第9話 保護対象
会議室へ戻る頃には、外は暗くなっていた。
ランプへ火が灯る。
アンセスたちは別室へ戻されている。
今この場にいるのは帝国側だけだった。
最初に口を開いたのはセヴィだった。
「北州局では限界があります」
椅子へ深く座る。
「十六人は多い。怪我人も多い。異変対応を続けながら抱える人数じゃありません」
副官も頷いた。
「監視も必要です。兵も足りない」
レイヴンが聞く。
「現場判断としては?」
「長期保護は厳しいです」
即答だった。
ライネが記録を書きながら顔を上げる。
「でも、放り出す訳にはいきませんよね」
「当然だ」
レイヴンが返す。
「問題は処遇だ」
コヒスが腕を組んだ。
「法にも記録にも先例がありません。分類そのものが存在しない」
ライネが小さく首を傾げる。
「異変対象では?」
セヴィは首を振った。
「違うと思います。少なくとも、あの人たちは現象じゃない。巻き込まれた側です」
コヒスも続ける。
「断定は早いですが、意図的侵入の証拠もありません」
レイヴンが机を軽く叩いた。
「整理する」
「捕虜ではない。戦争状態でもない。犯罪者でもない。敵対行動も確認されていない」
少し止まる。
「つまり」
「分類不能だ」
誰も否定しなかった。
沈黙。
ランプが小さく揺れる。
レイヴンは数日前を思い出していた。
◇ ◇ ◇
『確認だ』
皇帝はそう言った。
『刺激するな』
『囲い込むな』
『まず見ろ』
短い指示だった。
だが。
最後の言葉だけは覚えている。
『人なら、人として扱え』
◇ ◇ ◇
思考を戻す。
ライネが静かに言った。
「アンセスさん達は協力的でした。逃げようともしてません」
副官が返す。
「逃げられないだけかもしれません」
「それでもです」
ライネは少しだけ唇を尖らせた。
コヒスが口を開く。
「分散が妥当でしょう。十六人を一括移送する意味がありません。むしろ危険です」
セヴィも頷く。
「北州局へ支援を入れて、一部だけ動かす方が現実的です」
レイヴンが考える。
「方面軍へ支援要請。監視要員と医療要員を回す。北州側はそれで維持する」
副官が聞く。
「移送対象は?」
レイヴンが答えた。
「アンセスは連れて行く」
異論は出なかった。
対象集団の最高位者。
意思決定者。
そして現状、唯一の交渉窓口だった。
ライネが聞く。
「同行者は?」
少し沈黙。
コヒスが答えた。
「単独移送は避けるべきです。対象側も不安定になる」
セヴィも頷く。
「部下を置いて、自分だけ帝都行きです。反発が出ても不思議じゃない」
レイヴンが結論を出す。
「もう一人連れて行く」
「誰を連れて行くかは本人に決めさせる」
ライネが少し安心した顔をした。
「その方がいいと思います」
副官が最後に聞く。
「分類は?」
レイヴンは少し考える。
外国人じゃない。
捕虜でもない。
異変そのものでもない。
なら。
「保護対象」
短く言う。
「少なくとも今は、それでいい」
コヒスが記録へ書き足した。
『第三六号』
『処遇決定』
『保護対象』
『代表者移送』
別室へ向かう途中。
セヴィが聞く。
「同行者、本当に本人へ決めさせるんですか」
レイヴンは頷く。
「連れて来られた側だ。その程度は渡す」
二人はそのまま別室の扉へ向かった。




