった。


保育園の保母さんはなんでああ根気強く付き合えるんだろう。すごいなぁ。

私には無理無理。

タマが手がかからない子で本当によかった。


ぼんやりとそう考えていた千夏を呼ぶ声が聞こえてくる。

「チナツー!助けて!」

ふと横を見ると涙目のセレナの尻尾を引っ張っている妖精達が見える。

アンジーのかけた「コンタクト」の魔法で妖精たちと触れ合うことができるのは、果たしてよかったことなのだろうか。逆にこっちの被害がひどくなっているだけな気がする。


助けろと言われてもさてどうしたものか。

とりあえず、セレナの尻尾にくっついている2人の妖精の首根っこを掴み引っ張り上げる。

『こらー放せー!』

ジタバタと妖精たちは暴れる。


「とりあえず、セレナ。これ遠くに放って」

千夏はずいっと二人をセレナに向かって突き出す。

「でも、小さい子供なの」

「小さく見えてもかなり年食ってるから。お仕置きしないと」

千夏はあまり力がない。ジタバタと暴れ続ける妖精たちがその腕から逃げることに成功する。


「あー逃げた」

だーっと走り出した妖精たちはさっとアンジーの後ろに逃げ込む。

こちらにむかってあかんべーと瞼を下に下げ舌を見せる。

完全になめられている。


まぁ正直近寄ってこなければ別に腹も立たない。

問題は子供同士の喧嘩だ。

コムギの尻尾を引っ張った妖精にコムギが噛みついた。

さすがに本気で噛んではいないようだが、そこから喧嘩に発展する。

コムギ対3人の妖精がにらみ合う。


『はいはい、そこまで』

さすがに険悪な雰囲気にアンジーが仲裁に入る。

『でもよ、アンジーこいつ噛んだや』

『そうや、堪忍できへん』

口々に妖精たちが不満を言い募る。


毛を逆立てているコムギを慌てて近くにいたリルが抱きかかえる。

「わかってる。コムギは悪くないのはわかってるから」

リルはよしよしとコムギを撫でる。


『それではいつものをやりましょう。それでいいでしょ。負けたら文句はなしよ』

アンジーは溜息をついて、不満を言い募る妖精たちに言い聞かせる。

『わかった』

『それでいいぞ』

次々と妖精たちはそれで納得する。


「いつものってなに?」

よくわからない間に話が進んでいることに、千夏は不安げにアンジーに尋ねる。

『3本勝負で決めるのよ。お題を出してね。勝負に負けた方がごめんなさいって謝るルールなのよ』

アンジーは朗らかに笑いながらそう答える。

よくわからないが成り行きで妖精たちVS千夏達一行の戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。


というか雨降らせてくれてありがとうとかどこにいったんだよ。

千夏はぶつぶつと不満気につぶやく。


「勝負はやるからには勝つ!」

サイレンスの魔法が解けたアルフォンスが気合を入れて叫ぶ。

まぁかなりひどい目にあわされていたようなので、鬱憤が溜まっているのだろう。


(おいらはどっちに参加すりゃいいんだ?)

シルフィンが少しだけ困ったようにアンジーに尋ねる。

シルフィンは妖精だが千夏達の仲間でもある。

『シルフィンは私と一緒に審判をしましょう。そのほうが公平だわ』

アンジーはよいしょといいながら、木の棒が何本か入っている筒を取り出す。

妖精たちはしょっちゅういたずらが過ぎて諍いを起こすので、この3本勝負はよくあることだった。


お題が書かれた木の棒を混ぜてから、アンジーは一本の棒を引く。

『じゃあ、最初のお題は食いしん坊対決ね』


『ニーチェ、頑張れ!』

『任せとけ!』

妖精たちで一番食いしん坊のニーチェが自信満々で一歩進みでる。


「チナツ、必ず勝ってこーい!」

アルフォンスが、千夏をびしっと指さす。

いささか反則な気もするが、コムギに謝らせるわけにはいかない。


千夏とニーチェの隣にわんこソバの要領でおかわり要員がずらりと並ぶ。

食べるのは宴会で出ていた果物と木の実だった。

『多く食べたほうが勝ちよ。では開始!』

アンジーがそう宣言したとたん、ニーチェは凄まじい勢いで果物を食べ始める。

対する千夏は早食い勝負ではないので、のんびりと食べ始める。

食べるなら味わって食べたいのだ。


『ニーチェなら30はいける!』

『人間なんかに負けんな!』

「チナツ!ガツガツ行け!ガツガツとぉ!」

周りの声援が激しくなる。


最初は好スタートをきったニーチェだったが、おかわりの20回目あたりから段々と食べる速度が遅くなる。千夏は黙々と食べ続け、ついにニーチェのおかわり回数を追い越す。

結局ニーチェが27回目でギブアップし、千夏の勝利に終わった。

まぁ、勝って当たり前である。


「よくやった!チナツ!」

アルフォンスの声援を少しうるさげに千夏は手を振る。

リルの腕の中で少し大人しくなたコムギの顔を覗き込んだ。

「コムギ、大丈夫。勝つからね」

頭を撫でるとコムギが顔を上げて「クゥー」と鳴く


『一回戦はチナツの勝ちね。じゃあ次は・・・かけっこ競争よ』

次の棒を引いてアンジーが読み上げる。

(こりゃ、あかんわ。)

シルフィンは、お題目を聞いて大げさに肩を落とす。


『あそこの大きな木をぐるっと回って、こっちまで戻ってくるの。早く帰ってきたほうが勝ちよ』

アンジーが泉の広場からおよそ30メートルほど先にある、少し大きな木を指さす。


『『ノール、負けんなよ!』』

大声援を受け、ノールがアンジーの前に出てくる。

(よぉ、ノール。今はお前が一番早いんかい。)

シルフィンが驚いたようにノールを見る。

『そうや。シルフィンがおらんなったあと、フィーと毎回競争してるんや。少しだけおいらのが勝ってるんやぞ』

(まぁあんじょうきばってきや。そのうち落ち着いたらおいらと競争しようや。)

『ええで、いつでもかかってこいや』


「俺が行く!」

アルフォンスが立ち上がる。

走るとなるとアルフォンスかセレナになるので特に誰にも異論はない。


「アル、頑張るでしゅよ」

「クー」

タマとコムギの声援を受けて気合満々なアルフォンスはアンジーの前に進み出る。


『では、かけっこ勝負、開始!』

アンジーの掛け声でノールとアルフォンスは一斉に走り出す。

凄まじい速度でぐんぐんと二人は走り出す。


「何をやっているんだ?」

「レオン兄。おかえりでしゅ」

全身ドロドロのずぶ濡れの姿で、レオンが千夏達の元へ寄ってくる。

「またすごい格好で。風邪ひくから、さっさとお風呂入ったほうがいいよ」

千夏はレオンに水を飛ばす魔法とリフレッシュをかける。


「あっ!」

セレナの短い叫び声を聞き、千夏はかけっこ競争のほうに視線を戻す。

レースの中盤あたりからノールが凄まじい勢いで、アルフォンスを引き離して行く。

(今まで様子を見てたんやろ。妖精はめちゃくちゃ体が軽く足が速い。特に風の妖精は風にのって走るからさらに早いんや。)

シルフィンが言うようにノールは風をうまくつかんでさらに加速していく。

アルフォンスも精一杯走っているが到底追いつくことができない。


『『『やったぁぁぁぁ』』』

妖精の大歓声の中、余裕でノールはゴールインする。

『どうや、妖精の速さについてこれんやろ!』

ドヤ顔の妖精たちがえっへんと胸を反らせ、千夏達を一瞥する。


「すまん」

しばらくしてからゼイゼイと息を切らしながら、アルフォンスが戻ってくる。

「お疲れ様。あんなのに勝てるわけないから。気にしない、気にしない」

エドから水を受け取ったアルフォンスに千夏はそういって慰める。アルフォンスの落ち込み具合がひどかったからだ。


『かけっこ競争はノールの勝ちね。じゃあ、最後の競技は・・・プクプクの実割り競争ね。みんなプクプクの実を獲ってきて』

『『『『はーい』』』』

アンジーに言われて妖精たちは森へ散っていく。


「プクプクの実?なんなの?」

セレナが残っているシルフィンに尋ねる。

(プクプクの実はだいたいおいらの頭くらいの大きさの実や。外から衝撃を与えるとパーンって割れるんや。実からでてる蔓をつかって、頭の上に固定してつける。3人代表だして割った方が多いほうが勝ちやな。)


「先ほどの競争をみる限り、妖精はかなりすばしっこい。しかも彼らには羽がある。かなり不利だね」

リルは難しそうな顔して黙り込んだ。

エドはアンジーに競技についていくつか質問をした後、くるりと振り返る。


「種族の特性をいかして戦うなら、こちらにも考えがあります。最後の競技は私とタマそれとレオンで出ましょう」

キラリと光る眼鏡をエドはくいっと持ち上げる。

「妖精に対抗して空を飛ぶ作戦なの?」

「まぁ、見ていてください。子供にはお仕置きが必要です」

自信たっぷりにエドは言った。


妖精たちがプクプクの実を6個集めてくると、早速代表者の頭にプクプクの実を取り付ける。

タマとレオンはすでに竜に戻っているので、頭を低くしてもらい、よじ登ってアルフォンスとセレナが設置する。


『そっちも空飛ぶつもりやな。せやけど、妖精のはしっこさを判ってないようなやな』

ふふんとフィーは余裕の笑みを浮かべる。

「まぁ始まったらわかりますよ」

対するエドは淡々と答える。


『それでは、最後の競争ね。プクプクの実割り競争開始!』

アンジーがそう声をかけると、素早くエドはレオンの背に飛び乗る。

妖精が一斉に羽を広げ、竜達の頭に乗っているプクプクの実を狙って飛び出す。

タマとレオンは翼をバサバサと大きく動かし、空へと舞い上がる。


今回は空中戦だ。ぐっと空を皆一斉に眺める。

あ、これ競技が長いと首が疲れるかも。

千夏はまぶしい太陽に目を細める。


タマとレオンは太陽を背に妖精たちを待ち受ける。

空を飛んでいる妖精たちも太陽のまぶしさに目を細めながら、竜に向かって突っ込んでいく。

風は竜の方向から吹いてくる向かい風だった。

風に乗れずバタバタと必死に妖精たちは羽を羽ばたかせる。


エドの最初の狙いがこれであった。

続いてエドはアイテムボックスから大きな袋を取り出し、妖精たちに向かって袋の中身をぶちまける。

『なんやこれ!へっくしん』

顔や体の隙間に小さな粒が入っていく。特に鼻に入ると鼻がむずむずして、くしゃみが止まらない。

顔もむず痒くて妖精たちは突進をやめ、くしゃみをしながら顔をかき始める。

エドがばらまいたのはいくつかの香辛料をブレンドしたものだった。


パーン。

一人の妖精の頭にのったプクプクの実が破裂する。

立ち止った妖精のプクプクの実へ、エドが石を投げて割ったのだ。

妖精たちは高度をあげて逃れようとするが、竜達もまた高度を上げて追いすがる。


タマが素早く飛び出し、のろのろと動く妖精のプクプクの実を、鉤爪をひっかけ割る。

エドは更に追加で香辛料を妖精たちの頭に向かってぶちまける。


「子供相手にえげつない・・・」

千夏は唖然と上空の戦いを見てつぶやいた。


『いやぁぁぁ』

フィーが悲鳴を上げる。

「悪い子にはお仕置きが必要です」

エドはフィーの頭上のプクプクの実を石で弾き飛ばした。

さりげにアルフォンスへの妖精の仕打ちにエドは腹を立てていたのだ。


こうして妖精との3本勝負の決着はついた。

最後の競争で妖精たちから不満の声が上がったが、アンジーはそれを一蹴する。

『みんなが羽や風という妖精の武器を使ってたでしょ。人の武器は知恵を使うことなのよ。誰も怪我してないし問題はないわ』


結果、ふてくされた顔で妖精たちは千夏たちに向かって『『『ごめんなさい』』』と謝る。

勝ったはもののなんとも言えない後味の悪さに千夏は苦笑した。



エドが絡むと、さわやかさが全くなくなるという・・・

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