第56話 西の王
次話は明日19時に投稿予定です。
晩餐会まで――十三日。
帝国帝都。
巨大な城壁の前に、一つの使節団が到着していた。
黄金と赤の旗。
中央に描かれているのは太陽の紋章。
タン王国の旗だった。
西方の大国。
古くから続く王国であり、帝国とも長い交易関係を持つ国である。
先頭の馬車が止まった。
扉が開く。
中から一人の男が降りた。
堂々とした体格。
年は四十代ほど。
王としての威厳を持つ男。
ハイトス・タン王。
ハイトス王は帝都の城壁を見上げた。
高い。
そして広い。
帝都の城壁は王都クレスタンのそれよりも明らかに巨大だった。
「……さすが帝国だな」
低く呟く。
その時。
城門の奥から一団の騎士が現れた。
先頭の男が馬を降りる。
帝国貴族。
アイゼンヴァルト辺境伯。
タン王国の担当を任された人物だった。
アイゼンヴァルト辺境伯はハイトス王の前まで歩き、一礼する。
「タン王国国王、ハイトス陛下」
「遠路はるばる、帝国へようこそ」
ハイトス王は頷いた。
「出迎えに感謝する、辺境伯」
アイゼンヴァルト辺境伯は静かに言う。
「皇帝陛下も到着をお待ちです」
「まずは皇城へご案内いたします」
城門がゆっくりと開いた。
タン王国の使節団は帝都へ入る。
大通りには多くの人がいた。
商人。
兵士。
貴族の馬車。
帝都は常に動いている。
ハイトス王は馬車の窓から街を眺めた。
「活気がある」
「西の都市とは違うな」
アイゼンヴァルト辺境伯が答える。
「帝都には大陸中から人と物が集まります」
「帝国の中心ですから」
ハイトス王は小さく笑った。
「なるほど」
やがて馬車は皇城へ到着した。
巨大な門。
白い石で造られた城。
帝国の中心。
ハイトス王は馬車を降りた。
「見事な城だ」
そのまま城内へ案内される。
長い廊下を進み、大きな扉の前で止まった。
兵が扉を開く。
広い部屋。
中央の椅子に座る男。
皇帝。
ハイトス王は数歩進み、軽く頭を下げた。
皇帝が静かに言う。
「よく来てくれた、タン王」
ハイトス王が答える。
「帝国の招待、光栄に思う」
皇帝は頷いた。
「晩餐会まではまだ時間がある」
「帝都でゆっくり過ごすといい」
ハイトス王は笑った。
「そうさせてもらおう」
そして少しだけ表情を変える。
「それに――」
「聞きたい話も多い」
皇帝は何も言わなかった。
だが。
その意味は理解していた。
海洋国。
そして魔王国。
帝国は短期間で二つの国を取り込んだ。
大陸の国々が気にしないはずがない。
短い会談はそれで終わる。
ハイトス王は一礼し、部屋を後にした。
廊下には帝国の近衛兵が静かに並んでいる。
皇城の中は静かだった。
だが。
ハイトス王は感じていた。
この城の中には、すでに他国の使節団もいる。
ブロドン共和国。
そして、これから到着する国々。
だが――
まだ顔を合わせることはない。
各国の代表はそれぞれ別の区画に滞在しており、帝国側も不用意な接触を避けていた。
晩餐会まではまだ十三日。
本格的な外交は、その時に始まる。
アイゼンヴァルト辺境伯が言う。
「陛下のお部屋へご案内いたします」
ハイトス王は頷いた。
「頼む」
二人は静かな廊下を歩いていく。
帝都。
帝国の中心。
そして今――
大陸の国々が少しずつ集まり始めていた。




