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ヒュドラ

ヒュドラがいるといわれている沼地まであと少し。

そこから3日ほどいくと山脈地帯に入る。山を超えて目的の妖精の谷まで、一週間以内にはたどり着けるだろう。


「あれが、沼地か」

アルフォンスは遠くに見えはじめた沼地を眺めた。

枯れた荒野にぽつりと広い沼が広がっている。

ここが砂漠だったらまさにオアシスに見えるだろう。

だが、近づいてくるにつれ見えてきたのは泥沼できれいな水ではなかった。


「水の中になにかいるな」

レオンがちらりと沼を見てそういった。

(沼の手前にもなんかおるで。気が大きい。人やないな。馬車はここで降りた方がええやろう。)

シルフィンの助言に馬車が停止する。


突然止まった馬車にエルザが怪訝そうに「どうしたの?」と質問する。

「沼の手前に魔物がいるみたいなの」

セレナが馬車から降りながらそう答える。


「暑い・・・」

そとはカンカン照りで、厳しい日差しが痛いくらいだった。

千夏は馬車を降りると、アイテムボックスから凍った海水を取り出し、すぐに水膜の魔法を全員にかける。

沼に向かって先頭を歩くのはキールとエリザ。そのあとを千夏達一行がついていく。


沼のほとりでうろうろしている大きな鳥が2羽みえる。

鶏の羽を緑に染め上げたような鳥だった。

2本脚で沼地の周りをうろうろと歩いている。


「コカトリスだ!」

先頭を歩くキールが全員に注意を促す。

千夏は耐石化魔法をパーティとキール、エルザに向かってかける。

その隣のリルは速度上昇と防御上昇の支援魔法を全員にかけている。


コカトリス。全長およそ3メートル。大きな体だがすばしっこい2本の素早い脚を持つ。

巨体をつかって体当たりし、鋭い嘴や足の鉤爪で攻撃をしてくる。

なかでもやっかいなのは「石化」スキルを持っていることだ。

「石化」の有効射程はコカトリスの前方およそ2メートル。前衛は常に石化の危険がつきまとうのだ。


ラヘルのダンジョンで手に入れた石化・毒無効の腕輪はアルフォンスがつけている。

少なくてもアルフォンスには石化は効かない。

せっかく今魔物と離れているのだ。魔法で攻撃すべきか千夏は悩む。

ぞろぞろと近づいていったのでコカトリス側もこちらに気が付いている。

ぴたりと二羽は立ち止ってじっとこっちを見ている。


(タマが最初に突入して、注意をひいている間に距離をつめる。)

シルフィンが作戦を決めると、すぐにタマは竜に戻ると翼を広げ上空に舞い上がる。

すぐにコカトリスの上空まで近づくとくるりと旋回し、右側からコカトリスに向かってタマは突っ込んでいく。


「グゲェェェェェェェェェ」

コカトリスは大きな鳴き声を上げると素早い脚をつかって逃げはじめる。

ダンジョンの魔物とは異なり、普通の魔物は上位捕食者がいる場合は逃げるのだ。

あっさりと逃げ出したコカトリスにアルフォンスはがっかりする。

「竜相手じゃ逃げるわな」

キールは脱兎のごとく逃げ回るコカトリスを見て苦笑する。


一行がゆっくりと徒歩で沼地に向かっている間、タマはコカトリスを追いかけまわして、遠くまで引き離していた。

「沼の中になんかが2匹いる。気の大きさは同じくらいだから、両方ともヒュドラかもしれないね」

沼のほとりに着くと千夏がじっと沼を見てそう告げる。


「さて、どうやっておびきだすんだ?」

アルフォンスが尋ねるとキールは腰にぶら下げていた革袋を取り外す。

「誘発剤だ。これをまくと魔物が近寄ってくる」

キールは革袋の中身を沼のほとりにまく。


「誘発剤の効き目はおよそ10分。もしかしたら他の魔物もつられてくる可能性がある」

キールは背中に背負った戦斧を手に構えながら水面を睨むように見つめる。

エルザも双剣を抜き、いつでも戦闘できるように構える。

ヒュドラ相手ならとリルが全員に毒耐性魔法をかける。


「来るぞ」

後ろで観戦モードのレオンが呟いたと同時に沼地の水面が盛り上がっていく。

水面の盛り上がり、二匹のヒュドラが水面から顔を出す。

セレナはすぐさま腰の短剣を抜き、ヒュドラに向かって投げ放つ。

ヒュドラは短剣をよけ、水辺にいる人間たちに向かって威嚇のために口を大きく開ける。


「「シャァァァァァァァァァァァ!」」

水面をすべるように2匹のヒュドラは人間たちに向かって突撃してくる。

「左はまかせた!」

キールは突撃してくるヒュドラに到達点に向け、戦斧を左から右へすばやく振りぬく。

ビュッ。重く素早い一撃が風を斬り右のヒュドラの頭を狙って振りぬかれる。

ヒュドラは自分の頭に迫りくる巨大な戦斧から体を右にそらすために、体をひねって沼から右側の大地へ転がるように回避する。自分で出していたスピードをうまく殺せなかったからだ。


「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

キールが戦斧を振りぬいてたときには、すでにエルザは右に転がり込んできたヒュドラの正面に立っていた。

横転するヒュドラに向かってエルザの双剣が十文字に左顔面を深く切り裂く。

エルザの斬撃で左目を潰されたヒュドラはびくんと体を一度震わせると、エルザから距離を置くために今度は左へと体をひねる。


だがそこにはすでにキールが走りこんでいる。

キールは自分のほうに寄ってきたヒュドラの右眼を狙い、戦斧を振り上げる。

唯一残った右眼でキールの突撃を察知したヒュドラは、斧の軌道から頭を反らす。

だが、キールも素早く右手首をひねり、振り下ろした斧をそのまま下からななめ上に向かって振り上げる。斧がヒュドラの下顎をすべるように切り裂く。


「さすがAランク。二人の連携もすごいわ」

左右両方から同時にヒュドラに斬りかかる、キールとエルザのピッタリと息が合った連係に、千夏は拍手を送る。

こっちのほうは安定していて問題はないだろう。

問題はアルフォンス達のほうだ。


もう一匹のヒュドラはまだ沼の中だった。

アルフォンスやセレナが斬りかかるとヒュドラは沼の中に潜ってそれを回避する。

ヒュドラが出てきたと思ったら、毒の息をすぐさま二人に向かってまき散らす。

千夏の隣に立っているリルが急いでセレナにキュアをかける。


「長期戦だな」

レオンがじたばたと暴れるコムギを拘束したまま、2人の戦いの感想を述べる。

放っておくとコムギがヒュドラに向かっていってしまうからだ。

さすがに今回は噛みついたら、沼の底に沈められてしまうため戦闘に参加させていない。

「ヒュドラが出てきて毒のブレスを吐くときに斬りにいってるが、岸から離れているので当たらない。普通の攻撃では駄目だな」


2人ともほとんど無傷なため、千夏は介入できない。

手を出すなと言われているからだ。

沼地を凍らせてしまえば楽になるのにな。と千夏は歯がゆい。


2人はじっと泥沼に潜り込んだヒュドラが出てくるのを待っている。

「あれ、構え方変えた?」

2人そろって剣を左下にし、剣先は地面についている。

先程まではヒュドラが出てきたときに、すぐに突き出せるように正面に剣を構えていた。


水面が持ち上がり始めるが二人はその位置から動かない。

千夏では目で追うことができないスピードで二人は剣を振り上げる。

ビュッと風斬り音が鳴り、ヒュドラの首筋から血が流れる。


「なんでヒュドラが斬られているの?」

ヒュドラと二人の間は一メートルほど離れている。

2人はその場から動いていないので剣が届くわけがない。


(斬撃波や。離れている相手に斬撃を飛ばす技や。全然うまくいっとらんがな。)

千夏の問いにシルフィンが答えてくれる。

「うまくいってないって、ちゃんと当たってるじゃない?」

(本来の斬撃波は岩をも両断する。威力が伴っておらんやろ。辛うじて当たってるだけや。剣の振り上げと体のひねりのタイミングがずれとる。もうちっと調整が必要やな)


シルフィンの言葉に二人は頷く。

それから10分ほどすると、キールとエリザが戻ってくる。どうやらヒュドラを倒したようだ。

2人は少し怪我をしていたので、リルがヒールをかける。


アルフォンスとセレナは何十回目の斬撃波を放っている。

「あっち手伝ったほうがいいか?」

キールの問いかけに千夏は首を振る。どうやら少しつかめてきたようで、ヒュドラへの斬りこみが大きくなってきたところだったのだ。


「集中力が切れるまで好きにさせてあげてください。お茶はいかがですか?」

エドはキールとエリザに椅子を勧める。

キールは椅子に座ると、エドが淹れてくれたお茶を飲み笑い出す。

「Aランクの魔物との戦闘中でお茶を飲む。なかなか洒落ているじゃねぇか」


この長期戦で戦っている二人はもちろん大変なのだが、実は一番リルがきつい。

2人は技の練習に集中しているので、たまにヒュドラが物理攻撃を仕掛けてくると回避できずに傷を負う。それから毒ブレスの対応でキュアもかける必要がある。

千夏はリルから例の魔力譲渡の指輪を借り、リルに魔力を供給をしている。


千夏も席について淹れてもらったお茶を一口飲んだ時、風斬り音が変わった。

ザシュ!

その音が鳴ると当時にヒュドラの首を半ばまで切断されている。


「あ、少しわかったの」

セレナは嬉しかったのかその場でピョンと跳上がる。

「どうやったんだ?」

アルフォンスが尋ねると「腰のひねりがポイントなの。ちょっとやってみるの。みてほしいの」

セレナはまた奇妙な構えをとり、ヒュドラが出てくるのを待つ。


次こそはヒュドラが怒り狂って沼から出てくるだろう。ここに必殺の一撃を放ちたい。

セレナはじっと待っていると、再び水面が盛り上げってくる。

ヒュドラが顔を出した瞬間、セレナは技を発動させる。

さきほどより心持ち、腰のひねりをためてから放った。


ザシュ!

さきほどとは別の場所に斬撃波があたり、ヒュドラは体中央を一刀両断された。

ヒュドラが「キシュュュュュュュュュュュュュュュ!」と叫び声を上げる。

下半身と上半身をつなぐ胴体が切られたため、ヒュドラはそのまま、岸に向かって倒れた。

それでもまだ生きているヒュドラは斬られた下半身を沼地に置き去り、ついに地上戦をしかけてきた。


セレナはそのまま、ヒュドラと乱戦に入る。

アルフォンスのほうは、先ほど見せてもらった手本を脳裏に焼き付け、斬撃波を繰り出す。

見本が効いたのかアルフォンスの放つ斬撃波もヒュドラの頭部を大きくえぐる。


2人の技を見ていたエルザは、右手の親指を噛みながら自分の双斬剣とあの技がぶつかった場合、どうなるのかを頭の中で試算する。

自分で出した試算結果に嫌な汗がながれる。


双斬剣は気を込めなければならない。一度失敗するとすぐには繰り出せない。何度も放てる技ではないのだ。だが彼らは連続であの技を放っている。

エルザはリフレクションブレイクの存在を知らない。もし彼女がそれを知ったら、驚きのあまりに声が出なくなっていただろう。


「あれはどのくらい離れて撃てるものなのですか?」

(今は無理やろうけど、最大10メートルはいける)

エドの質問にシルフィンからすぐに答えが返ってくる。


「なるほど。リフレクションブレイクと斬撃波。対魔族にそなえて中距離を意識した技ですか」

エドは感心したように斬撃波の練習を繰り返すアルフォンスを見ている。

セレナのほうは俊敏を生かし、迫りくるヒュドラの牙をかわしくるりと反転し、そのまま右眼に鋭い突きを送り込む。


最後はアルフォンスが斬撃波でヒュドラの首を斬り落としたことで決着がつく。

ヒュドラが倒れて動かないことを確認した後、集中力が途切れたセレナとアルフォンスはばたりと倒れる。戦闘開始から一時間、ずっと気を張っていたのだ。


(ギリギリやけど、合格点やるわ。お疲れさん)

口調は厳しいが、うれしそうにシルフィンは倒れた二人に声をかけた。

前日にMSアカウントのパスを変えたらログインできなくなって、焦りました。

ぎりぎり定期時間間に合いませんでした。

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