第75話「終わらない支配」
「だよね」
少女はあっさり頷いて、そのまま、壁から離れる。
「今の帝国は今までにないほど安定しているからね」
少女は軽く言いながら、一歩前に出る。
「今は戦争もない。反乱が起こることもない。市場も安定的に回ってる。全部が綺麗に整ってるしね」
指で空中をなぞるようにして続ける。
「だから――“揺らぎ”がまったくない」
少女は言い切って、リベナを見る。
「普通はさ、どっか歪むんだよ」
軽く肩をすくめる。
「強すぎる国も、広がりすぎた支配も、どっかで無理が出る」
「……でも帝国は違う」
リベナが静かに言葉を継いだ。
少女は頷く。
「そう。違う」
「だから各国は不安になる」
一拍。
「強すぎる上に、崩れる気配がまったくって程にないからね」
その言葉は、あまりにも的確だった。
リベナは目を細める。
「押さえつけられている側は、常に“いつ壊れるか”を考えるものよ」
「でも壊れない」
「ええ」
静かに肯定する。
「だから余計に怖いの」
沈黙。
少女が小さく笑った。
「この国には魔力があるし、しかもその魔力は皇帝のみに引き継がれる」
少女はそう言って、リベナの反応を見る。
「だから、誰も逆らえない」
軽く言う。
「軍でも、経済でもない。“個”で全部ひっくり返される」
リベナは静かに目を細めた。
「……ええ」
短く肯定する。
「この世界で一番分かりやすい力よ、分かりやすすぎるけどね」
少女は肩をすくめる。
「地位とか金とかなら、まだ裏切れる。でもあれは無理」
一拍置いて、少しだけ声を落とす。
「裏切った瞬間、消される」
空気が、わずかに重くなる。
リベナは否定しない。
「だから各国は従う」
淡々と言う。
「従う以外の選択肢がないからね」
「でもどの国も納得はしてない」
少女がすぐに続ける。
「でもどの国も納得はしてない」
リリがすぐに続ける。
「従ってるのは、“従わされてる”からでしょ」
軽く言う。
「選択肢がないだけよ」
リベナは否定しない。
「ええ」
短く答える。
「だから全員、待ってる」
「……何を?」
リリが少しだけ笑った。
「しかし、魔力がある限り帝国は絶対に崩れない」
リリはあっさりと言い切った。
「そこが問題なんだよね」
リベナの目がわずかに細くなる。
「……問題?」
「そう」
リリは肩をすくめた。
「崩れないってことはさ、“変わらない”ってことでしょう」
一拍置いて、彼女うは続けた
「止まったままの構造は、いずれ腐る」
空気がわずかに重くなる。
リベナは黙って聞いている。
「各国が怖がってるのは“強さ”じゃないと思うわ」
リリの声が少しだけ低くなる。
「“終わらなさ”だと思うのよね」
短い言葉だったが、その言葉は鋭かった。
リベナはゆっくりと息を吐く。
「……終わらない支配」
リベナが静かに呟く。
リリは小さく頷いた。
「そう。終わらないってことは、“逃げ場がない”ってことなんだよ」
空気がわずかに張り詰める。
リベナは目を逸らさずに言う。
「だから各国は従う、でも同時に考えてる」
「どうすれば終わらせられるか、でしょ」
リリがあっさりと言う。
「ええ。でも無理よ帝国は何があろうと崩れない」
一拍置いて続ける。
「魔力がある限り、帝国は壊れない」
リリが小さく笑う。
「だから“外”じゃなく“中”を見る」
リベナの視線がわずかに細くなる。
「壊すなら内部しかない」
短い沈黙。
「皇帝か、皇太子か」
リベナが低く呟く。
リリは肩をすくめた。
「どっちに触れても終わりだけどね」
「だから直接は触れない」
リベナが即座に返す。
「周囲から削る」
「連合だね」
「ええ」
視線が帝城の方向へ向く。
「連合は偶然じゃない。“揺らぎ”を管理するために作ったんでしょう」
「そしてその連合を作ったのが15歳の皇太子、そして今回はその婚約者を能力で選ぼうとしている」




