表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/247

妖精の贈り物

豪雨に晒されてビショビショになって戻ってきた千夏達は、妖精たちに案内され小さな小屋にたどり着いた。

そこはかつて狩人が使っていた小屋だそうだ。


『あたしたちは家なんて持ってないんや。あんたたちが休めるのはここくらいしかあらへん』

シルフィンの幼馴染だと名乗った幼女フィーが、申し訳なさそうに薄汚れた小屋の戸をすり抜ける。


普段妖精はそのまま露天でごろ寝するのが当たり前からだ。

扉をくぐると、煮炊きができる小さな土間と薬草やらなにかが詰め込まれた部屋、そして小さな寝室があった。


「全員は寝泊まりできませんね。天幕をこの近くにはりましょう」

エドは小屋の中を一瞥し、外に出ると先ほど撤収してきた泥だらけの天幕をアイテムボックスから取り出す。


千夏は天幕にリフレッシュの魔法をかけ、きれいにした後に、小屋の土間に風呂を取り出した。

「こっちの小屋はお風呂場にするね」

すでに全員の水気を取り除いていたが、なんとなく気持ち悪いので千夏はお風呂に入りたかった。


いつものようにお風呂を沸かすとタマとコムギが飛び込んでくる。

2人でちょうどいい大きさのお風呂ではいささか狭い。


「ちーちゃん、外すごい雨でしゅけど、レオン兄は大丈夫なんでしゅか?」

わしゃわしゃとタマの頭を石鹸で洗っていたらタマが心配そうに言い出す。


「雨の中ではしゃいでたから大丈夫じゃないかな」

外は竜でもまともに飛ぶことができない状態だったのだが、レオンは翼を広げて嬉々として飛び立っていった。

雷にあたってなければいいんだけど。


「話しは変わるけど、妖精の谷ってもっと違う世界なのかと思ってた」

例えば一面の花畑で妖精が笑いながら戯れているとか……。

貧相な千夏の想像とは異なりここは、どこにでもある森の中だった。


(今は人の世界から切り離されてるけど、普通の森や。特別っていえば、世界樹がある聖域くらいか。)

小屋に立てかけた妖精剣からぬっとシルフィンが出てくる。

剣からあまり離れられないが、アンジーの力で普段の姿を取ることができるようになっていた。


「世界樹かぁ。これの大本だよね?」

千夏は首からぶら下げている小さな木の欠片を持ち上げる。

(そうやな。妖精以外は立ち入り禁止やから見れんけどな。)

「そうなの。一回見てみたかったけど、入れないなら仕方ないの」

セレナは自分の尻尾を石鹸で洗いながら、少し残念そうな顔をする。


「とりあえず、やっとたどり着いたんだからのんびりしよう。シルフィンも友達と積もる話があるでしょう?」

馬車コースターの次に特級魔法を使った千夏はくたくただった。

千夏はお風呂から上がると珍しくご飯も食べずに天幕でぐっすりと眠り込んだ。


次の日の朝。

朝食が済むと、アンジーからお茶の誘いを受けた。

お茶の席にはアンジーと同じくらいの大きさのおっとりとした女の子がじっと千夏達を興味深げにみている。彼女は波打つ銀髪に深い青い瞳をした美しい少女で淡いブルーのドレスを着ている。


『紹介します。水の妖精王のリリーです』

アンジーが隣の少女を紹介する。


「!!」

ぱくぱくとアルフォンスが何かを叫んでいる。

昨日からアルフォンスが興奮しすぎてうるさいので、ここに来る前に千夏にサイレンスの魔法をかけられていたのだ。


千夏は紹介された妖精王の美貌よりもいままで見たことがない大きな気に驚く。

タマのおよそ6倍ほどの大きな気だった。

アンジーのときには感じなかった恐ろしい威圧感が、目の前の妖精王から伝わってくる。


『風の妖精の谷を助けてくれて、ありがとう。私たちは互いの谷への干渉はできないの』

リンと鈴の音のような高らかな声でリリーは感謝の言葉を述べる。

『久しぶりに使われた「水雷天上」を見届けるためにこちらに来ました。あの魔法は一歩間違えると、この島の半分が海に沈むわ』

リリーはちらりと千夏のほうをみる。

水の妖精王の言葉に千夏は冷汗をかく。


『大丈夫よ。今回の魔法は出力が抑えられているから、島は沈まない』

千夏を安心させるかのように、彼女はにこりと微笑む。

あれで抑えてるのか。

千夏以外の全員が体験した嵐を思い浮かべ、顔が若干ひきつる。

千夏も自分が解き放った魔法のすさまじい威力に若干不安を感じていたので、ほっとする。


『アンジーもこれで力を取り戻せるわね』

リリーの言葉にアンジーが頷く。

アンジーの力のほとんどをこの森を維持するために使っている。

それだけで手いっぱいで、新しい風の妖精を生み出す力は100年ほど使えなかった。


風の妖精の数が増えないと、この世界の風が澱む。

現に、この島に雨が降らないのも風が止まり始めたからだった。


『世界樹を守るために、外界とこの森を切り離した。でも、そのせいで少しずつ世界に影響がでてきてしまった。あなた達のおかげで、やっとバランスを戻すことができる。ありがとう』

アンジーはにっこりと千夏達に微笑んだ。


「私たちはシルフィンにはとてもお世話になっているの。チナツのおかげで恩返しできたの」

セレナがテーブルの中央に座るシルフィンに視線を向け、にこにこしながら答える。

『まぁ、おいらの仁徳やな』

えっへんとシルフィンが得意そうに胸を張る。


『シルフィンもずっとこんな狭い場所にいて窮屈だったでしょう?空間をもとに戻したらすぐに剣からシルフィンを分離させるわ』


『ちょいまち、それはあかん。また魔族が人に宣戦布告しやったんや。戻るわけにはいかん』

シルフィンは大きく手を振る。

『おいらはこいつらと魔族と戦うつもりや。ここに来たのはアンジーなら、チナツを強化できるんやないかと思ってきたんや』


『また争いが起こるのね。やっと世界樹の葉の色が少しずつもとに戻り始めたというのに』

アンジーはそっと目を伏せる。


『魔族の数がへっとるが、人も長い間の平和で平和ボケしとる。300年前と比べるとほとんど使える戦力はない。国の兵が集まっても低級魔族もあしらえんかったしな。人の世が荒れる』

シルフィンの重々しい言葉にその場は静まり返る。


『流れる血は少しでも少ないほうがええ。ほんでなにかメイン火力のチナツを強化できないかと思ってな。ここまで来たんや。妖精王ならなんとできへんか?』

シルフィンは二人の妖精王の前にでんと胡坐をかく。


本来妖精は人の世に影響を与えることを嫌う。

だが、300年前にあまりの血が流れ世界樹が枯れ始めたこともあり、人と魔族の戦いに介入することになった。


今回もまた同じことが起きるとシルフィンは言うのだ。

2人の妖精王はしばらく黙り込む。

先に沈黙を破ったのは風の精霊王だった。


『わかりました。私からはこれを授けましょう』

アンジーは翡翠の大きな宝玉が入った指輪を千夏に渡す。

『召喚の指輪です。この召喚の指輪は私を呼び出すことができます。あなたにはとても大きな恩があります。どうぞ持って行ってください』


「ありがとうございます」

千夏はアンジーに礼を言ってからその指輪を右腕の薬指にはめ込む。

この指輪も自動調整機能があるようで、千夏の指にぴったりとした大きさに変動する。


「きらきらして綺麗でしゅ」

千夏のはめた指輪をうっとりとタマが見つめる。


シルフィンは驚いたように目を、ぱちぱちと何度も閉じたり開けたりしながら2人を見ていた。

前回の魔族との戦いでも妖精王は世界樹の木を守るために戦に参加しなかった。

思いがけない大きな贈り物にシルフィンはとまどう。


『アンジー、ええのか?』

『ええ。今回の雨が降らなければ、200年後にはこの森の世界樹は枯れる状態でした。せっかく元の環境に戻してもらっても、また世界樹を枯らすことになるほうが問題ですから。ただし、私の召喚は私がこの森の魔法を解いてからにしてくださいね』

最後のほうは千夏をほうをみてアンジーは答える。

千夏はアンジーの言葉に頷く。


『それでは私からはあなたに加護を』

リリーは、4対の透明な羽をはばたかせ、千夏のとなりに移動すると頬に口づける。

同性の美少女からの口づけに、千夏は少しドギマギする。


千夏はすでに水の加護を受けていたが、妖精王の加護はまた違う。

妖精王の加護は水属性の魔法を使用するときに、魔力消費量が今までの半分で済むという大きな効果があった。


『なぁ?もう大事な話は終わったんか?』

フィーがつんつんとアンジーの袖を引っ張って尋ねる。

アンジーが頷くと、フィーはにっこりと笑うと『こっちに来るんや!』と皆を先導する。


フィーが案内した先は森の泉だった。

そこには大勢の妖精が集まっていた。彼らの目の前には大量の果物や木の実が大きなぱっぱの上に並べられている。

『さぁて、宴会や。座って、座って。うちら特製の蜂蜜酒もあるんよ』

フィーが楽しそうに手招きする。

「わぁ、見たことない果物がいっぱいだぁ」

千夏は招かれた席に座る。目は目の前の果物にくぎ付けだった。


『それでは、シルフィンの帰還と恵みの雨に感謝して!乾杯!』

『『『『『乾杯!』』』』』


すみません。ご指摘いただいた謝文を修正しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ