第62話 会談の前触れ
次話は明日19時投稿予定です。
晩餐会まで――三日。
帝国皇城。
皇城の奥にある会議室には、数人の男たちが集まっていた。
長い机。
壁には大陸地図。
中央に座るのは――
皇帝。
その右には皇太子アルト。
そして机の両側には帝国の公爵たちが並んでいた。
アルノー公爵。
ラインハルト公爵。
モンテリオ公爵。
そして――
デスト公爵。
元魔王国第三王子レグナ。
今は帝国の公爵として、旧魔王国の地を治めている。
帝国を支える四公爵。
大陸でも屈指の権力者たちだった。
皇帝がゆっくりと口を開く。
「各国の代表はもうすでに帝都に到着している」
低く落ち着いた声。
ラインハルト公爵が答えた。
「はい」
「タン王国、ブロドン共和国、アジス獣王国、エストル樹国」
「そしてシドル大公国」
「すべて皇城に到着しております」
モンテリオ公爵が続ける。
「護衛や従者は各辺境伯の帝都屋敷へ」
「皇城には代表と少数のみ滞在させています」
「問題はありません」
皇帝は軽く頷いた。
そして視線をアルトへ向ける。
「どう見る」
会議室の空気が静かになる。
アルトは机の上の地図を見ていた。
帝国を中心に、周囲に並ぶ国々。
そして静かに言う。
「警戒していますね」
アルノー公爵が腕を組む。
「海洋国」
「そして魔王国」
アルトは頷いた。
「短期間で二つの国が帝国領になりました」
「各国が警戒するのは当然です」
その時だった。
デスト公爵が小さく笑う。
「まあ、当然でしょうね」
低い声。
元魔王国の王子――レグナ。
彼は椅子に深く座りながら言った。
「魔王国が帝国の公爵領になったんだからな」
モンテリオ公爵がちらりと見る。
「不満か」
デスト公爵は肩をすくめた。
「まさか」
「今の方が面白い」
そしてアルトを見る。
「だろう?」
アルトは表情を変えなかった。
皇帝が言う。
「だから晩餐会だ」
短い言葉。
だが意味は明確だった。
帝国が無意味に拡大しているわけではない。
それを示すための場。
その時だった。
扉の外から声がする。
「陛下」
「アジス獣王国のメラノ獣王が、拝謁を求めています」
会議室の空気が少し変わる。
皇帝は言った。
「通せ」
扉が開く。
そして巨大な影が部屋に入ってきた。
獅子の獣人。
メラノ・アジス獣王。
彼はゆっくり歩き、皇帝の前で止まる。
「皇帝」
皇帝は静かに答える。
「どうした、獣王」
メラノは腕を組みながら言った。
「各国が帝都に集まったみたいだな」
「ならば」
少しだけ笑う。
「一度顔を合わせたいと思ってな」
アルノー公爵が眉を上げた。
メラノは続ける。
「晩餐会の前に、各国の代表で会談をしたい」
会議室が静かになる。
ラインハルト公爵がアルトを見る。
アルトは少し考えた。
そして皇帝へ視線を向ける。
皇帝は短く言った。
「構わん」
メラノの口元に笑みが浮かぶ。
「話が早い」
皇帝は続ける。
「場所は帝国が用意する」
メラノは頷いた。
「では各国へ使者を送ろう」
皇帝は言う。
「好きにするがいい」
メラノは軽く笑った。
「感謝する」
そして踵を返す。
巨大な獅子の王は、そのまま会議室を出ていった。
扉が閉まる。
少しの沈黙。
モンテリオ公爵が言った。
「面白い男ですな」
アルトは静かに言う。
「各国の本音を聞きたいのでしょう」
皇帝は頷いた。
その日のうちに。
メラノ獣王は各国へ使者を送った。
タン王国。
ブロドン共和国。
シドル大公国。
エストル樹国。
内容は一つ。
各国代表による会談。
場所――帝国皇城。
日時――
晩餐会前日の昼。
そして。
各国の返答は――
すべて同じだった。
承諾。
帝都の空は静かだった。
だがその裏で。
大陸の国々は確実に動き始めていた。
晩餐会まで――
あと三日。




