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メガ・チャーチル起動まで残り30分。ランスは未だアーチャーとの交渉を続けていた。
交渉材料は、引き続き13年前の事件について話せば話すほど自己矛盾へ陥ることはわかっていたが、それでもランスは追求せざるを得なかった。
「アーチャー、私は妥協点など持たない。軍縮を招いたことも、メガ・チャーチルだって全てこの国、ひいては世界に安寧をもたらすためなのだ」
アーチャーが口を開くのは、ランスに異を唱えたいからではなかった。13年前に起きた事件、その裏で起きていた技術流出が、今回の南アフリカからの侵攻を招いたのだと既に知っていたからである。しかし、その事実を公にするということに、ランスは耐えられないだろうと理解していた。だからこそ、できる限りの言葉を選び、冷徹に、機械的にアーチャーは言った。
「私は、この国の頭だ。たとえ、指の1、2本を飛ばしても、心臓を動かし続ける義務がある」
アーチャーの口から発せられる言葉が、単に役職に責任を押し付けたものにしか思えなかったランスは続けて言った。
「そんな虚言で我々を騙し、犠牲を払うのか。お前にも家族がいるはずだ。自分の子供に同じことが言えるのか」
アーチャーはランスの目をまっすぐ見ると
「あぁ」
と乾いた返事だけを返し、目を逸らした。
ランスは、その返事が首相としてではなく、1人の人間としてのものだとわかっていた。だからこそ、胸の奥から湧き上がる人としての慈悲と、体を覆う怒りの間の悔しさに身震いした。
アーチャーは、ランスを見るといつものように心の演算機が、煙を上げているのだと理解し、少しだけ安心した。そして、その隙をついて部屋を出た。
12年前 マダガスカル
「ベン、準備は」
指揮官が告げる
「あぁ」
部下からの合図を聞き、私は答えた。
ベンという秘匿名も慣れてきた。これは私の名前と部隊のBendからきている。ターゲットの記者が、空港からこちらに向かうのを確認すると、私はカフェのテラスから手信号を送り部下に追わせる。今日この日の作戦のため、私たちは様々な妨害工作を行った。電子通信のイタチごっこに始まり、フィジカルデータを送り合うまで相当な時間を要したのだ。この機は逃せない。
記者を中心に囲うように、部下の配置が完了する。私はポケットから携帯を取り出し、指令部へ報告した。
「商談は順調に済みました。直帰します」
私は席を立ったところで、数名の客がこちらをみていることに気づいた。動揺を見せぬように店を出ると、ポケットにそっと手を入れ、携帯で警戒信号を共有した。
私はそのまま搭乗口に向かうフリをしながら、脱出口へ歩く。そこで、私から対角線上にいる4人の男の革靴の底が、二層になっていることに気づく。これは南アフリカ軍属特殊部隊の官給品だ。その間に機器が挟まれているから、重心が傾いて歩き方も独特になる。
部下へ陽動作戦の信号を送る。脱出口より最も遠いトイレへ仕込んだ臭気ガス袋を使い、テロを疑わせる。勿論ガスは無害だが。
狙い通りに2、3人の見張りが離れたところで、着信音を流し私は携帯をとった。
「もしもし、お世話になっております。汽車ですか」
私の問いかけに、部下が答える
「汽車ですが―」
言い終える前に電話途切れ、衝撃波と窓が割れる音が聞こえた。
すかさず、指令部より指示が飛ぶ。
「今すぐに撤退しろ。奴らゲリラと組み、民間人も構わず強奪する気だ」
私は自分の認識の甘さを嘆いた。特殊部隊であれば、私に見抜かれるような振る舞いはしない。つまり、私が特殊部隊だと思っていたのは、官給品を身に纏ったゲリラだった。私は繰り返し全員へ撤退命令を出すと、脱出口へ走った。私は全員の脱出を確認しなければならない。
防弾ブリーフケースを胸に当て走る。少なくともこれで心臓は守られる。
私に釣られ、2人の刺客が追いかけてくる。
「止まれ」
という声が聞こえるが止まれるはずもない。
長蛇の列になっているエスカレーターをすり抜け、手すりの間を滑り降りる。右手に見える階下から、部下が脱出口へ向かうのが見えた。
一番下まで降りたところで、勢いを殺さず走り出す。似たような服装の部下4人と合流し、移動しながら報告を受けた。
「ランサーとパーシーは、どうした」
ギャラティンが、息を切らしながら言った。
「パーシーは連絡が途絶え、ランサーは」
そう言ったところでギャラティンは、モルドーの方へ向いた。モルドーは黒いビニール袋を抱えていた。




